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「勘違いですれ違った恋」番外編  作者: 柏木紗月
新婚生活スタート
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家出珍事件(1)


 5月下旬、梅雨にはまだ早いけどどしゃ降りの休日、3時にコーヒーを飲みながら隼人さんと2人まったりのんびり過ごしているとインターホンが鳴る。


「誰だろう、宅急便かな?」

「前にもあったけど何も来る予定はないよ」

「誰かな」


 そう話しながら隼人さんとモニターを見る。


「ぎゃー!!」

「お、お義母さん!?」


 隼人さんが悲鳴をあげたのはお義母さんの髪が雨で顔に張り付いていたから。


「た、大変、お義母さん傘をさすの忘れちゃったのかな!?」

「馬鹿すぎるでしょそれ。っていうか母さんがいること事態おかしいでしょ」

「そ、そっか」

「えーん!!椿ちゃーん!!隼人ー!!」

「わわ!!とにかく私迎えにいってくる!!」


 オートロックを解除して家を出てエレベーターの前で待つ。エレベーターが下から上がってきて止まり、扉が開くとお義母さんが泣きながら大きなキャリーバッグをゴロゴロ引きながら飛び付いてきた。


「お、お義母さんどうしたんですか……?」

「椿ちゃんあのね……えーん!!」

「お義母さん……」


 どうしよう……そう思ってるとお義母さんの頭にタオルがかぶさる。


「母さん、なにやってんの」

「えーん!!隼人が優しい!!」

「椿が濡れちゃうでしょ。拭いて、ほら」


 そう言って私からお義母さんを離して頭にかぶせたバスタオルをがしがしと動かすからお義母さんがひゃー乱暴ーと叫ぶ。


「は、隼人さん……もっと優しくしてあげて。お義母さん、風邪引いたら大変です。早く家に入りましょうね」


 そう言って家に入ると隼人さんがお風呂を沸かしておいてくれていた。時間まで少し。泣きじゃくるお義母さんを慰めていると少し落ち着いてきた。


「で、なにがどうなってるの?母さん明日まで短大の時の同級生と旅行でしょ」

「あ、あのね……隼人さん実は明日じゃないの」

「え?ほら、明日までって」


 そう言って隼人さんが見せてくれる携帯には明日の日にちが書かれていてお土産楽しみにしててねと書かれていた。私は自分の携帯を見せる。


「でもほら、私のには今日帰るからお土産送るねって書いてあるでしょ」

「母さん、帰ってくる日付もちゃんと伝えられないの?馬鹿すぎるでしょ」

「違うのー!!それは琉依さんにサプライズで帰ってこようと思ってー!!隼人は意地悪だから椿ちゃんには秘密よって言ったの!!」

「なんでそんな面倒なこと……」

「まあまあ」

「だって椿ちゃんが隼人にサプライズだって秘密教えてくれたから私も秘密なことしようと思ったんだものー」

「俺にサプライズ?」

「えっと、それは今は良いんじゃないかな」


 お義母さんに仕事を辞めることを伝えようか迷ったけどお義母さんは自分の気持ちは秘密にしていることもたくさんあってお義父さんには内緒と言って昔のことを少し教えてくれたから私も内緒ですと言って話をした。お義父さんとの馴れ初めは今度ゆっくり時間を作って教えてもらうことになっている。仕事を辞めることは結果的に隼人さん以外の全員が知ることになった。お義母さんは隼人さんが大喜びすると、秘密は守ると約束してくれた。


