第10話『変態ご主人様と誇り高き騎士メイド』
清々しい朝の光が差し込む中、僕は屋敷の中庭に面した植え込みの陰に身を潜めていた。
視線の先にいるのは――メイド服姿で剣を振るうセラ。
その手に握られた長剣は、どう見てもメイド服とはミスマッチな代物だ。
けれど、その一振り一振りが完璧すぎて、思わず見とれてしまう。寸分の狂いもなく、正確無比な軌道を描き、力強くて美しい。
あまりに凛々しく、そして堂々としていて……気がつけば、メイド服すら“戦闘服”に見えてしまう始末だ。
「この……ギャップ萌え……最高だな……!」
僕は頬を熱くしながら、両手を組んでじっと拝むように見つめていた。
が――次の瞬間。
「……何をコソコソ覗いている、クソ虫……いや、ご主人様」
「でゅふーーー!!(歓喜)」
冷たい視線が突き刺さる。
そう、セラは今でも、自分を“メイドにされた”ことを根に持っている。
それでも皮肉なことに、与えた仕事は一切手を抜かず、完璧にこなしてくれるのだ。
まさに“誇り高き騎士”そのまま……いや、“誇り高き騎士”が“完璧なメイド”を演じている、というべきか。
「くっ……なんでそんなに似合うんだ……! 最高すぎる……ッ!」
僕はその場にひれ伏すように地面に手をつき、まるで聖域に祈る信者のごとく拝み始めた。
「セラさんッ……今日も素晴らしい剣筋ですねッ……! その無駄のない動き! その引き締まった太もも! その凛とした瞳にメイド服! もはや芸術! 神の采配……!」
「……近寄るな。不愉快だ。次の一振りで首が飛びたくなければ、三歩下がれ」
「でゅふふふふっ、怖い! でもそれがいい!!」
ピタリと動きを止めたセラが、うっすらと汗を光らせた額をぬぐいながら、じろりと睨んでくる。
「朝から舐め回すような目で見るとは……お前、本当に領主の息子か? ただの変態ストーカーではないのか?」
「失敬な! 僕は断じてストーカーではないですよ! これは敬意です! 限りなく純粋な美の崇拝なんです!!」
「……断じて、変態だな」
「ありがたきお言葉ァッ!!」
芝生に土下座しながら、僕は幸せそうに顔をこすりつけた。
そこへ、屋敷の廊下からニアが顔を出す。
「……朝から騒がしいと思ったら、またやってるニャ」
「……呆れました。ご主人様、昨日の朝も同じこと言ってましたよね。“セラさんは戦う天使”って……」
「ふふふっ、だって実際そうじゃないか! ねえセラ! 今日も怒っていいから罵って! もっと罵ってほしい! できれば踏んで!」
「貴様の頭を断ち割るのなら、やぶさかではないがな」
「……ああっ……その台詞……脳内で十回リピートしたい……!」
――こうして、セラの朝稽古と、僕の変態でゅふタイムは、今日も全力で堪能されたのだった――。




