ツカサとシンのクリスマス 前編
私は普通では考えられない……それこそ小説か漫画のような紆余曲折を経て、今はエルフの里の入り口でケーキ屋をしていた。
エルフの里は温暖な場所にあり、とても過ごしやすいが冬になっても雪が降ることはない。
そのため、ここしばらくは雪と無縁の生活をしていた。
とはいえ四季はあるため、穏やかな温かさの春も、蒸し暑い夏も、なんとなく肌寒い秋も、それから凩が吹く冬もちゃんとやってくる。
それこそ雪は降らないが、それなりに寒くなるし、あれだけ色鮮やかに派手派手しい紅葉をしていた木々はすべての葉が落ちて寂しい姿になっている。
その結果、店の周囲は枯れ葉だらけでほっといたら埋もれてしまいそうになるほど。
なので、ケーキを売り切って店を閉めた後、私はホウキでせっせと庭掃除をしていた。
「まったく。毎年、毎年、よく枯れるわね」
一か所に集めた枯れ葉の山を眺めながら、ふと呟く。
「……クリスマスかぁ」
久しぶりに会ったミーちゃんたちと盛り上がった話を思い出す。
空を見上げれば、太陽が沈んで暗くなり始めた冬の空。澄んだ空に星々が輝く。
「ここだとホワイトクリスマスなんて夢のまた夢よねぇ」
私のぼやきに低い声が訊ねてきた。
「ホワイトクリスマスとは何ですか、ツカサ?」
しまった、と内心でため息を吐きながら振り返る。
そこには想像通り、肩で切り揃えた白銀の髪を揺らして近づいてくる超絶美形なエルフがいた。エルフの特徴である尖った耳に端正な顔立ち。そこにスラリと長い手足はどこぞのモデルよりも美麗な容姿。
それでいて、若葉のような新緑の瞳を柔らかくして私を見つめる顔はいまにも蕩けそうで。
(どうして、こんな平凡な私に惚れているのか……いまだに七不思議のひとつなのよねぇ)
そんなことを考えながら私は答えた。
「えっと、クリスマスに雪が降ることをホワイトクリスマスっていうの。クリスマスについては、ミーちゃんたちに説明した時に聞いていたからわかったわよね?」
「クリスマスについては、そういう行事なのだということは理解しました。ですが、なぜ雪が降るとホワイトクリスマスになるのですか?」
エルフ特有の探求心というか、シンは自分が知らないことを知りたがる。
出会った頃はそれで質問攻めにされまくって夜も眠れないことがあったほど。
(今は多少マシになったけど……でも、質問モードになったらしつこいのよね)
私は少しだけ嫌な予感を覚えながら言った。
「雪って白いでしょ? で、白はホワイト。だから、雪に染まったクリスマス、ホワイトクリスマスっていう感じ。たぶんだけど」
「たしかに雪は白いですが、それでクリスマスという行事まで白くはなりませんよね?」
「そういう細かいことはいいの。それでロマンチックになればいいんだから」
「雪が降るとロマンチックになるのですか?」
最初の頃は、あぁ言えば、こう言う! とキレていた私だけど、今はもう慣れたもので。
私は肩をすくめながら淡々と話した。
「雪がしょっちゅう降るところだとロマンチックにはならないと思うけど、たまにしか降らないところならロマンチックになるんじゃない? それに、雪が降るほど寒いってことで体を寄せ合う言い訳もできるし」
「体を寄せ合うのに言い訳が必要なんですか?」
そう言いながら当然のように長い腕が私の腰に絡みつき、体を引き寄せる。
バターと砂糖の甘い香りが鼻をくすぐり、ほのかなぬくもりが私を包む。最初の頃は恥ずかしさと、美麗な顔のドアップに耐えられなくて逃げ出していたが、今ではすっかり慣れてしまって。
私は肩をすくめながら当然のように話した。
「まあ、シンには必要ないんだろうけど、世の中には必要な人もいるのよ」
「人……あの竜族と人族のことですか?」
ちなみにシンが口にする竜族と人族はバークさんとミーちゃんぐらい。
そのことを察した私は少しだけ悩んだ。
「あの二人は……言い訳が必要な時期は過ぎたかな」
「言い訳が必要な時期があるんですか?」
「ある人にはあるのよ。ほら、それより店の中に入らない? 体も冷えてきたし」
このまま話を続けていたら永遠と解説をしないといけなくなる。
その危機を察知した私はスルリとシンの腕から抜け出して足を進めた……が、グイッと再び腕の中に閉じ込められた。
「もう少し詳しく教えてください。言い訳が必要な時期とはどのような時期で、それが過ぎるとどうなるのですか?」
面倒と思いながら視線をあげれば真剣な新緑の瞳が見つめていて。
その真剣な眼差しに慣れたはずの胸がドキドキと駆け出す。
私はなるべく平静を装って説明した。
「言い訳が必要な時期は、その……体を寄せ合いたいけど恥ずかしいとか、慣れてないとか、付き合い始めた頃で、それを過ぎたら体を寄せ合うのが当たり前になる……って感じ?」
「そういうことですか」
納得したのかシンの腕の力が緩む。
チャンスとばかりに私は腕から抜け出して店の中へ駆け込んだ。バタン! と背中でドアを閉めて大きく息を吐く。
「もう誰よ、美人は三日で飽きるなんて言ったの! 何年経っても飽きないんだけど!」
そこに背後から音もなく影がかかった。
「飽きてもらっては困りますから」
振り返れば満面の笑みで立つシン。どうやら魔法で店の中へ短距離転移したらしい。
魔力の無駄使いにも程がある……が、それよりも満面の笑みに嫌な予感がする。
無言でシンを見上げていると白い指が私の黒髪に絡み、薄い唇が優雅に動いた。
「ところで、美人は三日で飽きるという言葉は……」
「あー、もう! それは後で! ちょっと休ませて!」
質問攻め続行の気配を悟った私は先に休憩を要求した。
~~
そんなことがあった数日後。
「ありがとうございました~」
本日、最後のお客を見送って店のドアに閉店の看板をさげる。
「陽が沈むのが早くなったわね」
青かった空がオレンジ色に染まり、夕陽が森に沈もうをしている。
冷えた風から逃げるようにドアを閉め、いつも通り店内の片付けと掃除をしていると店の奥からシンの声がした。
「ツカサ、そちらの作業が終わったらサロンへ来てください」
「わかったわ」
軽く返事をしたもののサロンへ呼ばれる理由が浮かばない。
「ケーキの試作品を作ったとか? でも、それならサロンで食べなくてもいいし……」
ケーキの試作品は食後のデザートで食べるか、休みの日のオヤツで食べる。そもそも、サロンは寒い冬の日に外の明るい陽射しを浴びるための部屋なので、この時間にサロンを使うことがない。
店の片付けと掃除を終えた私はうーんと頭を捻りながらサロンへと足をむけた。
陽が落ちて薄暗くなってきた廊下を進み、サロンのドアを開ける。
「シン、どうかした……って、本当にどうしたの!?」
予想外の光景に私は思わず声をあげていた。
後編は夜に投稿します!
電子書籍6巻が本日から配信開始になっております!
書籍の5、6巻は二人も登場しますので、本編もぜひぜひお楽しみください!




