少年オンルの苦悩 2
結局、手を抜いている、いないの話は平行線のままで、見かねたクロッブ師が間に入って訓練を再開。
次はバークが魔法を使い、私が剣を使って胸飾りを奪うことになったのだが……
結果は私の勝利。
これについては予想通りでもあった。
そもそもバークは魔力が大きいため、繊細な調整が必要な細かい魔法はどうしても苦手になる。
周囲を気にしない威力が大きな魔法ならいくらでも使えるが、胸に付けた小さな飾りだけを狙うとなると魔法の威力を調節しないといけないため、かなり難しい。
「よし、じゃあ今日はここまでだ」
クロッブ師の言葉に私は思わず空を見上げた。
太陽は真上から少し傾いたぐらい。訓練を終了するには、まだ早い。
そんな私の疑問を察したのかクロッブ師が森の方を指さした。
「明日の訓練に使う材料を採取してきてくれ。必要な物はここに書いている」
そう言って差し出された紙。そこには森で採取できる鉱石や魔法草などが書かれていた。
「わかりました」
紙を受け取った私は内容にザッと目を通してポケットに入れて、後ろから覗き込んでいたバークに声をかける。
「では、行きましょう」
「そうだな。じゃあ、師匠。いってくる」
「あぁ。気をつけて行ってこい」
クロッブ師が私たちに軽く手を振った。
~
バークとともに獣道を突き進む。
目的地はこの奥にある泉。紙に書かれていた鉱石や魔法草は泉の周囲にあるものばかりだったので、そこへ行くのが手っ取り早い。
黙々と先を歩く紫黒の髪に私はつい愚痴が漏れた。
「まったく。いつになったら自分の力を自覚するのか……」
独り言のつもりだったが、前を歩いていたバークが振り返る。
「だから、オレは全力で訓練しているって」
「そう思い込んでいるところが問題なんですよ。魔力だって頭を使えばもう少し細かく制御できるようになるのに」
「その、頭を使うっていうのがわからないんだ」
口を尖らせるバークに私は肩をすくめた。
「力押しで済む戦いばかりではありません。緻密な作戦と作業が必要な戦いがあることは座学で学んだでしょう?」
「学んだだけで実際にできるなら、とっくにやってる」
「……たしかにそうですね」
バークにしては珍しい正論に思わず頷く。
「だろ? だから、何度も言うなって」
そう言って話を切るように前を向いて歩き出したバーク。
私はその後ろ姿に念押しするように言った。
「ですが、いずれ魔力の制御は必要になりますからね」
「わかってる」
バークが私の前を歩きながら左手首を持ち上げる。
そこにあるのは特別に作られた魔力を吸い取る魔道具。バークの魔力が大きすぎるため、制御しきれない魔力はこのブレスレットが吸収している。
バークが魔力を完全に制御できるようになれば必要なくなるのだが、まだしばらくは手放せそうにない。
「どうすればいいんだろうなぁ」
バークがぼやきながら近くの木の枝を折り、足元に突き刺す。
その行動につい口が出た。
「手持ち無沙汰だからとむやみに森を傷つけないでください」
いつものバークならやらない行動。それだけ苛立っているということなのだろうか。
私の忠告に紫黒の髪が素直に頷いた。
「わかった、わかった。ま、そのうちどうにかなるだろ」
あっけらかんとした声と他人事のような言い方に私の方が頭が痛くなる。
「まったく」
額を押さえたまま歩いていく。
こうして無言のまましばらく歩いたところで、バークの足音が止まった。立ち止まったままキョロキョロと周囲を見まわしている。
その様子に私は同じように周りを見ながら訊ねた。
「どうかしました?」
「なんか、おかしくないか?」
「何がです?」
鬱蒼とした森はいつもと同じで、特に変化は感じられない。
だが、バークは神妙な顔で断言した。
「かなり歩いたと思うんだが、泉が見えない」
その指摘にハッとなる。
たしかに、とっくに泉に到着していて良い頃なのに、まったく泉が見えない。
「道を間違え……いえ、獣道とはいえまっすぐ進んできましたし、方角も合ってます」
太陽の位置と影の向きと長さから道を間違えたとも思えない。
「だよな。けど、アレ」
バークが指さした先。
そこには少し前の会話でバークが折って刺した枝があった。
「……戻ってきたということですか?」
「同じ場所をグルグル歩いているのかもしれない」
そう言われた私は目を閉じて周囲の魔力を探った。
一見するといつもと変わらない森。しかし、微妙に魔力の流れがおかしいところがある。
目を開けた私は一点を指さした。
「あそこに微かな綻びがあります」
そこは奇しくもバークが枝を折った木の根元。
「調べてみるか」
ズンズンと進むバーク。
一方の私は他に変なところがないか注意深く警戒しながら歩く。
「このことに気づいて枝を刺したんですか?」
「何となく嫌な感じがしてな。勘だ、勘」
本能が強いというか、バークのこういう勘は本当によく当たる。だから、余計に頭を使わないのかもしれないが。
「オンル、これ見たことあるか?」
先に木の根元まで移動していたバークが手招きをする。
「もう少し警戒心を持ってください」
あまりに無防備な様子に思わず苦言しながら近づく。
バークが枝を折った木はこの森に普通に生えている木の一つで特に変わったところはない。
周囲を観察しながら褐色の指が示した先に視線を向けると、そこは木の根にできた拳大の洞で……
「こんな穴なら普通にありま……危ない!」
私は反射的に隣にいたバークを突き飛ばした。




