12 味方
本日2話目
着替えを済ませると鏡台に座らせ灰色のザンバラ髪をくくった。
『さすがに旦那様とルートン様と血の繋がりがあるだけあって顔は整っている。やせっぽちで頬は痩けてて目は落ち窪んでいるけど。めちゃくちゃ小さいけど。肌もガサガサだし、髪も艶はないしごわごわの灰色だけど。ってそれなのに美形がわかるってどれだけだよ。この水色の瞳かな?』
「時間がある時に髪は切った方がいいですね」
鏡越しにアノスジェンの顔を見た。
「はい。執事さんにおまかせします。あのぉ……よろしければ、執事さんのお名前を聞いてもいいですか?」
アノスジェンが嬉しそうに頬を染めて笑う。執事は故郷の弟を思い出してグッと涙を堪えて息を飲んだ。
「ワディンです。ワディン・レムダ。レムダ男爵家の四男です。二ヶ月ほど前に執事見習いとしてこちらに上がらせていただきました」
「ワディンさん」
「ワディンです。アノスジェン様」
アノスジェンはクルリと振り返り驚嘆な顔で硬直する。
「なんか……先ほどまで、嫌な態度してしまってすみません」
照れながらそう口にするワディンにアノスジェンは首を左右にブンブンと振った。
「なんかやっぱり小さい子をいじめるとか……ダメですよね。僕、弟と妹がいるんですけど、こういうの弟たちに見られたらカッコ悪いです。小さい子に優しくできる兄さんだって見せたいよなって反省しました。
あ! アノスジェン様は十八歳でした! 見えないですけど」
ワディンがふふふと笑う。
「僕、あ、私は十五なんでアノスジェン様より年下ですよ。アノスジェン様が年上には見えないですけど」
アノスジェンはふっと立ち上がり顔を覆った。
「え!? あれ? アノスジェン様、どうしましたか? 僕じゃなくて、私の態度、やっぱり赦せませんか? ですよねぇ、風呂でのあの態度は無いなって思います。これからはちゃんと態度改めますから、本当にすみません」
「ちが……ちが……ちがうの……」
ワディンは片膝を付いて目線を下げると両手でアノスジェンの両手を包んだ。
「僕の……名前……。久しぶりに呼んでもらえて……嬉しかった…です」
「…………私がお呼びさせていただきます。これから何度でも何度でも」
「ごめんなさい……」
ワディンはアノスジェンの背を押してソファへと導き座らせると「失礼します」と隣に腰掛けアノスの背をさすり続けた。
しばらくしてアノスジェンが落ち着き、ワディンはアノスジェンに水をのませる。
「さて、執事長様にお許しをいただいた時間です。そろそろご主人様のところへ参りましょう」
アノスジェンの顔が一瞬で強張り体を硬直させた。
「私がおそばにおります。それにこのようなお姿になさったということは悪いことはないかと……少なくとも暴力はないかと推察いたします」
ワディンが言い淀むほどにこれまでのことを踏まえると何もないとは言えない。それでも暴力がなさそうだということはアノスジェンにとって震えが収まる理由の一つとなった。
『ワディンさんがいてくれるのは嬉しい。それに……これ以上迷惑はかけられない』
自分に言い聞かせて立ち上がる。そしてふとあることに思い当たった。
『そうだ。きっと教会へ行くんだ。だから着替えたんだ』
うんと自分自身に頷いてからしっかりとワディンの顔を見た。
「どこへ行けばいいですか?」
「ご案内いたします」
ワディンが前を歩き向かったのは、先ほど通り過ぎた父親であるセレアン伯爵の執務室であった。セレアン伯爵の書斎の前には初老のハリトー執事長が待っていた。
「ハリトー執事長様。お待たせいたしました」
「いや。時間通りですよ。ワディン、ご苦労さま。君もこのまま同席しなさい」
二人が相談している間、アノスジェンは執事長の顔を見ながら思い出していた。
『この人が執事長さんなんだ。いつも僕を内緒で助けてくれた人。後ろ姿しか見たことなかったけどこの人に違いない』
アノスジェンが数日食べ物にありつけないときには柔らかいパンや果物が届けられていた。服やリネンも困る前に届いていた。薬が届いた時もあった。アノスジェンは一度だけ見えた後ろ姿に感謝していた。特にこの二ヶ月は頻繁にパンが置いてあったのだ。
「……ごめんなさい……」
アノスジェンから発せられた言葉にハリトー執事長は困ったように笑った。
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