13 打診
ハリトー執事長の様子からアノスジェンを助けてきた事は内緒なのだと感じたアノスジェンはコクリと頷く。ハリトー執事長は今度は本当に柔らかく微笑した。
「では参りましょう」
ハリトー執事長がノックをすると中から入室許可の声がかかった。入室するとハリトー執事長は手のひらを前に出しアノスジェンを誘導する。アノスジェンはその指示に従いおずおずと一人で前に進みセレアン伯爵の正面に立った。
セレアン伯爵は大きな執務机の向こうで足を組み葉巻をくゆらせて窓の方を見ている。アノスジェンは声をかけられるまで待つよりほかになかった。
やっと椅子が回り机に肘を置くと面倒くさげに息を吐く。
「この服は?」
アノスジェンに一瞥だけするとハリトー執事長へ視線を投げ、答えるのはハリトー執事長だと示す。
「わたくしの孫のものをお持ちいたしました」
「貧相な様相は隠しきれないな。国王陛下の御前に出さねばならぬのに……。おい。そこの見習いはいくつだ」
セレアン伯爵はハリトー執事長の隣に立つワディンを顎で示した。
「十五歳になります。見習いになりましてまだ2ヶ月ですので旦那様へのお目通りは初めてでございます」
見習いが主人と直接話すことなどありえないのでハリトー執事長が説明をする。
「その見習いに『これ』のフリをさせろ。国王陛下は階段の上部からこちらを少しご覧になるだけだ。これの隣に立たせておけばよい。髪の色など知られていないのだ。バレることはないだろう。問題あるまい」
「かしこまりました。ではそのように手配いたします」
ハリトー執事長が唖然と立ち尽くすアノスジェンの背に軽く触れ退室だと示唆し、三人は部屋を出た。何もわからず、一言も発せず、父親との面談が終了したので呆然とハリトー執事長の後ろについて行く。さらに後ろで苦々しい顔を隠そうと引きつっているワディンには気が付かなかった。
ハリトー執事長が連れて来たのは使用人部屋の一つだった。
「本日はアノスジェン様にこちらでお過ごしいただきます。お座りください」
無表情に見えるハリトー執事長だがアノスジェンには悪意のない優しさを感じ、誘われたように素直にベッドへ座った。ハリトー執事長の後ろにはワディンが控えている。
「アノスジェン様の今後についてお話いたします。ワディンにはある程度伝えてありますが、先程の旦那様からの指示により多少変更がございます。ですのでアノスジェン様とご一緒にお話させていただきたいのですがよろしいですか?」
「へ? は、はい、もちろん大丈夫です」
説明などしてもらえると思っていなかったアノスジェンは慌てて頷く。
「まずは、アノスジェン様の隣国フオジスト王国への婿入りが決定いたしました」
あまりの話にアノスジェンは目を丸くして硬直した。「教会じゃないんですか?」と聞くとハリトー執事長に首を横に振られた。
「こちらは国王陛下からのご命令でございますので拒否権はございません。あちらの国の言語は呼称などが多少変わりますが会話をするには困ることはございません。それから……」
アノスジェンがそっと手を挙げたので執事長は手を止めてアノスジェンの言葉を待った。
「ご、ごめんなさい。易しい言葉を使ってくれると……そのぉ」
「かしこまりました。配慮……気遣いが足らず申し訳ございません」
謝られたことにビクついたアノスジェンが恐る恐るハリトー執事長の顔を上目で見ると柔和に無表情だった。さらにワディンに視線を送ると頷いたのでホッと肩を撫で下ろし、改めて聞く体制をとった。
「アノスジェン様の婿入りは、我が国マレガード王国の国王陛下がお決めになったことでございますので、アノスジェン様はお断りすることはできません」
アノスジェンがこくりと首肯したので執事長は続ける。
「アノスジェン様が婿入りなさるフオジスト王国と我が国マレガード王国とは使用する言葉が同じようなものでございますのでご心配はいりません。でも、物の名前などについては違うものもございますので、それはあちらに行ってから学んでも大丈夫です。
あちらの王城まで国が馬車を用意し護衛が付きます。
ワディンがご一緒しますことを旦那様におゆるしをもらわねばならいと考えておりましたが、予期せず旦那様からそうしろと言われましたので、ようございました」
「どうしてワディンさんが一緒なんですか? ワディンさんにはこの国に家族もいますよ。小さな弟さんや妹さんもいるんですよ。僕のために遠くへ行くなんてダメです!」
アノスジェンは俯いていた顔を挙げ泣きそうな表情で訴えた。
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少したまったのでしばらく2話更新しまーす。
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