17 騎士
アノスジェンたちが王城に来るより1週間ほど前。マレガード王国の騎士団長室に三人の騎士が呼ばれた。伯爵家三男ニール三十一歳分隊長、男爵家次男ヘリン二十四歳、男爵家次男トビー二十歳。体格がいいニールとトビー、騎士としては華奢な方のヘリン。三人は分隊は違えども同じ小隊でよく知る仲だ。
騎士団長は椅子に座り三人を前に険しい顔をしていた。閉じていた目を開く。
「君たち三人に長期任務をお願いしたい……」
普段は「命令」または「辞令」なのに「お願い」であったことに戸惑う三人だが、すぐに「命令」と置き換えた。
「「「かしこまりました!」」」
騎士団長は嘆息する。
「違う。命令ではない。こちらからのお願いだ。これから任務を説明するから、考えてきてほしい……いいな」
「「「はいっ!」」」
騎士団長はアノスジェンの護衛任務を説明した。無表情で聞く三人であるが、心の中は疑問がたくさんあり複雑だった。
「これが概要だが、質問を許可する。先ほども言ったがこれは命令ではない。だから、納得するまで聞いてくれていいし、互いに話をしてもいい」
騎士団長はきちんと手足を揃え騎士立ちしている三人に気がついた。
「あー、いつものスタイルですまん。とりあえず、ソファに座ろう」
騎士団長が中央上座に座り、ニールに向かいあってヘリンとトビーが座った。騎士団長が地図を広げる。
「今回の任務は南東の隣国フオジスト王国だ。ここ、我が国の王都は西寄りだから国境を越えるだけでもかなりの距離となるだろう」
ニールが口火を切る。
「要人護送ですよね? 我々三人を中心に分隊を新たに結成するということですか? 私は分隊長の引退を申請したばかりなのですが」
知らない情報にヘリンとトビーは驚く。それを察したニールが苦笑して答えた。
「実力がある若者はいるからな。俺の実力では統率力も落ちるんだ。俺は小隊を外れて配給隊になってもいいと思っている」
「そんな……」
「その話はともかく、分隊ではなく、三人の特殊任務だ。極秘ではないが、大々的な任務でもない。要人一人を無事にフオジスト王国王城へ送り届ける仕事だ」
「つまり、四人で旅商人風ということですか?」
「それが一番安全だと思う。要人は十八歳。セレアン伯爵家の次男だ」
「え!? あの素行が悪いという噂の!?」
トビーが驚きで声をあげた。
「そうだ。だが、俺も会ったことがないから人となりはわからん」
しばらく質疑応答があり、三人は帰されたが、『騎士団長は苦渋の選択で俺たちを選んだはずだ』と考えた三人は翌日に了承した。
当日の朝、付き人一人が付くことになったと聞いた。用意された馬車は箱としては大きめだが座面を狭くしてあり、荷物がたくさん積めるようになっている。まさに商人用の馬車だ。自分たちの荷物は雨風にさらされる箱の上部の荷台にくくりつけ、防水皮で覆った。上部の半分と座席の後部、箱の後部を要人のために空けてあるが、わがままだと噂のセレアン伯爵家次男の荷物がこの程度で乗るものかと不安は残る。
馬車と馬を門の近くに待機させて要人を待っていると豪華な馬車からセレアン伯爵夫妻と深紺の髪の青年が降りた。水守の儀式の警護をしたことがある三人はすぐにそれがルートン・セレアン伯爵子息だとわかった。そして、後ろから来たずいぶんと使い込まれた馬車から派手なジェストコールを着た青年とシンプルなジャケットの少年が降りてきた。ジェストコールを着た茶色の髪の青年とも少年とも見える人物がルートンの脇に立つが、ルートンより頭一つ以上小さい。ジャケットの少年はさらに頭一つ以上小さい。
『あれが追加された付き人? 付き人として連れて行く意味があるのか? 十歳くらいでは付き人仕事などできるはずもないだろう』
予定をしていない仕事があることに驚いた三人だが、騎士団長を見ると顔をしかめていたので、騎士団長も知らなかった話なのだと納得する。
国王の脇に立つ騎士の言葉が風魔法で伝わってくる。
「隣国にて健勝で過ごすようにとのご伝言です」
『国王陛下はまた何にも考えていらっしゃらないのだな……。むなしいものだ』
ヘリンは達観した顔で国王が階段から離れ王城へ戻っていくのを見ていた。そして、騎士団長から渡された金額を考え、五人の旅のシュミレーションをする。
『要人が無理を言わなければ余裕のある金額だ。要人を説得することが私の主な仕事になりそうだな』
ヘリンはもう一度派手なジェストコールを見て小さくうなだれた。
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少したまったのでしばらく2話更新しまーす。
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