19 誕生
ワディンはハリトー執事長からの手紙を広げた。そこには十八年前の真実とハリトー執事長の自責の念がつづられていた。
十八年前、モニィシャは助産師が一人だけという不自然なほど少人数の看護状態で、難産の末に赤ん坊を産んだ。その息も整わぬうちにセレアン伯爵はモニィシャの部屋を訪れ、モニィシャはセレアン伯爵に笑顔を向け息も切れ切れに願った。
「はぁはぁ。旦那様。男の子だそうです。抱いてやってくださいませ」
助産師が赤ん坊を差し出すが一瞥しただけで触れようともせず、後ろにいた女性を前に出した。深紺色の髪の赤子を抱いたパジャマドレスの女性を連れてきていたのだ。
「いいか。お前は双子の男兄弟を産んだのだ。そして、長男ルートンにはこの乳母をつけるからお前は長男ルートンには関わるな。とにかく、お前が産んだのは双子だ。その子どもは次男だ。誕生日も今日ではなく2日前だ。今日は我が家にとって日が悪いから届け出はそうしておく。いいな」
その話には赤ん坊を抱く助産師も目を見開いた。
「ちっ。秘密を守れるほどの度胸はなさそうだな」
剣を引き抜いたかと思うと助産師の胸を一突きで貫いた。何が起こったのかわからない助産師は赤ん坊を抱いたまま膝から崩れ落ちていく。
「おい。片付けておけ」
後ろに控えていた執事に命令すると深紺の髪の赤ん坊を抱いている女性の肩を抱いて部屋からとっとと出ていった。青い顔をした執事は銀色の髪の赤ん坊を助産師の手から拾いあげると執事よりもさらに青い顔のモニィシャのところへと運んだ。
「奥様。私に何もする力がなくて申し訳ありません。旦那様から助産師を処分すると聞いてはおりましたが、遠方に送るということだとばかり……。明日には休暇を与えられた多くの使用人たちが戻ってくるでしょう。お坊ちゃまのためにも、先程、旦那様がおっしゃったようにお話くださいますようお願いいたします。出産直前までそばにいたメイドも奥様が何人お産みになられたのかまでは見ておりません。安静のためというこじつけた理由で入室も禁止されています」
人気が少なかったことに合点がいったモニィシャは力なく頷くしかできなかった。もう一度助産師を見るとセレアン伯爵の行動がフラッシュバックして気を遠くした。
執事は赤ん坊をベビーベッドに移すと助産師の死体を片付ける作業にとりかかった。
翌朝、意識を取り戻したモニィシャは自分と同じ銀色の髪の赤ん坊に笑顔をこぼす。
「あなたの名前はアノスジェンよ。私の愛する息子」
モニィシャはアノスジェンをそっと抱きしめた。こうして異母兄弟は双子ということになった。
メイドたちが戻ってくるとあまりにも普段通りで面食らったほどだった。出産を喜ぶメイドたち、甲斐甲斐しくモニィシャの世話をするメイドたち、産後ということで栄養がありながらも食べやすい食事、そして、モニィシャに興味も示さない夫のセレアン伯爵。その違和感こそが、セレアン伯爵が用意した現実なのだと逆に感じさせられた。
セレアン伯爵家の中が二分するのはあっという間だった。アノスジェンが生まれた日にルートンを抱いていた女性がルートンの乳母になり、勢力を伸ばしたからだ。だが、もとより強欲ではないモニィシャは普通の生活ができアノスジェンが元気であれば十分だと対抗することはなかった。
だが、モニィシャに顕示欲がなかったこともあり、乳母の方が勢力が日々増していく。モニィシャたちの部屋は粗末になっていき、食事もそれにならっていく。それでも「3食いただけるのだから十分だわ」とモニィシャは受け入れた。別邸への移動を夫セレアン伯爵から言い渡されても何も言わなかった。ただ、別邸の使用人が次々と変わっていき、いつの間にかアノスジェンが生まれる前からいた使用人は誰もいなくなっていた。
質素ながらにも平穏そうに見えた生活であったが、アノスジェンが八歳になるとモニィシャの体調が徐々におかしくなってきた。ベッドで寝込む日が多く、体も弱っていった。アノスジェンはモニィシャのベッドに入り込み一緒に本を読んだりして過ごした。
モニィシャが回復せぬまま数ヶ月が過ぎ、アノスジェンが九歳になる頃、モニィシャの実家男爵家の両親とモニィシャの弟が事故死したという連絡が入った。モニィシャの体調はさらに悪化した。モニィシャの実家男爵家は弟以外の跡取りがおらず、モニィシャが暫定的に相続した。もとより、男爵家からはセレアン伯爵家の次男であるアノスジェンに継承してほしいと言っていたので、アノスジェンが成人するまで管理人を雇用すればいいだけで何も問題はないはずだった。
だが、モニィシャの病状が悪化し意識が朦朧とする中でセレアン伯爵に騙されてサインし、男爵家は爵位とともに売却されてしまった。
モニィシャはそれを知らぬままこの世を去った。
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少したまったのでしばらく2話更新しまーす。
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