18 荷物
セレアン伯爵家の馬車が2台動き出し、豪華な1台はそのまま門を出ていった。1台がニールたちの前で止まる。
先に降りたのはジェストコールの少年だった。
『使用人より先に降りるとはマナーも知らないようだ。勉強嫌いとは聞いていたが……』
三人はあきれ顔を見せずに騎士然としている。二人めのジャケットの少年が降りてくる。ジェストコールの少年が口を開いた。
「こちらがアノスジェン・セレアン伯爵子息様です。護衛、よろしくお願いします。私は執事兼従者のワディン・レムダです」
さすがの騎士も口を開いた。ヘリンが目配せをしてトビーが騎士団長の元へと走る。奇妙な衣装についてはセレアン伯爵家の家内問題と捉え何も聞かない。
「では、荷物を移しましょう。なにぶん、1台の馬車なので、もしかしたら諦めていただく荷物もあるかもしれません」
生真面目に説明するヘリンにニールが軽く肘打ちをした。ヘリンがニールに向くと目で上部の荷台を見ろと示す。……上部には何も乗っていなかった。
「荷物はこれになります」
ワディンが馬車の後部の防水皮を取ろうとしているが、身長が足りない。
「ワディン執事はおいくつですか?」
任務にあたり年齢を聞き、できることできないことを考慮しておくことは大切なことだ。
「十五になります」
ニールは『まあ、妥当だ』と考え再びアノスジェンに目を向ける。『どう見ても十歳くらいなのだが……』と考えているとヘリンと目が合い、どちらともなく頷いた。ニールとヘリンで防水皮をめくるとトランクが3つ出てきた。
「ワディン執事の荷物は?」
「私のことはワディンで結構です。二人でこれで全部です」
「「は?」」
今は軽装の革胸あてだけだが、隣国の王城のために騎士服もトランクに入っているとはいえ、どう考えても騎士三人の方が荷物が多い。
「旅慣れていないので、必要なものはその都度購入します。金銭も預かっております」
今はワディンの説明に納得するしかなかった。3つのトランクを座席の裏に積み、アノスジェンとワディンを座席にのせる。トビーが戻ってきて、三人は空箱を後部荷台と上部荷台に積んだ。商人を襲う賊対策である。荷物を積んでいない馬車は金を持っていて荷物運びの手間がないので、襲われる可能性が高まるのだ。
「なんか、わびしい商人っすね」
トビーがカラカラと笑う。トビーが馬に跨り、ニールとヘリンが御者台に乗った。トビーが座席の二人に声をかけて出発した。
門の外でセレアン伯爵家が待っていたので、停車して家族の別れの時間を持たせる。
三人は顔を寄せた。
「ずいぶんと予想と違いますね……」
ヘリンはルートンほどの青年と中年の従者を想像していた。
「予想の範疇を越えすぎだろう。トビー、騎士団長はなんと?」
「家族商団として動けって。俺とヘリンさんが護衛で、ニールさんが親父ですね」
「いきなり二人の子持ちかよ。俺が本当の親父なら子供の癇癪をおさめる時にはゲンコツくらいするんだけどな」
エアゲンコツをするニールが空笑いする。
「それはダメですよ。金銭に余裕はあるので、ある程度は聞きましょう。ご本人たちも持参しているお金があるようですし」
「それにしても本当に十八歳なのかねぇ」
三人がアノスジェンを見ると、別れを惜しんでいて家族なのは、間違いなさそうだ。
「身体については先天的に大きくなれない人もいます。あの体だからこそ、努力や勉強が嫌いでわがままが通ったのかもしれませんよ」
「なるほどな。その線は有力だ」
三人の前を豪華な馬車が通り過ぎるので頭を下げた。ニールは上目遣いで馬車に乗るセレアン伯爵家の者たちを見ていたが、息子を預けるというのにこちらに会釈もしなかった。
『セレアン伯爵は高位貴族たちにいい顔をするタイプだからな。夫人のことはよく知らないが、出来のいい方を可愛がる人なのかもしれないな』
わがままを言うことで両親の関心を引こうとしていたアノスジェンを想像して少し不憫に思った。
「さあ、仕事だ。いくぞ」
三人でアノスジェンたちを迎えに行った。
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少したまったのでしばらく2話更新しまーす。
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