家出珍事件(2)
2019年8月26日内容修正しました。
「あ、隼人さん、別のにメッセージ来てる」
「ああ、これは関さんたちのだよ。……椿」
「なに?」
手招きされて顔を近付けるとお義母さんに少し背を向けて携帯を見せてもらう。
『面白そうだから今から俺が行って琉依の浮気がどんなだったのか聞いてやる』
竜二さんからだ。竜二さんは私と隼人さんにはいつも優しいけど普段はこんな感じだ。面白がらないでほしいけど佳代子さんも一緒に来てくれるそうだからお義母さんも安心できるだろう、と思う。
「椿ちゃんなーに?」
「え、えっとですね……佳代子さんと竜二さんが心配してきてくれるそうですよ」
隼人さんをちらりと見て頷いてもらえたからお義母さんに言う。
「そうなのー?」
「ねえ母さん、優菜さんが馬鹿なのによく遠くまで家出できたねって。一輝さんがよくたどり着けたねって」
「むー!!そんなにお馬鹿じゃないのー!!みんな私が何もできないと思って意地悪なんだからー!!」
「でもお義母さん、私のところに来た翠さんたちからのメッセージではみんな心配してますよ。お義母さんの携帯にも連絡来てるはずです」
「そうなのー?んー携帯どこかしら……」
そう言いながらキャリーバッグの上に置いてあった鞄から携帯を取り出すお義母さん。
「あら……」
お義母さんが見せてくれる携帯にはお義父さんからの大量の着信やメッセージを始め、みんなからメッセージがたくさん届いていた。
「みんな心配してるんですよ」
「んー……なんて言えば良いのかわかんなーい」
「あらら……。そしたら私が心配ないですよってみんなに伝えますね」
「うん、椿ちゃん優しいー隼人優しくなーい」
「悪かったね」
「隼人さんも心配してるんですよ」
「そっかあ!!隼人優しいー」
「はあ……単純馬鹿だな」
そう話していると竜二さんと佳代子さんが来てくれた。
「佳代子さーん!!」
「美香ちゃん、よしよし」
駆け寄ったお義母さんを抱き締めて頭を撫でる佳代子さん。
「美香ちゃん、琉依は浮気してないよ」
「嘘だわー聞いたものー」
「でも琉依朝は美香ちゃんが作っておいてくれたご飯を温めて食べたあとずっと家で1人でいたって」
「えーそうなの?」
「隼人くんが自分の口からは言えないって言ってたけど何があったの?」
竜二さんに聞かれたお義母さんはさっきよりも詳しく話してくれて、竜二さんはわかったと言って少し楽しげに携帯を持ってリビングを出た。電話するみたい。
「佳代子さん……竜二さんどうしたのー?」
「思い当たることがあったみたいね。ほら、浮気なんてしてないわよ。特注のムービーかなんか作ったんじゃない?」
「そうなのー?」
「わからないけど。でも大丈夫よ。琉依さんは浮気なんかしないわ」
「でもー……」
「琉依さん隼人くんよりドライなのよ?美香ちゃん以外の人に目を向けるわけないじゃない」
「うーん……そうなんだけどー」
「お義父さん隼人さんよりドライなの?」
「どうだろ」
隼人さんにこそっと聞いてみたけど隼人さんは首をかしげる。と、そこで竜二さんが戻ってきた。
「美香ちゃんわかったよ」
「竜二さんなーに?」
「結論、美香ちゃんが聞いたのは美香ちゃんの声だよ」
「えー違うわよ!!」
「ほら、やっぱり母さんの勘違いじゃん」
「けど美香ちゃんが知らないのは無理ないんだよ。酔ってる時だから」
「えー酔ってる時ー……?覚えてないのよねー」
「お義母さんお酒は飲めないって言ってましたよね」
「うん、琉依さんがね、1回飲んだんだけどもう飲んじゃ駄目って言うから約束守ってるのよー」
「竜二さん、まさか……」
「そう、美香ちゃんが二十歳になったお祝いにお酒を飲んだらすぐに酔ってキス魔になって、キスだけで遊ぶみたいにイチャイチャするのが可愛すぎて楽しすぎたからこっそり録音して美香ちゃんにはもう絶対に飲まないようにしたって。楽しいけど心臓といろいろに悪いから実際には1回きりで良いって1人で録音してたの聞いてたんだ」
