24 贔屓
村に着くと先に連絡が入っていたらしく、村長の家に迎え入れられた。アノスジェンを抱き上げたニールは2階の部屋のベッドへ運んだ。後ろをついてきたワディンはすぐさまベッド脇へ座り込んで泣きそうな顔でアノスジェンをじっと見ている。
「ワディン。お前が倒れたらアノスジェン様が困るぞ。とにかく着替えて飯食べてこい」
ニールが目配せして、トビーがワディンの両腕を後から抱えるようにして外へ出させた。
ニールは椅子を引き寄せてベッド脇に座った。
「十八歳…………なぁ」
王城で初めて見た時から、小ささは当然わかっていた。だが、今日、抱えてみると十歳くらいの子供ほどだった。
「この旅で少しは元気になったと思っていたんだけどな」
やっと自分たちにも笑顔を見せるようになった少年を思うとやるせなくなる。
これは騎士団の仕事だ。要人としてアノスジェンを隣国フオジスト王国へ届ける仕事。要人と言いながら三人しか騎士が付かない。それも、騎士団の中でもさほど強いとも言えないが体力がある三人での、騎士とは言えない格好での護衛で、山賊盗賊が狙いそうにもない金も無さそうで地位も無さそうな男五人旅。
「さらに俺なんぞ、三十過ぎだぞ」
遊び盛りに見えるアノスジェンが本ばかり読んでいることを不思議に思い、ワディンに聞いてみると、教育を受けてこなかったから学ぶことが楽しいらしい。セレアン伯爵家の次男は学ぶことが嫌いで練習も嫌いで社交も嫌いで、自由に遊ぶことしかしないと噂になっていたはずで、ニールたちは出発前は道楽少年を島流しの罪人のように連れて行くと思っていた。
「噂なんて当てにならないってよく言われるけど、本当だな。時間さえあれば、本じゃわからないことも教えてやりたい……。楽しいことも美味いものも」
何を食べさせても初めて目にした物みたいに感動するアノスジェンの顔を思い出し、アノスジェンの頭をそっと撫でる。端々に見える優しい気遣いの中でこちらの反応を怖がりながら見てくる姿、人の親切に慣れず手助けしようとすると恐れる顔、何を見せても驚く表情。どれを考えても噂とはかけ離れていた。
「えこ贔屓はどの貴族家でもあることだ。俺だってこうみえて伯爵家の三男だもんな。まあ、飯に困ったことは無いけど」
兄たちより優遇されなかったとは感じているが、生活に不便さを感じたことはないし、伯爵家という名前のおかげでこの年まで騎士団所属でいられている。
「この仕事が終わったら、実家の領地で子供たちの剣術教室でもやろうかな。子供たちへなら兄貴たちも認めてくれるだろう」
長男ではないという理由で生きていくことが困難なことは商家や文官家でも同じこと。そんな子供を一人でも導けたらいいと考えはじめていた。長兄はすでに領地経営に携わり、剣術の得意な次兄は若くして騎士団を退役し、実家の自衛団を率いている。
「素質のありそうな子供は次兄に頼めばいいし。はぁ……俺って家族に恵まれてるんだな」
ニールはアノスジェンのつぶる目の長いまつ毛を見つめた。
「逃げられる場所になれるかもしれないしな」
誰に聞いたわけでもないが、ニールたちはこの数日の姿で、アノスジェンに帰る家がないことを悟っていたのだった。王都で過ごしていてはアノスジェンやワディンを受け入れられないと考えている。
小さなノック音がしてそっと扉が開く。ヘリンの後ろにニールの反応を伺うワディンがいた。
「トビーは先に休ませました。ワディンはどうしてもアノスジェン様といたいそうですよ。ニールさんも飯に行ってください」
「わかった」と言ってその椅子を譲る。しばらく三人でアノスジェンの様子を見ていた。
「そろそろ休みなさい」
憔悴しているのに寄り添おうとするワディンをヘリンが無理やりもう一つのベッドへ押し込んだ。
「ワディンが寝たら俺も部屋へ戻ります」
「わかった。ワディン、明日からもアノスジェン様のお世話があるだろう。お前に元気がなかったら支えられないぞ」
ワディンは小さく頷いて、一度アノスジェンの方を向いてから目を閉じた。
ニールはふぅと鼻で息を吐いてから部屋を出ていった。
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少したまったのでしばらく2話更新しまーす。
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