少年オンルの苦悩 4
「クロッブ師ぃぃぃぃい!?」
剣ダコまみれの大きな手が私を落ち着かすように上下する。
「まあ、まあ。バークが頭を使って戦うことができたんだから良いじゃないか」
「だからって、私を巻き込まないでください!」
「いや、悪かったって」
怒鳴る私に平謝りするクロッブ師。
そして、この展開についていけていないバークが一人で首を傾げている。
「何かあったのか?」
なぜ、ここであの勘が働かないのか。
怒りを堪えながら私は説明をした。
「先程、私たちを襲った植物ですが、この辺りには生息しておりません」
「そうだな。初めてみた」
「では、なぜここにいたと思います?」
「そういえば、なんでだ?」
腕を組んで不思議そうに紫黒の髪を揺らすバーク。
その能天気な様相に私は殴りたくなったが、魔力を限界まで吸われたため手をあげるのも億劫な状態。そのためグッと我慢して説明を続けた。
「誰かが種を植えて育てた、ということでしょう」
「誰が何のためにそんなことをしたんだ?」
ここまで説明して気づかないバークに私は吠えた。
「あなたが頭を使って戦えるようになるためですよ!」
黄金の瞳が丸くなってパチパチと瞬く。
「オレ!?」
ここまで鈍いとは思わなかった私はすべてを投げ出したくなった。
「すべてはクロッブ師の策略ですよ! なんで、ここでお得意の勘が働かないんですか!?」
私の叫びにバークが困ったように頭をかく。
「そう言われてもなぁ。全然、気づかなかったし」
「策略ってほどじゃないけどな。バークは自分のことになると勘が鈍くなるし」
「だからって荒療治が過ぎます! しかも、私の魔力をほとんど吸われましたし!」
私の苦情にバークがハッとなる。
「そうだ! あのままだったらオンルが危なかった!」
「本当にヤバかったら助けに入るつもりだったが、オンルは自力でなんとかするつもりだったろ?」
茶色の瞳がすべてを見通るように私を見つめる。
「……まぁ、策は練ってましたが」
あの植物には私の吸われた魔力がたっぷり溜まっていたので、その魔力を使って植物を爆発させて逃げられるように算段はつけていた。
そんな私の説明にクロッブ師が満足そうに頷きながらバークへ視線を移す。
「これが頭を使う戦いだ。バカ正直に正面から特攻するだけが攻撃じゃない。その場にあるもの、すべてを使って勝つ。卑怯だと言われることもあるが、それが必要なこともあるし今後、仲間が目の前で危険にさらされることもあるかもしれない。もしそうなったら、卑怯だの何だの言っていられないだろ?」
クロッブ師の説明にバークが静かに頷く。
「わかった」
「よし、じゃあ今日の訓練はここまでだな」
「まだ素材を採ってきてないぞ」
泉を指さして言ったバークに対して、私は思わず怒鳴った。
「どこまで察しが悪いんですか! そんなの、ここに来させるための方便に決まっているでしょう!?」
「そうなのか!?」
驚くバークにクロッブ師が笑う。
「バークは人を疑うことも覚えたほうがいいな。まあ、素材は必要だが」
「だろ? だから、採ってくる。師匠はオンルと一緒に宿舎へ戻ってくれ」
そう言うとバークは一人でさっさと泉の方へ歩いていった。
その後ろ姿に私は慌てて懐から紙を出した。
「必要な素材が書かれた紙はここにあるのに」
「内容は覚えているんだろ。あいつは本質を見抜く目は鋭いからなぁ。そこで何とかなっているだろうが」
思案混じりの言葉に私は首を傾げた。
「何か問題がありますか?」
「いや、そこは良いんだけどな。あとはもう少し欲を持てばいいんだが」
「欲、ですか?」
「あぁ。あいつは自分のことに対しては無欲なことが多い。だから訓練でも勝ちたいという執着がない。それで、頭を使って戦えと言ってもピンとこなかったんだろうけどな。今回はおまえがピンチになってくれたおかげで、ようやく理解できたようだ」
悪気なくニカッと笑うクロッブ師にバークの無邪気な笑みが重なる。
「他人を勝手に利用するところは師弟で似ないでほしいですね」
