26 波
ニールはふぅと口から息をはく。
「サリー殿。それにしても、顔立ちが似ているというだけでモニィシャ様のご子息だとわかるものですか?」
「それだけではありません。息子を助けてくださったあれはモニィシャ様の魔法と同じものでした」
「「「「魔法?!」」」」
四人は目を見開いた。
「そうです。あのさざ波はモニィシャ様が得意としておられた魔法に酷似しておりました。詳しい発動方法はわかりかねますが、一般的ではないと聞いております」
サリーはモニィシャとの思い出を話し始めた。
モニィシャが懐妊する前、サリーはお祈りの小川へ同行していた。ある日、モニィシャが風で帽子を小川の中腹にまで飛ばしてしまった。
サリーはキョロキョロとボートを探した。
「あらあら」
慌てる様子もないモニィシャは川面に向かって膝をついた。すると静かだった川面か揺れ始め帽子を川岸まで運んできた。サリーがそれを拾う。
「これはね、ちょっとコツが必要なの。力もまあまあ使うから、私の力では帽子を動かす程度ね」
モニィシャはサリーにナイショというような仕草を見せた。
サリーの思い出話を聞いた四人は尚更驚いた。
「しかし、アノスジェン様は魔力は無いと伺っております」
ワディンが声を絞り出した。サリーが泣き顔で答える。
「そうでしたか。魔力を持つ両親から生まれた子供でもそういうことはあるとは聞いております。ならば、あのさざ波は偶然であったのかもしれません。
ですが、私がモニィシャ様のご子息様にお会い出来たのはモニィシャ様のお導きかもしれません。どうかどうかアノスジェン様をお守りください」
サリーはモニィシャの代理だと言わんばかりに深々と頭を下げた。
「どこまでできるかはわかりませんが、私は最後までアノスジェン様にお仕えします」
ワディンがサリーの手を握りしめた。ニールたちはさすがに答えることはできなかった。
サリーを見送りアノスジェンの様子を見に行く。アノスジェンは深く眠っているようだ。ワディンを残して三人は借りている自分たちの部屋へ戻った。
「魔力……どう思う?」
一番年下のトビーは我慢しきれないと声を出す。
ニールを先頭にテーブルに着いた。
「僕たちだって貴族ですよ。大なり小なり魔力はあります。だが、どれだけの魔力があれば、大人一人子供一人を運べる波を流れている川に立てられるっていうのです……」
ヘリンもため息を隠さない。ニールが二人の意見を待てと手でしめす。
「あの波がアノスジェン様のお力であるかどうかはわからない。偶然だとも言える。
だが、アノスジェン様のお血筋が確かな以上、魔力が無いという情報は疑ってもいいかもしれない」
「なんでそんな情報になっているんだろうな。それに、アノスジェン様が生活魔法もできないことは俺たちは見ているじゃないか」
トビーの疑問に三人はうつむいて頭を巡らせた。
「もしかしたら……栄養失調……」
「成長に影響するほどのもの……ということもありえますかね?」
ニールとヘリンが途切れ途切れに答えた。その答えに部屋の空気は重くなるだけ。
「だけど、栄養失調で魔力が枯渇するのはわかるけど、成長が止まるってありえるのか?」
トビーの質問にさらに重くなるのだった。
「それと……セレアン伯爵夫人のことですが……お亡くなりになっているとは伺っておりませんし、先日の見送りにもいらしてましたよね……」
「それは聞いてはならないことだ。俺たちのためにもな。水守の家は不可侵な部分も多い……」
アノスジェンは昼食と夕食以外は寝続けていた。ワディンもそれに付き添う。
三人はいろいろな憶測を口にするが、どれが正解なのかは判るすべもなく、ただ重い空気になっていくだけだった。
翌朝、アノスジェンがようやく立ち上がり、次の街へと出発することになった。
サリーが涙ながらにアノスジェンの手を握る。
「あぁ。本当にモニィシャ様によく似ておいでです。この瞳もモニィシャ様のお色です。アノスジェン様にご加護がありますように。息子もだいぶ良くなりました。次にいらしたときには我が家に寄ってください」
サリーが胸の前で手を組み合わせる。
「みなさまに感謝申し上げます。どうか無事に旅を終えられますように……」
聖女のお世話係らしい美しい祈りだった。
サリーの旦那や兄姉も口々に五人に礼を伝える。サリーたちは遠ざかる馬車にいつまでも手を振っていた。
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少したまったのでしばらく2話更新しまーす。
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