少年オンルの苦悩 3
洞から大量の蔦が一斉に飛び出し、私の手足に絡みつく。
「しまっ!? クッ!」
魔法を詠唱して燃やそうとしたが蔦で口を塞がれて声が出せない。
「オンル!?」
「ング!? んげんぅ!」
なんとか話そうとするがまともな言葉にならず。
そもそもこの植物はこの森にいない種類。しかも、厄介なのは……
「クッ!」
幻術のようなもので狙った獲物をグルグルと同じ場所を徘徊させて体力を奪い、弱ったところで蔦で捕まえて魔力を吸い上げる。
(詠唱ができないうえに、魔力まで取られたら……)
バークほどではないが、私も魔力はそこそこある。なので、すぐに魔力が空になることはないが、吸われ続ければそのうち魔力が枯渇して命の危機に。
「オンルを離せ!」
バークが蔦を掴んで引きちぎろうとするが……
「グッ!」
蔦の先端が手足に食い込み痛みが走った。
思わず漏れた声にバークが素早く蔦から離れる。
「引きちぎれないのか」
こういうところの察しが良いのは助かる。
私は口を塞がれたまま叫んだ。
「んぐ! ふぐんぐぐぅ……クッ!」
(助けを! 師を呼んでき……クッ!)
バークではこの植物は倒せないがクロッブ師なら、と考えたが、そのことを伝えている途中で急激に魔力を吸われる量が増えた。
これまではチョロチョロと様子見のように吸われていたが、今はドバッと全開で容赦なく搾取されている。
(これは……マズい……)
急激な魔力量の減少に体がついていかず目の前がかすみ、意識が薄れていく。
「オンル!?」
いつもなら大きすぎるバークの声が小さく聞こえるほど。
目を開けているのに見えている景色の色が消え、ぼやけていく。
「オンル! しっかりしろ!」
突進してくる紫黒の髪。だが、それも簡単に蔦で妨害される。
(だから、バカ正直に正面からではなく……頭を使えと……)
どうにか目だけは開いてバークの動きを眺める。
蔦の届かないところまで距離を取ったバークが鋭くこちらを睨む。
「オンル! すぐに助けるからな!」
その声とともに再び一直線に向かってくる。
(それだと、また……)
朦朧とする意識の中、視線だけを動かして紫黒の髪の動きを追う。
案の定、突進してきたバークは一斉に伸びて来た蔦に捕まった。
(だから、頭を……)
だが、これは逆に好機でもある。
蔦がバークの膨大な魔力を吸い始めれば、こちらの魔力を吸う量が減るかもしれない。それどころか、バークの膨大すぎる魔力でこの植物が不調を起こす可能性もある。
残り少ない魔力を集めて対策を練っていると、私の耳に快活な声が触れた。
「これか!」
声がした方へ顔を動かすと、そこには蔦に捕まっていたはずのバークが。
しかも、一心不乱に枝を刺した部分にある土を掘り返している。
「んぅん!?」
(どうして!?)
もう一度バークが蔦に捕まった場所へ視線を移す。
すると、そこには蔦に絡まった土人形が立っていた。
(まさか、魔法で作った土人形を身代わりに!? 頭を使うことを覚えた!?)
驚いていると手足に絡まっていた蔦が緩んだ。
「え?」
私を解放した蔦が一斉にバークへ襲いかかる。
その様子はまるで焦っているかのようで……
「あった!」
褐色の手が土の中から真っ赤な実を掘り出した。
そのことに蔦がより一層動きを鋭くする。
一方で、褐色の手の中にある実が二つに割れ、中から巨大な口と鋭い歯がバークの顔めがけて飛び出してきた。
「バーク!」
魔力がほとんど残っていない私は魔法で助けることができない。
(このままではバークが食べられる!)
焦る私とは反対にバークがニヤリと口角をあげる。
『吠え猛る黒風よ、万物を取り込み、盾となり、牢となれ! 紅蓮の炎よ、万象を喰らい、焼き尽くし、爆ぜろ!』
突風が吹き荒れ、巨大な口を空へ舞い上げると、盛大な炎があがり、巨大な口は一瞬で灰になった。
「……上位魔法を同時に二つも使うとは」
膨大な魔力を持つバークだからできること。
唖然とする私を見つけた黄金の瞳が慌てて駆けてくる。
「オンル、大丈夫か!?」
「私は、まぁ……それよりバークは平気なんですか? 二連続で魔法を詠唱するなんて」
心配する私とは反対に、バークは悪戯をした子どもが誤魔化すように早口で言い訳を並べた。
「いや、だって燃やすだけだとその火が周りの森に移るだろ? それだと、森も焼けるから危ないと思って風の魔法で火を閉じ込めるようにして使ったんだ。あ、ほら! 頭を使うってやつ! ちゃんと頭を使っただろ!」
後半は思いついたように話したバーク。
その姿に力が抜けた私は思わずその場に座り込んだ。
「どうした!? どこか怪我をしたのか!? それとも、頭を使うが間違ってたか!?」
「間違ってはいないんですが、間違ってます」
額を押さえてため息を吐く私に慌てたような声がかかる。
「間違ってないのに、間違っているって、どういうことだ!?」
頭を使って戦ったことは間違っていない。ただ、私が問題にしているところはそこではないので、間違っている。
そのことを説明することが面倒になった私はしつこく訊ねてくるバークを無視した。
地面に座ったまま残り少ない魔力を整えていると、聞き覚えのある声が近づいてきた。
「おう、ちゃんと頭を使う戦いができたじゃねぇか」
「クロッブ師匠!」
森の中から現れたクロッブ師にバークが駆け寄る。
その姿と台詞に私はピンときた。
「クロッブ師。まさかとは思いますが……」
疑うような私の視線にクロッブ師がサッと茶色の目を逸らす。
その表情で確信した私は怨嗟の念を込めて叫んだ。




