3 ビアータの正体
昼休みになった。
「じゃあ、また午後の授業でね!」
ビアータは、手を振って、教室の外に行ってしまった。3人は後ろを追いかけて、尾行を始める。学生食堂だった。
「なぁんだ。普通じゃん」
アルフレードとコルネリオもそう思った。3人はビアータの少し後ろに並ぶ。ビアータは、ランチボックスを2個受け取った。そのまま振り返れば、当然3人と出くわす。
「あら?3人もランチボックスなの?いつもは、あちらの定食だったでしょう?」
ビアータが3人の昼食パターンを知っていたことに、アルフレードは驚いた。アルフレードが知らないだけで、ビアータは、アルフレードのことをよく見ていたのかもしれない。
「たまには、外もいいかなって。なぁ!」
「ああ、そ、そうなんです。ビアータさん、いい場所あったら、教えてくれますか?」
コルネリオの対応にアルフレードが反応して、ビアータの行動を聞きやすくした。
「んー、じゃあ、一緒に行く?」
行動を聞くつもりだけだったので、3人は面食らった。
「え?いいの?だって、それ、誰かと待ち合わせじゃ?…」
ファブリノは、ランチボックスを2つ抱えるビアータの手元を指差した。
「お邪魔はできないよ」
アルフレードも引き下がる。なぜか、3人はビアータの相手が男子生徒だと決めつけている。
「3人はきっとランチボックス1つじゃ足りないわよ。ランチボックス2つにするか、サンドイッチももらうかした方がいいわ。ここで待ってるわね」
アルフレードたちの順番が近いのを見て、ビアータがアドバイスした。まさか、ビアータが2つ持っているのも両方ビアータのものなのか?3人は、自分たちより小さくスマートなビアータをまじまじと見てしまった。ビアータはそんなことには気にも止めた様子もなかった。
ビアータのアドバイスを素直に聞いて、3人はランチボックスを2つ抱えてビアータの元へ戻ってきた。
〰️ 〰️ 〰️
ビアータに案内されたのは、温室であった。3人は温室があることは知っていたが、来たのは初めてだ。
「お待たせぇ」
ビアータが声をかけたのは、こちらも少しだけ小麦色の小さな女の子だった。
「今日はずいぶんと遅かったのね」
ピンクがかった金髪に紫の目をした小さな女の子は、3人を見ると一瞬驚くが、すぐさま笑顔になった。
「って、あら?愛しのダーリンじゃないの。早速、いいことがあったわね。Cクラスになってよかったじゃない」
いきなり知らない女の子に『愛しのダーリン』などと言われて、3人は動揺したが、よく考えれば、ビアータとアルフレードのことなのは明白だ。自覚したアルフレードは赤くなった。
「あら!ダーリンが赤くなっちゃったわ!アハハハハ」
「もう!だから純粋な人なのよって言ったでしょう。からかうのは、もうなしよ」
ビアータが口を尖らせた。女の子は笑いながら、頷いた。
「わかったわよ。アハハ」
「でも、すべてはサンドラのおかげよ。ありがとう。
紹介するわね。こちら、サンドラ・グランディ男爵令嬢、うちの隣領なの。私をCクラスにしてくれた親友よ。彼女、天才なの」
「やめてよ、ビアータ。努力家って言ってほしいわ。みなさん、はじめまして、サンドラ・グランディよ。よろしくね」
サンドラは3人に手を降った。
3人もサンドラに自己紹介をして、テーブルについた。時間もないので、早速食べ始める。
「うわっ!うまっ!俺、ランチボックスなめてたわぁ」
ファブリノが目を丸くしていた。コルネリオも口を動かしながら、大きく頷いていた。
「うん、これなら2ついけちゃうね」
アルフレードも笑顔だ。
「でしょう。週替わりだから飽きないし、とてもいいの」
「うん!本当においしいよ」
コルネリオは、食べ物をキチンと飲み込んで、感想を言った。
「うわぁ、本当に2つ食べてるわぁ。男の子ってすごいのね」
サンドラは、3人の食欲に感心していた。
みんなのランチボックスが空になった。
「サンドラ、彼らが時々こちらに来ること、許してね」
ビアータが、サンドラにウィンクしながら、手を合わせた。
「フハハ、ビアータ、そういうのは、連れて来る前に言うことよ。まあ、どちらでも答えは一緒だけどね」
サンドラも、ビアータにウィンクした。
「ありがとう」
ビアータが3人に向いた。
「定食に飽きたら、いつでも来てね。それじゃあ、私たちはやることあるから、これで」
