27 魔法
サリーたちの村を出立して2日が過ぎた。王命での婿入りのため、資金は豊富。貧乏商家の一団風にしているので、豪勢なものは食べられないが腹いっぱいには食べられるし、高級宿には泊まれないが一般宿の上級部屋には泊まれるという旅路である。
「アノスジェン様のお顔色もだいぶ良くなりましたね」
馬車の中でアノスジェンの反対側に座るワディンがニッコリと笑った。
「体も少し大きくなっているんじゃないかな。最近よく食べていますもんね。最初の頃は俺が五歳の時より少食でしたよ」
トビーがウンウンと頷くと、大げさな話に二人は笑った。アノスジェンが倒れて以来、馬車の中に騎士が一人付くことになった。今はニールが御者をし、ヘリンが馬で並走している。
「そ、そうかな。ルートン兄様みたいになれたら嬉しいけど」
アノスジェンが頬を赤らめて目を細め照れてうつむくのを見たワディンは悲しいような悔しいような複雑な顔をして強い口調で表した。
「アノスジェン様は大きくなられれば、ルートン様よりずっとかっこよくなります」
「確かにルートン様は切れ長の涼し気な美男子だけど、アノスジェン様は違う美男子になりそうな感じがする。目が大きくて優し気な美男子って路線かな。そういえば、お二人は双子なのにあまり似てないんだね」
「う、コホン。双子がそっくりというわけでもないでしょう」
ワディンが慌てて誤魔化した。アノスジェンとルートンが本当は双子ではなく、異母兄弟であることはセレアン伯爵家の恥部であるため、まだ口にすることはできない。
「確かにそうだね」
トビーは簡単に納得した。馬車の中に騎士が同乗するようになって親密度も増してきて、敬語も時と場所を見極めて使用するようになった。騎士の中で一番年下のトビーはアノスジェンとワディンを弟のように感じている。
そうこうしていると馬車がゆっくりと止まった。
「昼食にしよう」
ニールの声で馬車から降り、森の木陰で朝に買ったパンを広げた。食べ終わりにニールが提案する。
「アノスジェン様とワディンは馬車ばかりで疲れるだろう。少し散歩でもしてくるといい。ヘリン、付き添ってこい。俺たちは馬の世話をするから」
三人は明るい森へ入っていく。しばらく歩くと果物の木があった。
「お、あれはナゴンの実ですね。滋養強壮に効くと言われていて、騎士団の遠征の手助けになってます。味もさわやかで美味いですよ」
敬語が抜けないヘリンだが、知識が豊富で二人にいろいろと教えてくれる。
「せっかく見つけたので、採っていきましょう」
ヘリンが木に登ろうと枝へ手をかけた。
「ヘリンさん、待って。登らなくても大丈夫だよ」
笑顔のアノスジェンが止めた理由がわからず二人はキョトンとした。アノスジェンは木の下まで進むと幹にそっと触れる。
『君の力をわけてくれるかい?』
アノスジェンが心でそうつぶやくと優しい風が一迅ナゴンの木を取り巻いた。アノスジェンが腰元で手を上に向けると風に守られたナゴンの実が5つアノスジェンの手元にゆっくりと落ちてきた。
「ありがとう」
アノスジェンはナゴンの木に笑顔で礼を伝えた。
「ほら、くれたよ!」
振り向いたアノスジェンをびっくり眼の二人が見ていた。
「そんなに貴重な実なの? もらい過ぎちゃったかな……」
アノスジェンのしょんぼりした姿にヘリンが我に返った。
「い、いえ、立派なナゴンの木ですので、5つくらいでしたら、そんなことはないと思います。そろそろ馬車へ戻りましょう」
ヘリンは腰の袋にナゴンの実を入れて前を歩いていった。
『あれは風魔法? だが、アノスジェン様は魔力無しだし。いや、ニールさんが魔力無しは疑わしいと言ってたし。でも、無詠唱だったぞ……』
「待ってください! ヘリンさん!」
ワディンの声にヘリンがびっくりして振り返ると、肩ではあはあと息をする二人が必死に足を動かしてヘリンの方へ向かっていた。
「す、すみません! 考え事をしていてペースを間違えました」
急いで二人の元へと駆けつける。
「だ、大丈夫です……」
消え入りそうな声のアノスジェンは気遣いで笑顔を見せた。その場で少し休憩を入れ、馬車へと戻った。
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少したまったのでしばらく2話更新しまーす。
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