22 本
食事を終えると次の街へと走り出す。ニールとヘリンはたった半日だけなのに違和感が拭えずその話になった。
「金を知らない十八歳って……いくら伯爵家でもありえるのか?」
「幼い頃からの監禁生活ならありえると思いますよ。ですが、アノスジェン様は社交での目撃情報もあります」
「子供の頃だろう。わがままで社交もしなくなったそうじゃないか……」
「信じますか?」
「まだわからん。なんにせよ、飯はもう少し食えるようにしてやりたい。体……みたか? 十歳くらいの体だとしても、痩せすぎだろう。骨と皮しかないって人間、久々に見たよ」
洋品店でサイズ合わせに服を抜いだアノスジェンに少なからずショックを受けていた。
「ワディンに聞いても答えないでしょうね」
「そりゃそうさ。執事は家の体面を守ることが優先だ。アノスジェン様の食について話す時の苦しそうな顔見ただろう」
「説明してもらってよかったですよね。次回からはまずは柔らかいものや脂っこくないものを注文しましょう」
「アノスジェン様、あまり食えなかったけど、飯を見た時は嬉しそうだったな。平民の飯を初めてみたからなのか……それとも……」
「詮索はよしましょう。あくまでも私たちは任務です」
「そうだな……」
翌日、本屋に初めて入ったときは興奮していたアノスジェンだったが、値段を見て驚いて棚に戻していた。あまりにも気にするので、古本コーナーへ連れていく。悩みに悩んで2冊の本を選んだ。ワディンが支払いをした。ワディンとヘリンは互いの予算について話をしており、無理があればヘリンに相談することになっていた。
ワディンは反対側に座り食い入るように本を読んでいるアノスジェンの脇に並んだ本を見る。ヘリンが持参した本も積まれている。
『この期間で履修する知識にしては多すぎる。アノスジェン様は天才なのかもしれない。もし、教育をまともに受けられたなら、学者にでもなれたのではないだろうか……』
町に停車するたびに本屋で購入した本の数にワディンは驚いている。始めはワディンへ質問してきたが今ではそれもない。
『今、質問されても答えられる自信はないな……』
ふとワディンの視線に気がついたアノスジェンが顔を上げ、にっこりと微笑んだ。
「ワディンも好きなものを読んでいいよ。僕はこれがオススメ」
脇に重ねられた本の中から一冊の本を渡す。
「しかし、これらはアノスジェン様のものです」
「いいじゃないか。本は誰が読んでも減らないよ。読んだら感想を教えて。お話しよう」
「かしこまりました。お借りいたします」
ワディンは地頭は良いため執事見習いになれたが、男爵家四男のため学習機会は少なかった。ワディンもすぐに本に夢中になった。
ヘリンとトビーは御者台にいる。
「最近二人とも本ばっかり読んでるぜ。おえぇ」
「トビー、自分が勉強嫌いだからって人も同じとは思ってはいけないですよ」
「子供は遊ぶものだろう!」
「十八歳と十五歳です。君はすぐに抜かれそうですね」
「男爵家なんて暴れてなんぼだろう。俺なんてアニキに何度も殴られたよ。姉さんなんて挨拶のように俺を叩いてたさ」
「よほど素行が悪かったのですね。私も男爵家次男ですが、兄とはうまくやってましたよ。妹を叩いたことなんて一度もありませんよ」
「え? ヘリンさん、妹さんがいるの? 紹介してよ。俺、尽くすタイプだよ。絶対に大切にするし、殴られても平気」
「君が義弟なんてイヤですよ。うちの妹は殴ったりしません」
「ルートン卿とアノスジェン様はどんな兄弟だったんだろうな?」
「ルートン卿に嫉妬してわがまま放題だったのでしょう。仲がいいわけがありませんよ」
「だって、その噂、もう信じてないでしょう」
「…………そうですけど。セレアン伯爵家は水守の儀式などで、その噂を否定するどころか、煽っていましたよね。仲の良い家族がそんなことしますか?」
「なるほど、アノスジェン様のお人柄を知っちゃうとあのすました顔や、心配する顔も嘘に見えてきゃうよね」
「王都へ戻ったら、彼らと会っても知らないふりが必要ですよ。特に君は」
トビーはヘリンに「オッケー」と親指を立てた。
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少したまったのでしばらく2話更新しまーす。
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