「それはバーク次第だろ。ほれ、回復魔法をかけてやるから、そろそろ機嫌直せ」
「回復魔法は当然ですね。そもそもクロッブ師はバークに甘いんですよ。それに、頭を使わせたいならこんな回りくどいことをしなくても……」
「あー、あー、俺が悪かった! 俺が悪かったから、くどくど言うのはやめてくれ!」
こうしてクロッブ師の回復魔法で動ける程度に魔力が回復した私は宿舎へ戻って休み、バークは泉の近くにあった素材をしっかりと集めて戻ってきたのだった。
~数日後~
石の壁に囲まれた広場の真ん中で、私は刃を潰した剣を持ったバークと再び模擬戦をしていた。
「さて、今日はどうなるか」
少し離れたところで腕を組んで見守るクロッブ師。
その前で剣をかまえるバークと、魔法のみで応戦する私。対面したままジッとお互いの動きを注視する。
私の周囲には一定の距離で防御魔法がかけられており、近づけば自動で魔法が発動して私を守る。竜族でこんな繊細で器用な魔法を使えるのは私ぐらいしかいないだろう。
そんな厄介とも言える魔法をバークは警戒して近づかない。
「そちらがこないなら、私からいきますよ」
一歩踏み出した私に対して、黄金の瞳がチラッとクロッブ師を見る。
(何か?)
反射的につられて私の視線もクロッブ師の方へ動く。
その瞬間。
ブワッと魔法が発動して風の壁が私を包んだ。
「っ!?」
正面を見れば砂と小石が飛んできており、防御魔法が自動で発動していた。
ただ、問題なのはその先にいたはずのバークの姿がない。
「どこに!?」
慌てて周囲を確認する私の背後で再び風が巻き上がる。
急いで振り返ると、そこには風の壁を突き抜けた剣先が迫っており……
「くっ!」
咄嗟に体を反らして逃げる。
剣先が私の胸の飾りを掠めたが外れることはなく、剣だけが飛んでいった。
予想外の攻撃の連続をかわすことができ、ホッとしながら姿勢を正す。
「防御魔法を避けるために剣を投げるとは。少しは頭を使うようになったみたいですね」
「あぁ。こうすれば良かったんだな」
すぐ隣から聞こえた声に地面を蹴って離れる。
「いつの間に!? 防御魔法は!?」
私の問いに黄金の瞳がニヤッと細くなる。
「オンルを守っていた魔法って、勢いとか敵意とかに反応するだろ? なら、敵意なしで普通に近づいたらどうなるかな? と思ってさ」
そう説明したバークが右手を動かす。そこには私の胸に付けていた飾りがあり……
「なっ!?」
「案外、普通に取れるもんなんだな」
驚愕する私に対して、ケラケラと軽く笑うバーク。
「おー、すっかり頭を使った戦いができるようになったな」
腕を組んだまま感心するクロッブ師。
「おう、クロッブ師匠のおかげだ」
和やかに話す二人。
一方の私は心の奥底からはフツフツとドス暗い感情が噴き出していて……
「次は私が剣を持つ番ですよね?」
極力、穏やかな声で訊ねたが二人の肩がビクリと跳ねた。
「オ、オンル? どうした?」
おずおずと声をかけてきたバークににっこりと笑みを返す。
「何もありませんよ? さあ、早くしましょう。次は私が剣で攻撃ですよね?」
青ざめた顔で私を見る二人。
「えっと、ほどほどに手加減しとけ……よ?」
クロッブ師の言葉に私は満面の笑みで頷いた。
「はい。頭を使うということがどういうことか教えるだけです」
バークから小さな悲鳴が漏れたが聞かなかったことにして剣をかまえる。
こうして私が剣、バークが魔法のみを使った訓練が始まったのだが……
「ぎゃー!」
しばらくしてバークから盛大な悲鳴が響き、私はクロッブ師が止めるまで頭を使った剣でバークを攻撃をし続けたのでした。
短編はこれで終了です
4月30日にコミカライズ合本版5巻が各種電子書籍サイトより配信開始にしております!
いよいよ獣人の国編! 海を渡ってモフモフいっぱいな中華ファンタジーな国へ!
茶色井りす様による可愛いミーとカッコいいバークの漫画をぜひぜひお楽しみください!(๑•̀ㅂ•́)و✧




