16 王城
アノスジェンとワディンが多少貧相な馬車に乗り込むと動き出し、メイドたちは一台目の馬車が通り過ぎると頭をあげたが、ハリトー執事長は二台目が通るまで頭を下げたままだった。その様子にメイドたちは眉を寄せたがアノスジェンには二度と会わないのだから関係ないとすぐに頭から消した。
王城に到着して馬車から降り立つ。前の馬車からはクィント・セレアン伯爵、モーリッシュ・セレアン伯爵夫人、ルートン・セレアン子息がすでに降りていた。そちらに近い方にワディンが立つ。ワディンの隣に立ったアノスジェンは出発前にハリトー執事長に注意されたようにキョロキョロするのを我慢して時々ワディンを目だけで見上げるだけにした。
五人は立ったまましばらく無言で待っていた。その隣でビッと姿勢を正していた騎士が立った。
階段上にいる騎士が声を出す。
「国王陛下、ご登場でございます」
四人は紳士淑女の最高礼をとり、アノスジェンも今朝ハリトー執事長に教わった礼を懸命にとると、アノスジェンが恥をかくことを期待したルートンがチッと舌打ちした。そんなルートンに気が付かないアノスジェンは『あんなに離れているのにどうして届くのだろう』と目を瞬かせて不思議に思っていた。
「頭をあげてください」
騎士の声が届く。アノスジェンが横にも縦にも長い階段の向こうに頭だけ見える国王を見つけた。国王が軽く手をあげる。
「隣国にて健勝で過ごすようにとのご伝言です」
五人は再び頭を下げる。次に騎士から声がかかり頭をあげたときにはすでに国王の姿はなかった。王国が用意した馬車にアノスジェンたちの荷物を移した。騎士たちがギョッとしたアノスジェンたちを乗せてきた馬車はとっとと帰っていった。
馬車で王城の門を出ると五人は再び降り立った。セレアン伯爵はアノスジェンたちが乗った馬車に近寄ると同行する国から派遣された騎士たちに近づく。
「家族だけの別れをしたいのだが少々時間をいただけるかな」
「かしこまりました。我々は離れた場所におりましょう」
馬車の前に五人だけになった。
「いいか。今日からお前とは絶縁だ。隣国で離縁されたとしても戻って来るところはない。お前の婚姻式に出席しないことはすでに国王陛下にも了承いただいている。貧乏国へ婿入りして、その家から援助を申し込まれても迷惑だ。お前の価値はワシと血縁であることだけ。水魔法の大家である我が家の血、それだけの婚姻だ」
アノスジェンは上を向くこともできず、小さく震えている。遠くで様子を見ている騎士たちからは悲しみに沈んでいるように見えることだろう。
「役にも立たずチビで汚いお前と双子だと言われていてずっと気分が悪かったんだ。本当は双子なんかじゃないのに迷惑な話だったぜ」
さすがにびっくりしたアノスジェンはルートンを見上げた。
「せいせいする。俺まで呼ばれたらたまらないから、あっちで俺の話はするなよな」
「これは絶縁書だ。王都を出た瞬間から身内ではなくなる」
セレアン伯爵は書類を押し付けると足早に馬車へ向かった。セレアン伯爵夫人は一瞥もせず一言も発せず、セレアン伯爵に続いて馬車に乗り込んていった。ルートンが乗り込むと馬車は早急に出発していく。騎士たち三人は通り過ぎるセレアン伯爵たちに頭を軽く下げて馬車を見送った。アノスジェンは手に乗せられた書類とともに呆然としている。
自分の不甲斐なさを感じているので、絶縁はさほど衝撃ではない。だが、双子ではないと聞いてかなりのショックを受けていた。
セレアン伯爵夫人が後妻で、ルートンやアノスジェンとは血縁でもないので目をかけられないことは理解していたが、なぜかルートンをかわいがっているようには見えていた。血縁である父や兄に恥をかかせているために辛い生活をさせれていることはわかってい。
さらにアノスジェンとルートンの母親が生きている間には、母親がアノスジェンだけと生活していたので、ルートンからのいじめが始まったのだろうと考えていたので罪悪感で我慢できていた。
騎士三人がアノスジェンたちのところにやってきた。
「ご家族との別離はお辛いかと思いますが、そろそろ出発しましょう」
騎士二人がアノスジェンたちが乗る馬車の御者台に登る。ワディンに背を押されたアノスジェンは馬車に乗り込んだ。
扉が閉まり馬車が動き出すとワディンは内ポケットから手紙を出した。
「ハリトー執事長様からのお手紙です」
アノスジェンは震える手で受け取った。
ゆるゆると手紙を広げる。そこにはアノスジェンとルートンの出生について書かれていた。
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少したまったのでしばらく2話更新しまーす。
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