「やっぱり親父はゲスい男だ……」
「そうなのー?んーでも優菜も絶対に飲んじゃ駄目って言ってるわよ」
「それは酒が入ったチョコレートでも酔ってキス魔になった美香ちゃんを止めるのに苦労したからだよ。優菜もなかったことにしたいし琉依も優菜に問い詰められてしぶしぶ白状したけど他には誰にも言いたくないってなって兄妹で秘密にしてたんだ。隼人くんが酔うと美香ちゃんみたいになって絡むでしょ。琉依は飲んでも普段と変わらないから誰に似たんだと思ってみんなで問い詰めたら白状したよ。自分だけが知ってる特別だったのにって文句言いながら」
「そうだったのー?言ってくれれば良かったのにー」
「琉依もさすがにうっかり出来心で録音したけどまずいと思ったんだよ。琉依にしかできない厳重なよくわからないロックをかけて自分でも1時間くらいでようやく解除できるようにして保管してるんだ。美香ちゃんが今回みたいに旅行でいない時とかにしか聞いてないんだって」
「ほら、親父危険でしょ」
「うーん……」
お義母さんがさっき話してくれた内容を録音して聞いていると言われたらさすがに普通はひいてしまう……とは思う。でも……お義母さんがどう思うのか反応を伺う。
「なーんだー。じゃあ私が聞いたのは本当に私の声なのねー。浮気じゃなくて良かったー」
お義母さんにとってはそういうものなんだ。私が息をはいていると隼人さんは唸ってしまう。
「なんで母さんはこんなに馬鹿なんだろ……単純馬鹿なんだろ、絶対に騙され放題だ」
「どうして騙され放題ー?」
「お義母さん、隼人さんはお義母さんが純粋だから悪い人に騙されないか心配してるんですよ」
「そっかあ!!隼人は優しいわー!!」
「椿……親父みたいなことしないでよ」
「ごめん、でも隼人さんは心配なんでしょ」
「そういうわけじゃないって」
「おうち帰るわー」
「え、今からですか?」
「帰ってくれるのは嬉しいけど親父がもうこっちに向かってるよ」
「じゃあ待ってるー」
「ふふ、良かったわね、美香ちゃん」
「うん、良かったー!!」
お義母さんが笑顔になってくれて良かった。隼人さんはため息をついてるけど。
「人騒がせな親だな……。摩訶不思議な厄介なことに巻き込まれて迷惑」
「隼人さん……そんなこと言わないで。お義母さんがこんな遠くまで来てくれたんだから」
「そうよねー。家出するなら場所はいくらでもあったのに何時間もかけてここまで来るなんて」
「どうしよーどうしたら良いのかわからなーいってなったら隼人に会いたいって思ったのー。だっていつも隼人は頭を撫でてくれてこうしたら良いって言ってくれてたもの。上手くお母さんができなくて悲しくなっても隼人がずっとずーっとそばで慰めてくれてたの。生まれる前からずっとなのよ、予定日はまだ先だったのに琉依さんと離れて実家に帰ってたから寂しくてね、悲しくなってたら予定日より早く生まれてくれたの。私が寂しがってるから慰めるために早く生まれてくれたのかなって琉依さん言ってくれたわよー」
「そんな話聞いてないけどまさか早く生まれたから隼人って名前にしたとか言わないよね」
「えー違うわよー!!」
「それなら良いけど……」
「やってー!!」
やってと言いながら自分で隼人さんの手を取って頭に乗せるお義母さん。隼人さんはため息をついてお義母さんの頭を撫でる。微笑ましい絵だなー、私にしてくれるのと違って雑だけど。
「ねーこの雑さが隼人って感じがするのー」
「お騒がせ天然ばーかお騒がせ天然ばーか」
「きゃー!!髪がぐちゃぐちゃになっちゃうわー!!」
