4 アルフレードの気持ち
4人は途中の井戸で手を洗う。ファブリノは気になって聞いてみた。
「サンドラちゃんは、授業に出ないの?」
「Aクラスは、テストさえ受ければ、授業は受けなくてもいいんですって。もちろん、成績次第でクラス降格はあるのよ。サンドラは、1学期もほぼここにいるか、図書室いたの。それでもAクラスなのよ。夜にお勉強すれば、足りるのですって」
「す、すごいですね」
アルフレードは、自分のまわりにはありえない世界の話で、さすがにびっくりした。ファブリノもコルネリオも目を丸くしている。
「品種改良なんて、根気と想像力がなきゃできないよ。本当にすごい。ビアータさん、放課後も一緒に行きたいんだけど、ダメかな?」
コルネリオが、ビアータにお願いした。
「いいわよ。でも、まずは、言葉を直してからね。私たちに『さん』をつける必要はないし、アルフレード君みたいに敬語は嫌だわ」
ビアータは、アルフレードにウィンクした。アルフレードは頬が熱くなるのを感じた。
「わ、わかった。ビアータ…ちゃん?」
「ちゃんもいらないわよ」
ビアータは、身を乗り出して、背伸びをして、アルフレードの顔をじっと見た。
「ビアータ…も、僕たちに『君』はいらないよ。僕のことは『アル』でいいよ」
アルフレードは、少しだけ仰け反って答えた。
「じゃあ、僕のことも『コル』って呼んでね」
「えー、俺、愛称ないんだけどぉ」
「そうねぇ、『リノ』でいいんじゃない?3人、お揃いみたいでいいわ!」
ビアータは、ファブリノに笑顔を向けた。
「リノか、そうしよう!ハハハ」
「オッケー!でさぁ、アルは、放課後どうする?」
4人は、クラスに向かって歩き出した。
「うーん、今日は鍛錬場に行く。昼休みに行ってないからね」
アルフレードは少し迷ったが、目標である騎士団入団のためには、必要なことだった。
「そうか、じゃあ俺もそうするよ。ビアータ、コルをよろしくね」
「わかったわ」
ビアータは、笑顔で受け入れた。
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そして、放課後。二手に分かれる。
「コル、じゃあ、寮でな!」
「ああ、またあとで」
コルネリオとビアータが並んで温室へ向かう。アルフレードは、何とも言えない気持ちで、二人の後ろ姿を見送っていた。
「アル、俺達も行こうぜ!
あれ?もしかして、コルにヤキモチやいてんの?」
ファブリノが下からアルフレードをからかう。アルフレードが上から睨む。それなのに、全く怖さがない。
「は?何言ってるんだよ。そんなわけないだろう」
「そうそう、ビアータは、アルのことが好きなんだ。コルだってわかっているさ。心配すんなって!」
ファブリノは、思いっきり、アルフレードの背中を叩いて、ビアータたちとは反対方向に歩き始めた。アルフレードも後に続く。
アルフレードは、『ビアータに好きだと言ってもらったことはない』とは言えず、自分の気持ちを持て余したまま、鍛錬場へと向かった。
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その日、寮での夕食では、コルネリオが二人に興奮気味にしゃべっていた。
「それで、少し暗くなったら、図書室へ行ってさ、今度は農業についての本を読むんだよ。農業の本があんなにあるなんて、知らなかった。二人とも、気になったり、領地で使えそうだったりすることをノートに書き出してあってさ、すごいんだ。僕も明日から、ノートを持っていくんだ」
「え?お前、明日からもそっちに行くのか?」
「ああ、僕はやりたいことがわからずに、いろいろなことやってきたんだよね。騎士団の体験もその1つ。騎士団もいいなって、確かに思っていたけど、農業の勉強って、本当に楽しくってさ。自分でも驚いているよ」
「え!あ、そうなのか。コルがやりたいことを見つけられたなら、良かったんじゃないかな。な、アル」
ファブリノには、コルネリオが楽しいと言っているものの良さがわからず、でも、友人がやりたいことを見つけられたことを喜んだ。
「う、うん。コル、良かったね。ビアータも仲間ができて喜ぶんじゃないかな」
アルフレードも、もちろん、コルネリオが楽しそうに話すのを見れば、応援したくはなる。なので、自分の中のモヤモヤを見なかったことにした。
