14 同行者
ワディンは視線でハリトー執事長に許可を得るとベッドの脇に両膝を付きアノスジェンと目線を合わせた。
「アノスジェン様とご一緒することは旦那様のお部屋へ入る前に私が自分からハリトー執事長様へお願いいたしました。もしかしたらアノスジェン様はお一人で向かわされることも考えられましたので、セレアン伯爵家を退職することも考えました」
「どうしてですか? 僕とは今日会ったばかりなのに……」
「ふふふ。弟たちにかっこいい兄貴でいたいからです。それに、私はまだ2ヶ月ですが、アノスジェン様が一生懸命にお仕事をなさる方だと知っています。でも、格下であるはずのメイドや使用人たちに何をされても反抗しないことに少しイライラしてしまって、最初は悪い態度でした。申し訳ございません。
初めてご旦那様と接して、メイドたちがアノスジェン様にあのような態度をするのも、アノスジェン様が反抗を諦めているのも理解しました。だから、私はアノスジェン様がここを離れて生活するお手伝いをしたいのです。アノスジェン様があちらでの生活が安定したとき、マレガード王国へ帰ってまいります」
「でも家族のみなさんは……きっと寂しがると思うのです」
「私は六人兄弟の四番目なので手紙さえ書けば心配しません。故郷には長男と弟と妹がいて、長男は結婚し子供が二人。次兄と三兄はすでに家を出て王都の自警団と商家の勤め人をしています。そういう家族なので安心してください」
「アノスジェン様は十歳まではいろいろと学ばれましたが、世間について知らないことが多く、アノスジェン様をお一人で向かわせることは旦那様にご意見させていただこうと思っていたところでございました。ワディンが一緒に赴くことは必要だと思います」
『あ……だから僕がアノスジェン様の風呂係だったんだ』
ワディンは思い当たることがあり得心したと笑った。ハリトー執事長はワディンが普段からアノスジェンを悲しみと怒りとを含んだ目で見ていたのを知っていたし、自分が与えられたパンをこっそり隠してアノスジェンの小屋へ届けていたのも見ている。
「アノスジェン様。ワディンはまだ荒いところはございますが、自分のパンをアノスジェン様にお届けする優しい心根の者でございます。安心してお供にしてやってくださいませ」
「なっ! ハリトー執事長様! それ今言わなくてもいいのではないですか」
ワディンは真っ赤な顔でハリトー執事長を睨んだが睨まれた本人は無表情の目を少し下げただけだった。
アノスジェンはワディンの前に正座してワディンの手を握る。
「ワディンさん、本当にごめんなさい。僕がお仕事できたのはワディンさんのおかげです。僕と一緒でも本当にいいですか」
「もちろんでございます」
「明日出発になります。今日はワディンに手伝ってもらいこちらにお着替えください」
真新しい寝間着にアノスジェンはびっくりする。
「これは……怒られませんか?」
「もう一度入浴されるよりいいと思いますと旦那様には伝えておきますので大丈夫です」
「そちらのお洋服や寝間着などがお孫さんのお古というのは嘘なんですよ。ハリトー執事長様がアノスジェン様のためにご用意したものです。だってハリトー執事長様の息子さんって……」
ハリトー執事長はワディンを睨むがワディンは先程の仕返しだとゆったりと笑顔を見せた。それに小さく嘆息してアノスジェンにわかりにくい笑顔を向けた。
「私も最近わかってきたのですが、ハリトー執事長様はこれで笑っていますからね」
さすがに2回目の仕返しにハリトー執事長のゲンコツがワディンの頭に落とされた。
「お二人ともごめんなさい」
「アノスジェン様はお言葉を直すことから始めましょう。我々使用人に敬語をお使いになる必要はございません」
「っ! ごめんなさい」
ハリトー執事長の言葉にアノスジェンはシュンとうなだれた。
「お謝りになる必要もございません。少しずつで大丈夫です」
「ご……わかりました……あ……」
あわあわと手で口を懸命に隠そうとした。
「私と馬車で練習しましょう。ハリトー執事長様。それでいいですか?」
「そうですね。国境まで二週間。いろいろと学ばれるとよろしいかと思います」
ハリトー執事長が退室するとワディンは着替えを手伝いハンガーに掛け退室していった。
ベッドに入ったアノスジェンは目をつぶっては開け、開けるたびに衣紋掛けにスーツがあることと自分が今着ている夜着を確認しドキドキして夜が更けていった。
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少したまったのでしばらく2話更新しまーす。
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