両手でお義母さんの髪の毛をわさわさする隼人さん。2人を見てなんだかすごく心が温かくなる。お母さんになるってきっと上手くいかないこともあって辛いこともたくさんあるんだろうな。だけどそれでも頑張れるのも子供のおかげなんだ。今はまだ漠然としてるけどお母さんになればそれがわかるようになるのかな。いつか私にも子供ができて辛いことも楽しいこともたくさんあってその子が大人になっていく。今目の前の光景を自分に置き換えて考えてみる。これはすごく幸せなことだと思う。何気ないやり取りだけどそれまでの道のりは平坦なものじゃなくて私には想像できないくらいたくさんのことがあったんだろうな。お義母さんもお義父さんも隼人さんが大切で特別な存在で隼人さんも口ではいろいろ言ってても2人が大好きで心配していたんだろうなって、満足したみたいに息をはいて椅子に座り直す隼人さんを見て思う。
「隼人は生まれる前からとっても優しいのー。だから琉依さんに見捨てられたら隼人のところに行かなくちゃって思ってすぐに電車に乗ったの」
「わかるわー……大切な人はたくさんいても我が子は特別だものね。私もこの人に裏切られても翔太と洋子は絶対渡さない」
「おい、それはこっちの台詞だ。親権なら俺だろ。それに翔太はもうすぐ20才だ」
「まだ2年あるわよ。翔太は本当に優秀だわ。国立大学生だもの。私の教育が良かったのねー」
「俺と隼人くんのおかげだろうがこの能天気馬鹿」
「私と隼人くんのおかげよねー隼人くん」
「……翔太くんが飲み込み早いからですよ」
「私に似たのねー!!ね、美香ちゃん」
「そうねー。翔太くんも洋子ちゃんもふわふわのほほんってしてて佳代子さんに似てるわよねー怒ると怖いのは似てないけどー」
「つまり能天気暴力馬鹿だろ」
なぜか今度は竜二さんと佳代子さんの夫婦喧嘩にお義母さんが加わったことでややこしくなって隼人さんが巻き込まれたと呟いて、なんだかんだで翔太くんと洋子ちゃんも家に呼んでみんなで賑やかに過ごしながら夜ご飯を食べて、そして竜二さんたちが帰っていった。
「はあ……いったいなんなんだろう、俺たち被害者だよね」
「まあまあ、解決してお義母さんも元気になってくれて良かったよ」
少し話をしていたけどお義母さんは疲れて眠ってしまったから隼人さんがお布団に寝かせてくれた。
「親父まだかな……」
「珍しい、隼人さんがお義父さんが来るの楽しみにするなんて」
「そういうんじゃないのわかるでしょ」
「ふふ、そうだけど」
「夜中になりそうだから椿お風呂入っちゃいなよ。俺もそのあと入るから」
「うん、わかった」
2人ともお風呂から出てきてからリビングで静かに話していて、そしてお義父さんから連絡が来た。お義母さんを起こしちゃうから隼人さんが下まで迎えにいった。
「椿ちゃんもごめんね、美香は?」
「眠ってますよ」
「もう二度とおかしなことに巻き込まないでよね」
「ごめんごめん……」
お義父さんは苦笑いするけどすごく疲れてるみたい。お義父さんはお義母さんが眠ってる部屋に入っていって私と隼人さんは寝室に行った。
翌朝目を覚まして隼人さんと一緒にリビングに行くとお義父さんとお義母さんがテーブルに座って仲良く話をしていた。
「おはよー隼人!!椿ちゃん!!今日は良いお天気ねー!!」
「昨日との変わりようがヤバい」
「ふふ、良かったです」
「2人とも本当にごめんね」
「まったくだよ、さっさと母さんつれて帰ってよ。せっかくの休日が台無しだ」
「せっかくなんだから家族4人で遊びに行きましょうよー」
「嫌だよ」
「隼人さん……。良いですね、どこに行きましょうか」
「美香とここに行こうって話したよ」
そう言ってお義父さんが携帯を見せてくれて、朝ご飯を食べてから4人で出掛けた。
お義父さんに、どうしてお義母さんが帰って来る日がわかったのか聞いてみた。そしたら用意してる着替えの服と帰って来る予定とが合わないしそもそも用意しておいたご飯が今日の朝ごはんまでだったから昼には帰ってくるんだろうなって思ったみたい。私のサプライズを聞いて自分もサプライズしてみたいって何度も言ってたからサプライズしてくれるんだろうなって。
家出だなんてびっくりな事件だったけど終わりよければすべてよしだと思った。このことはお義母さんの家出珍事件と呼ばれるようになった。




