第14話『追跡の果て、月下の対峙』
「居たニャ……!」
通りを歩く黒いフードの男の姿を見つけた。あのフードの隙間から覗いた顔、そして頬に刻まれた傷――間違いない。村を襲った、あのときの男ニャ。
胸の奥がじわりと熱を帯び、握りしめた拳の爪が食い込む。今すぐにでも飛びかかって、その喉笛に噛みついてやりたい衝動に駆られる。
――村を襲った恨み、忘れるわけがないニャ。
だけど。
ここは、あたしが「第二の故郷」にすると決めた街ニャ。
ご主人様がくれた場所。ようやく人々があたしを受け入れてくれるようになった、大切な居場所。そんなこの街を、また奴らのせいでひどい目に遭わせるわけにはいかないニャ。
だから今は、我慢する。
まずは――あいつらが何を企んでいるのか、突き止めてやるニャ。
男は妙に慎重な足取りで、路地をいくつも曲がりながら進んでいく。何度か立ち止まり、背後を確認する様子もあった。
「ずいぶん警戒してるニャ……やっぱり、アジトに向かってる可能性があるニャ」
呼吸を整え、物陰から物陰へと身をひそめながら尾行を続ける。やがて、街の喧騒が遠のき、気づけば人通りのほとんどない街のはずれに出ていた。
前方に見えたのは、古びた倉庫。
見た目はボロいけど、それなりに大きい。外壁の近くには新旧の足跡が混ざり、使われている痕跡がはっきりとある。
男は周囲をひと通り確認すると、静かに扉を開け、中へと姿を消した。
ニアはそっと倉庫の影に身をひそめ、扉のすき間から、わずかに中の様子を窺った。
――しばらくして、中から賑やかな声が漏れ聞こえてきた。
「おっ、隊長お帰りなさいっす!」
「てめぇら、ちっとは静かにしやがれ。騒ぎすぎなんだよ」
「ええ~、こんな人気のないとこ、夜に誰が来るってんスか~」
「そういう油断が命取りなんだよ……ったく、お前らときたら……。少しは“セラフィーナ”の情報でも集めて来やがれ」
その名前に、ニアの耳がぴくりと動いた。
セラさんのことを探してる……?
「隊長、まだあの女探してんすか? もうとっくに逃げ果せてるんじゃ――」
「……おい、馬鹿野郎やめとけ!」
空気が一気に張り詰める。
「ひっ……ちょ、ちょっとした冗談っすよ!? ははは……!」
ドガッ!!
次の瞬間、拳が男の顔面に叩き込まれた。
「ぎゃっ……がっ!!」
吹き飛ばされた男の体は、勢いそのままに倉庫の出入口の扉を突き破るようにして外へ飛び出す。
「にゃっ!?」
まさにその瞬間、ニアは扉のすぐ脇で身を潜めていた。
突き破って飛び出してきた男の体に思いきりぶつかられ、バランスを崩す。
「……あ?、誰だ、てめぇ」
視線が合った瞬間、倉庫の中にいた数人の男たちが一斉に騒ぎ出す。
「なんだこいつ!? メイド……!?」
「こいつ猫獣人だぞ!」
やばい、完全にバレたニャ――!
ニアは地面に転がるようにして体勢を立て直し、すぐさま構えを取る。
「クソ……もういいニャ、こうなったら――全員ぶっ飛ばしてやるニャ!」
ギラギラと殺気を帯びた視線が、一斉にニアに集中する。
月明かりが静かに照らすなか、戦いの幕が上がった。




