15 友
その夜、皆が寝静まったのを感じ取り、アノスジェンはそっとベッドを抜け出した。夜着のままでは寒いので、戸惑いながらジャケットを羽織った。部屋へ出ると裏口へと向かう。使用人部屋の中でも一番端の裏口に近い部屋だったので誰に気づかれることなく屋敷を抜け出せた。
自分が使っていたボロ小屋へ行くと床板を一枚外す。そこにあった荷物を取り出した。擦り切れた絵本と小さな袋。小さな袋の中身を出して確認する。それは母親の形見のネックレスだった。父親たちに取り上げられることのないよう隠していたものだ。
「お母さん。僕、どうなってしまうんだろう。お隣の国がどんなところかわからないけど、ワディンさんだけは守りたい。その時は助けてね」
ネックレスを額に当てて願うと袋に戻す。それをズタ袋に入れて小屋の外に出た。そしてお祈りをしていた小川へと向かった。岸辺に到着すると小川の方へささやき声を発した。
「アズリュー……起きてるかぁい」
川が流れる音と森の葉擦れの音だけが聞こえる。
「最後に会いたかったんだけどなぁ。夜では無理なのかなぁ。そうだ、最後にお祈りしていこう」
アノスジェンは小川にひざまずき祈りを始めた。祈りが終わり目をゆっくりと開くといつものように肩に何かの存在を感じる。
「アズリュー! 来てくれたの? ありがとう!」
アノスジェンが自分の左肩に手のひらを触れさせるとそれが手のひらに移り、それを感じて自分の顔の前に持ってくる。そしてそれに頬ずりした。
「ああよかった。お別れも言えないのかと思っていたんだ」
頬から離しそれと目を合わせるように両手で大切に捧げた。それは薄い水色の鱗を持つ生物だ。アノスジェンはその生物に今日起きた出来事を説明する。それの瞳はアノスジェンの言葉を理解しているようだとアノスジェンは感じている。一通り説明すると一つ息をはいて言葉を続けた。
「だからね、もうここでお祈りができないの。悲しいけどアズリューともお別れだよ。いつも励ましてくれてありがとう」
アノスジェンは片膝をついて両手を小川の方へと向けてメリューを小川に戻そうとした。するとアノスジェンの手のひらから腕へと登りジャケットの胸ポケットへ入った。
「え? アズリュー、もしかして一緒に来てくれるの?」
アズリューはひょっこりと顔を出し、長い舌をチロチロと動かす。
「本当に? 嬉しいよ。唯一の友達だった君が一緒に来てくれるなんて幸せだ。でも、誰かに見つかっちゃいけないんだよ。お隣の国に行くまでこんな小さなポケットで我慢できる?」
チロチロと差し出しする舌が「オッケー」と返事をしているようで、アノスジェンはアズリューをポケットから出すと天に捧げるように持ってくるくると回ってよろこんだ。
アズリューを再びポケットに戻すと屋敷の使用人部屋に戻り、部屋の中でアズリューをポケットから取り出した。
「朝になったらワディンさんが来るから、枕の下に隠れていてね。着替えをしたら迎えにくるからね」
アズリューはチロチロとさせて答えた。
翌朝、朝食をもってきたり着替えの手伝いに来たりしたのはメイドだった。ハリトー執事長からなにか言われたのか、渋い顔しながらもアノスジェンの支度を手伝い、早々に出ていったのでアズリューを隠すのは簡単にできた。
ハリトー執事長が迎えにきて馬車まで行くとえらくけばけばしいジェストコールの紳士服にこれまたド派手なシャボを付けたワディンがいた。ワディンは我慢してますというように歯をくいしばっているのは口を閉じていてもわかるほどだ。
「ワディンさん、おはようござ」
ハリトー執事長がちらりとアノスジェンを見る。昨日の夜に注意を受けたばかりだったので、アノスジェンはあわあわとしたあと、口を開いた。
「ワ……ワディン。おはよう。今日からよろしくお願いしま……よろしくね」
アノスジェンの努力のようすにハリトー執事長はわかりにくいくらいであるが機嫌がよくなっている。
「アノスジェン様。おはようございます」
アノスジェンはなんとなく苦笑いし、ハリトー執事長はうんうんと首肯した。
「こんな格好……すごく嫌なんですけど。執事服じゃだめですかね?」
「ルートン様の弟様のお役目なのですから当然の格好ですよ。それはルートン様のパーティー服です。似合っていますよ」
ハリトー執事長に無表情でからかわれ、ワディンは仕返しと逆に顔をゆがませた。
「ルートン様は最初は譲るのを渋っていましたが、私に似合っていないことがだいぶお気に召したようでご機嫌でしたよ」
ワディンは目線で前の豪華な馬車へ視線を送った。
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少したまったのでしばらく2話更新しまーす。
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