21 買い物
昼食の時間には少し早かったが街に着いたので休憩をすることにした。アノスジェンとワディンは馬車の中ですでに着替えをしていたが、商団旅としては少しばかり小綺麗な姿だった。だが、アノスジェンにはサイズが合っていない。馬車を降りてみるとサイズがおかしいことがなおさら目立った。
「このくらいの衣装はいくつお持ちですか?」
ヘリンが買い物のメモをとっていく。
「2枚です」
「では、ワディンの分は?」
「いえ、二人で2枚です。今着ているものが全てです。私の考えが浅はかで申し訳ございません」
本当はセレアン伯爵家からアノスジェン用の衣装は何ももらっておらず、かといって、アノスジェンが普段着ていたものを持ってくるわけにもいかず、ワディンの服を入れただけだ。ワディンも普段は支給された執事服を着ているので私服は少ない。
私服が二人で2枚しかないのはワディンのせいではないが、追求されたくなくて、自分のせいだと宣言した。アノスジェンは申し訳なくてうつむく。
「…………いや、大丈夫ですよ。今着ているものもこの旅には不向きですので、二人の分をそろえましょう」
アノスジェンがビクリと反応する。
「あの……僕はこれで十分……です」
服を与えられるとそれに関わる人が首になると思っているアノスジェンはワディンがいなくなることに恐怖を感じた。
「だから……ワディンは首にしないで……」
話が理解できないヘリンとワディンだが、アノスジェンの怯えが普通ではないと感じる。ワディンがアノスジェンの背に触れる。
「私は首になりません。一緒に隣国へ行きましょう」
涙をためた目でコクンと首を縦に振る。
「騎士様たちは我々の安全を考えて着替えを提案してくれています。騎士様の指示にしたがって買い物をしましょう」
目的がある買い物だと理解して、アノスジェンはあからさまに安堵していた。
平民服を3枚ずつ購入することになり、会計へ行く。ワディンが革袋を開いて銀貨を出した。
「ワディン、それは何?」
トビーは『まさか金貨しか見たことないのか?』と瞠目したが、ワディンは本質を察した。
「これがお金です。品物と交換するんですよ。馬車に戻ったらお教えしますね」
アノスジェンが嬉しそうに笑うのをヘリンは訝しんで見ていた。荷物を抱えたトビーはワディンの言葉を理解できずにいた。
外でさりげなく護衛をしていたニールと合流し、食堂へと向かう。食堂内ではアノスジェンとワディンを奥の席に向かい合わせに座らせる。ニールは普段の騎士の食事をわかっているので、次々と注文した。
料理が届くたびにアノスジェンはワディンにこれは何と聞く。ワディンは答えられないものはヘリンに聞いていた。アノスジェンへの取り分けはワディンに任せることにした。まさに十歳くらいの少年が食べるくらいの量をとりわけた。
食事を始めて「美味しい!」と喜んでいたアノスジェンが早々に「お腹いっぱいです」とフォークを置く。
「アノスジェン様。それじゃあ馬車旅はキツいですよ。できるだけ食べないと」
トビーが指摘するだけあってワディンが取り分けた分の半分も食べていなかった。アノスジェンがモジモジと答える。
「でも……僕がこれを食べたらお腹が痛くなっちゃう気がするんです……」
「申し訳ありません。こちらならもう少し食べられますか?」
ワディンは別の皿に蒸し芋をのせてアノスジェンに渡す。
「ありがとう! 食べられそうだよ」
もう一度フォークを持ったアノスジェンが喜んで食べ始めてワディンが肩をなで下ろす。その様子を三人は唖然と見ていたことにワディンが気が付き説明する。
「私の配膳が油物が多くて、アノスジェン様のお体に負担になったようです。その……」
ワディンはこれから数週間、食事をともにしていく三人には秘密にしない方がいいと判断した。
「アノスジェン様はこういったお料理は数年召し上がっておりません。……ご家庭のご事情がございまして……」
「僕は何でも食べるから大丈夫ですよ」
アノスジェンは笑顔だが、皿には肉などは一口ずつしか食べていなかった。
「ワディン、いただいたものを残したくないんだけど、馬車で食べれるかな?」
口に手をあててワディンに相談するが、アノスジェンの隣にいたトビーには聞こえてしまった。
「アノスジェン様。俺、まだ腹減ってるんでこれもらっていいっすか?」
「本当ですか。ありがとうございます」
アノスジェンのキラキラとした目を見た騎士三人は少しばかり頼みすぎてしまった料理を懸命に食べ、残すことなく店を出た。
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少したまったのでしばらく2話更新しまーす。
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