3 兄
本日もよろしくお願いします。
井戸の水を汲もうと懸命にロープを手繰るが体の小さい少年には重労働だった。やっと持ち上げられた桶を下に降ろそうとするが左肩に痛みが走り桶をひっくり返してしまった。
諦めて小川で洗いに行こうと立ち上がり、小屋へと続く裏の小道へ入ると上から大量の水が降ってきた。
「うわっぷっ!」
頭を抱えた少年は目をパチパチと動かした。
「本当に汚いな。こんなのが双子と言われていることが恥ずかしい」
振り返ると深紺の髪の青年が夕日色の瞳を細めて見ていた。十八歳の中でも長身の体の青年に離れているのに上から見下ろされていると感じる。
首とウェストがぴったりと締まったジェストコールは彼用に仕立てられた衣装で、派手好きの彼らしく光沢のある緑に金の縁取り、顎を擦る手の近くにはオレンジの宝石がはめられたボタンがきらめいている。
「ルートン兄様……」
「双子と言われたくないと、聞こえなかったのか? 兄と呼ぶな」
「ルートン様……」
「それでいい。機嫌がいいからもう一度洗ってやろう。水球」
ルートンが呪文を唱えると少年の頭の上に1メートルほどの水球が発現し割れた。
「濡れ鼠が……みすぼらしいものだ。乾かしてやろう。風砲」
突風が少年に向かって吹き、少年は水たまりへ尻もちをつき、手を下についてしまい、また左肩に痛みが走り顔をしかめた。
「なんだ、いくらやってやってもキレイにならないんだな。本当に俺のやることを無駄にすることが得意なヤツだ」
「ごめんな……さい」
「今、お前に施してやった魔法がどれくらい貴重かわかってる? 大司祭様の俺様が、直々に2回も洗浄してやって、さらに乾燥までしてやってるんだぜ。これ見たさに女どもが声を上げ、金持ちどもが寄付金を争っているんだ。それを、お前なんかのために観客も無しで披露してやってるんだから感謝しろよな」
「はい……」
「そもそもこの家は俺が首席水守だから生活できるんだぞ」
「ありがとうございます……」
「母親を見殺しにしたようなヤツにわかれと言うことが意味がないのかもしれないな」
フンッとバカにした笑いはうつむく少年には目に入らなかった。ルートンはこの言葉が一番少年を傷つけることを十分に承知していた。
『僕は兄様からお母さんを奪ったから……』
「そのいつまでも小さい体も気持ち悪い。なんだ? 母親を殺した年で大きくなるのを止めたのか? そんなことをしたってお前の罪が消えるわけじゃない」
そこへ屋敷から足音が聞こえた。「チッ」とまだいじめ足りないと言いたげなルートンだったが、見られるのも面倒だと思い茂みを抜けて庭園へ向かった。
「キサマ! こんなところにいたのかっ! 手間かけさせやがって! ルートン様にお前の居場所を聞かれちまった。朝メシのこと、バレてねぇだろうな?」
男は朝ご飯を少年に届けていないことがバレたくない負い目と、ルートンが少年を心配していると思い違いをしているのことで慌てていた。
「こいつがデカくならねぇのはオレのせいじゃねぇっての。これ食ったら草むしりを終わらせろよ!」
紙袋を投げつけて踵を返して屋敷の裏手へ戻っていった。少年が袋を開けるとカビたパンが入っている。男のセリフを考えてると、袋の中身をカビたパンにしたのはまた別の人物のようだ。
『みんな役立たずの僕が嫌いなんだ。わかっている……。はぁ……今日はバーニがあってよかった……』少年は隠した紙包みのところへ行き、バーニを急いで口に入れると草むしりを始めた。
翌朝、小川へ行った少年は祈る。「ルートン兄様、いつもお仕事お疲れ様です。感謝しています。ルートン兄様がいつも笑って過ごせますように。みんなが心安らぐ日々でありますように……」
まるで「聞き届けた」と答えるように川面か輝いたが、少年は目を閉じ一生懸命に祈るので目にすることはなかった。
そして、川面に手を入れる。
「今日も僕のお祈りを見ていてくれたの? ふふふ、くすぐったいよ。僕は大丈夫。ちゃんとできるように頑張るよ」
少年は水の中の友達に挨拶をして小屋へと戻って行った。
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