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次の日の昼休みから、コルネリオがランチボックスを4つ持って温室へ向かうようになった。アルフレードとファブリノは、定食をかきこみ、鍛錬場へと赴く。そして、放課後もそうやって過ごすようになると、他の休み時間も、コルネリオとビアータがノートを広げて話をするようになり、アルフレードは、自分の中のモヤモヤを見ないことには、できなくなっていった。
放課後の鍛錬場で、アルフレードは、ファブリノにものすごい顔で打ち込みをしていた。受けるだけなのに、ファブリノは、恐怖を感じた。
「アル、アル!」
「何っ!?」
「その体にその顔、怖い!」
「っ!!!ごめん」
アルフレードが手を止めて、シュンとする。
「コルにヤキモチやいてどうすんだよ」
ファブリノは、タオルを置いたベンチまで歩き、隣をポンポンと叩いて、アルフレードを誘った。
「ヤキモチじゃない………よ」
アルフレードは汗を拭きながら、自問のようにつぶやく。
「じゃあ、何?」
「ビアータは、僕じゃなくてもいいんじゃないかな?って。理由はわからないけど、長男じゃなければ、誰でもいいっていうか………」
「はあ?ビアータが誰かに何か言っていたのか?」
ファブリノがボトルの水を勢い良く飲む。
「違うけど……。爵位なしなら、僕もコルも一緒だし…。コルは顔もいいし、話も合うみたいだし………」
「話が合うのは、サンドラとコルだろう?この学園で、爵位なしなんて、ゴロゴロいるぞ。でも、ビアータにプロポーズされているのは、お前だけだろう?」
ファブリノは、思わずアルフレードの顔を訝しんで睨んだ。ヤキモチでないなら、何が不満なのかわからない。
「うん………。そうなんだけどね」
「お前さ、ビアータが好きなの?」
「え???!!!」
アルフレードは、飛び上がって立ち上がって、ファブリノの見下ろした。
「はぁーーー!!」
ファブリノは、膝に肘をつけて、地面に向かって盛大にため息をついてみせた。そして、上目遣いでアルフレードを睨む。
「まずは、自分の気持ちをはっきりさせろよ。はっきりしないならしないで、はっきりさせる努力しろよ。今のお前って、してもらっているだけじゃん」
ファブリノは立ち上がって、出口へ向かった。振り返らずに、アルフレードへひらひらと手を振った。
その日の寮での夕食は、2人が無言なので、コルネリオは、2人をチラチラ見ながら、黙って食べた。
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翌日、朝からファブリノが声をあげた。
「あ!俺、サンドラに聞きたいことあったんだ!」
「え!何?」
コルネリオが立ち上がって、ファブリノの顔を見た。
「こっちもわかりやすすぎだろう。ふぅ」
ファブリノは、誰にも聞こえないように壁に愚痴を言ってため息をついた。
「コル、少しだから付き合えよ」
「ああ、もちろんだ。行こう!」
二人は、アルフレードとビアータを残して教室を出ていった。
「リノがサンドラに質問なんて、珍しいわね」
ビアータが二人が出ていった出入り口を見ていた。
「あ、あの、ビアータ。僕も放課後の図書室に一緒に行ったら、迷惑だろうか?」
アルフレードは、下を向いて、目を閉じて首をひねった。アルフレードは、自分に呆れていたのだ。
ビアータは、少しだけ呆気に取られたが、すぐに回復して、満面の笑みを浮かべた。
「何を言ってるの、アル!とっても嬉しいわ。鍛錬の後でもいいの。図書室に来てくれる?アルと一緒に勉強したい事があるのよ!」
ビアータは、アルフレードの方に体ごと向いて話始めた。
「僕と?一緒に?」
「そうよっ!」
アルフレードは、とても喜んでいる自分に驚いた。
「アルは、お肉は好き?」
ビアータが、突然、不思議な質問をする。アルフレードは、何の疑問も持たずに答えた。
「もちろん、大好きだよ」
「じゃあ、卵は?」
「もちろん、大好きだよ」
「だよねっ!それを勉強したいのよ。今日からでも、アルの都合のいいときに来てね!」
「ああ!」
アルフレードは、声を高くして答えた。何を勉強したいかは、あまり問題ではなかった。アルフレードなりに、自分の気持ちをはっきりさせるための、第一歩だった。
その日の放課後、『アルが行くなら、俺も』と、ファブリノもついてきて、ビアータとアルフレードとファブリノは、家畜の勉強を始めることになった。
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