ビアータとサンドラが立ち上がる。
「え!あ、ビアータさん、何をやるの?」
アルフレードも慌てて立ち上がって、ビアータに質問した。
「もちろん、植物の世話よ。ここと、ここの隣に、畑もあるの」
ビアータは、アルフレードが自分に興味を持ってくれているのではと思い、笑顔で答えた。
「畑もやってるの?」
しかし、強く反応したのは、意外にもコルネリオだった。
「ええ。とにかく、時間がなくなってしまうから、説明は、作業をしながらやるわ」
サンドラに案内されて進んだ先にあったのは、小麦だった。サンドラとビアータは、手際よく水やりをしていく。それを興味津々に見ていたのは、コルネリオだった。
「なぜこの時期に小麦の苗があるんだ?」
小麦の収穫は、王都周辺では7月から8月と言われている。苗であるのはおかしい。コルネリオは本当に植物に興味があるようだ。
「コルネリオ君、詳しいのね。ここは温室だから、季節に関係なく育てられるのよ」
「なぜ、温室で育てているんです?」
アルフレードが小麦の苗を少しだけ触りながら聞いてみた。アルフレードは小麦に詳しくないので、どこまでどうしていいのかわからない。
「サンドラは5年前から、小麦の品種改良をしているのよ。温室の中なら2年分の成長ができるのですって!」
「ビアータと一緒に、でしょう」
「私は助手ね。フハハ」
二人は謙遜しながら、小麦の様子をチェックしていく。
「5年前って、初等学校から?」
ファブリノは、どこを触っていいかもわからないので、ただ付いてきて話をしている。
「だから、サンドラは天才なのよ。ふふふ」
「どう改良しようとしているの?」
コルネリオはさらに食いつく。
「実の付き方ね、南部の穂は、実が少ないのよ。でも、少しくらいの暑さなら耐えられる。実が多くて暑さも平気なものが作りたいわ。それは、他の野菜も同じよ」
「実が多いのは理想だよね。この野菜は?」
「それは、実を大きくした人参よ。1つ抜いていいわよ」
コルネリオは、よく育っているものを選んで抜いた。
「おお!これは立派だな。この大きさなら、育てたり、収穫したりする手間が随分と減りそうだ。すごい!」
サンドラとコルネリオは、話が合うようだ。コルネリオは収穫だけでなく、いつの間にか手伝っている。アルフレードとファブリノは何をしていいかもわからず、ただ立っていた。
「でしょう!カブも立派なのよ。でも、まだ少しだけ早いわね。来月には立派な物が見せられるわ」
「すごいなぁ。是非それをみたいよ」
「ええ!楽しみにしていて!」
コルネリオは、いつの間にか、サンドラと軽い約束まで取り付けていた。
温室の作業が終わると、外の畑へとむかう。先程見た野菜も並んでいる。そして、その向こうには、たくさんの種類の薬草やハーブが元気よく育っていた。サンドラとビアータは、こちらでも手際よく作業をしていく。コルネリオも自然に手伝う。
「うちの領地でもこの薬草を扱っている村があるよ。寒さに弱いから寒くなるまでに乾燥させて冬でも使えるようにしているんだ」
「ええ、温室があればいつでも生葉が使えるのにね。村で温室を持つのは無理だものね。コルネリオ君は何州?」
「ノリニティ伯爵州だよ。その南の方にうちの領がある」
「あら、お隣の州なのね。なら気候が近いのかな。うちの領にもこの薬草を育てている村があるわ」
ここでも、コルネリオは、今までにないくらいしゃべってた。それはサンドラも同じで、ビアータでさえ、男の子とこんなに話すサンドラは見たことがなかった。
ビアータは、コルネリオのことはサンドラに任せても大丈夫だと判断した。
ビアータは、アルフレードとファブリノを次の畑に連れて行く。アルフレードとファブリノは、ビアータに説明されながら、人参畑の雑草取りを手伝った。
「みんなは、そろそろ午後の授業よ。もう行ってちょうだいな」
1時間ほど手伝っていると、サンドラが畑に響く大きい声を出した。ご令嬢らしくはないが、3人にとって、嫌な印象を与えるものでは、全くなかった。
「わかったわ。サンドラ、また放課後に来るわね」
ビアータも、離れた畑にいるサンドラに大きな声で話をして、手を振っていた。
「ええ、お願いね」
4人は、サンドラに手を振って教室へ向かった。
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