25 見た目
翌朝、アノスジェンが目を覚ますと、心配そうに見つめるワディンと目が合った。ワディンが涙をこぼす。
「申し訳ありません。私がついていながら」
「大丈夫だよ。ちょっと眠くなっちゃっただけ。ここはどこ?」
泣いて話ができないワディンに代わり、ニールが説明して、その間に水ボトルを持ったヘリンとパン粥を持ったトビーが入ってきた。
「アノスジェン様のお体を考えまして、もう一日こちらでお世話になることにしました」
トビーがアノスジェンの口へパン粥を運んでいる間にこれからのことが話し合われた。パン粥を食べ終わるとアノスジェンは見るからにウトウトし始める。
四人が退室したタイミングで村長の家のメイドが声をかけてきた。
「昨日の母親がみなさんにお会いになりたいと応接室で待っています」
応接室に案内された四人は入室すると大きなソファにニールとワディンが座り、その後にヘリンとトビーが立った。一人ソファに座る村長が話しはじめる。
「昨日は我が村の子供が本当にお世話になりました。昨夜は遅くなりましてご挨拶もしっかりできず申し訳ありません」
「いえ、こちらもたくさんのご配慮いただき、感謝いたします。本日もまた宿泊させていただけるそうでありがとうございます」
「なんの、これしきのことでご恩に報いられるかはわかりませんが、ゆっくりとなさってください。みなさんのご活躍を聞いた村人達が食料を持ち寄ってくれたのです」
「ありがたいことです」
「こちらが昨日の子供の母親でサリーです」
「昨日、たくさんお礼をいただきました。本当にこれ以上気にしないでください」
ニールは困ったようにサリーに笑顔を見せた。サリーが目配せをすると村長が立ち上がり部屋を出ていった。
「いえ、今日は別のお話で伺いました。昨日、お倒れになったお方はセレアン伯爵家のご子息様ではございませんか?」
アノスジェンたち五人は貧乏商家の一団の様子で移動しているので、「セレアン伯爵家」と確定されて驚き言葉を失った。そして、貴族の話になるために村長があえて退室したのだと納得した。
「やはり、そうなのですね。お顔立ちやお髪の色がモニィシャ様にとても似ていらっしゃったので。モニィシャ様は再びご懐妊されたのですね」
サリーが嬉しそうに微笑んだ。
ニールとワディンが顔を合わせて訝しみ「再びとは?」と聞いた。サリーは懐かしむように話始めた。
サリーはモニィシャが教会にいる時から聖女の世話係としてモニィシャを担当していたのだが、モニィシャの婚姻でセレアン伯爵家のメイドになった。十八年ほど前、モニィシャの懐妊がわかった頃に結婚が決まりセレアン伯爵家を退職することになる。すでにその頃には愛人がセレアン伯爵家の一室にいたのだが、メイドたちは気を使い、モニィシャには愛人が屋敷にいることは知られないようにしていた。
「モニィシャ様のお立場を憂いていたのですが、再びご懐妊されたということは旦那様に大切にされているということですよね」
ワディンが動揺し、それに気がついたニールがワディンを促しすと、目線をうつむかせたワディンがつぶやくように口にした。
「アノスジェン様はそのご懐妊の際のご子息です」
「え? ですが、十歳ほどのお子様でしたよね?」
サリーは溺れた息子と一緒に馬車に同席させてもらっていたので、馬車の椅子に横たわるアノスジェンを見ている。
「我々も不審には思っている部分はありますが、アノスジェン様が十八歳であると伺っています」
サリーが両手を口当てて息を呑んだ。
「まあ……どのような仕打ちを受けるとあのようなお姿になるのでしょうか……。モニィシャ様はどうなさっていらっしゃるのですか?」
はらはらと涙を流しながらサリーは身を乗り出して詰問する。
「私はセレアン伯爵家にあがって2ヶ月ですが、前奥様は八年ほど前に亡くなったと聞いております。おそらく、その愛人様が現奥様であると思われます」
サリーが愛人の懐妊までは知っていない様子が見てとれたので、ワディンはアノスジェンとルートンの関係を言わないように真実を告げた。
「なんてことでしょう。あの優しかった奥様が亡くなっておられたなんて……」
サリーはハンカチを握りしめた。
ヘリンはワディンの言葉に疑問を持ったが、『これはあくまで護衛の仕事』と今は深く考えるのを止めた。
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少したまったのでしばらく2話更新しまーす。
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