「そうなの?……じゃあとりあえず今日帰ってくるとして、どうしてうちに来たの?」

「あのね……あのね……家出なの!!」

「馬鹿すぎな母さんに教えてあげるけど外出と家出は違うよ」

「わかってるわよー!!家出してきたの!!もうおうち帰らなーい!!ここに住むのー!!」


 私は隼人さんと顔を見合わせる。


「とりあえずここには住まわせないから」

「あの空いてる部屋に住む!!」

「お義母さん、どうしたんですか?理由がわからないとお義父さんにしばらくこっちに住みたいそうですって連絡できないです。お義父さんが心配しちゃいます」

「琉依さんに連絡しちゃ駄目なの!!」

「早く迎えにこいって連絡しよう」


 隼人さんがそう言って携帯に打ち込もうとするとお義母さんが隼人さんに飛び付く。


「もー邪魔!!」

「ダメダメ!!絶対駄目なの!!」

「じゃあわけを話して」

「浮気してたの!!」

「「誰が……?」」

「琉依さんが!!」

「そんなのあり得ない」

「そうですよ、お義父さんですもん」

「浮気してたもの!!」

「あっ、お義母さん!?」


 ちょうどお風呂が沸いた合図がしてお義母さんは素早く走って浴室に向かってしまった。


「えっと……どういうことだろ」

「どうもなにも母さんが変な勘違いしてるだけだよ。親父に早くこいって連絡するよ」

「待って待って。お義母さんにちゃんと話を聞いてからにしよ」

「えー……このままじゃ母さんここに泊まるよ」

「今から連絡してもそうだよ。ね、お願い。お義母さんの話を聞こう」

「……はあ、わかったよ」


 良かった。とりあえずお義母さんの着替えを用意しようと思って私の服とタオルを脱衣場に置いた。

 そしてカフェラテを用意していると携帯を見ていた隼人さんが声をあげる。


「なんか親父が母さんが帰ってこないって騒いでるよ」

「え?そうなの?帰ってくるの明日だと思ってるはずなんだけど……」

「とりあえずなんかいろんなとこに一斉送信してるんだけど。明らかに面倒で厄介なことに巻き込まれてるよね」

「う……で、でもお義母さんは本気で浮気だと思ってるんだから話を聞いてあげないと」

「なんて返す?面倒だから椿適当に返してくれない?」

「え、どうしよっか」


 私の携帯を見ても、というか家族全員のグループでメッセージが届いていた。


『美香が帰ってこないよー!!どうしてー!?』


 それに優菜さんたちがボケたのとか帰ってくるの明日でしょとか返してる。本当は今日だと知っていたのは私だけだったみたいだ。どうしようと思っているとお義母さんがお風呂から上がってきたからとりあえず携帯をテーブルに置いてカフェラテをお義母さんに渡す。


「ありがとー」

「母さん、親父が母さんが帰ってこないって騒いでるんだけど」

「え……どうしてー?」

「どうしてはこっちが聞きたいよ。とりあえずなにがあったのか説明して」


 そして3人座ってお義母さんの話を聞く。


「あのね、帰ってくるの明日よって伝えてたからサプライズで今日帰ってきて驚かせようと思ってね」

「親父は今日帰ってくると思ってるみたいだけど」

「わかんなーい……」

「お義母さん、帰ったんですか?」

「そっと玄関を開けてリビングに行ったらいなくてね、寝室かなって思って行こうとしたらね……途中でね……女の人の声がお部屋から聞こえてきたのー」

「お、お義母さん泣かないでください」


 また大粒の涙を流してしまうお義母さんにティッシュを渡してあげる隼人さん。


「おいおい、浮気現場に遭遇なんてドロドロすぎる。本当だったら」

「そうだね、あり得ないからなんとも言えないけど」

「本当なのよー!!本当に聞こえてきたの!!琉依さん大好きって、琉依さんも大好きって言ってたわよ!!」

「どういうことだろ……」

「ちょっと母さん……それ聞いたのどこの部屋?」

「お仕事部屋ー!!」

「もー!!やっぱり!!浮気じゃないからさっさと帰りなよ」

「むー!!浮気なのー!!」

「隼人さんなにか知ってるの?」


 そう聞くと隼人さんはばつが悪そうにしてなにか呟く。


「……けどこれは親父が悪いんだから親父の正体をばらしても俺のせいじゃないよね」

「隼人さんどうしたの?」


 隼人さんはよし、と意気込む。


「椿にちょっと言ったことあったでしょ。親父の書斎は恐ろしいものがあるんだって」

「うん?あ、そうだね、ちょっと」

「素人では作れないような母さんのポスターとか写真集とか写真付きのクッションとかがあるんだよ。恐ろしいでしょ」

「え、そうなんだ?でも恐ろしいかな……」


 コレクションがとかってそういうことだったんだ、お義母さん愛されてるなと思ったけど隼人さんは頭を抱えてしまう。


「どうして昴も椿も恐ろしさがわからないんだろ……」


 昴くんも私と同じようなことを思ってたのかな。お義母さんはきょとんとしてから言う。


「それなら知ってるけどー?」

「え!?」


 隼人さんは驚いて見たことないくらい目を見開いてる。


「だって同棲してる時からあるものー。最初は知らなかったけど一緒に住むことになった時教えてくれたのよー。可愛く撮れてるのー」

「気持ち悪いとか思わな……いのか、母さんだもんな」

「どうしてー?すっごく上手にできてるでしょー?」

「親父も母さんもどっちも俺の常識で測れない……いや、それは昔から……」


 隼人さんはまた項垂れてしまったけどすぐに顔をあげた。


「母さんも親父も変態の変人だね。じゃあ母さんもわかってるじゃん。ラブレター音読してたことがあるでしょ。それだよそれ。自分の声を聞き間違えるなんて馬鹿だな」

「むー!!違うわよ!!」


 ラ、ラブレターって音読するものなんだとちょっとびっくりしたけど隼人さんの言葉にすぐ否定するお義母さん。


「あれは同棲を始めたばかりの時でまだ敬語で話してたのよー!!だからあんな……そんなところに痕付けちゃ駄目とかもっと優し「ぎゃー!!」」


 お義母さんの言葉を聞いたことないくらい大声で遮る隼人さん。


「両親のそんなの求めてないから!!しっしっ!!」

「だから私じゃないのー!!」

「覚えてないだけだよ」

「隼人じゃないもの!!私そんなに忘れっぽくないわよー!!」

「そんなことないよ」

「お勉強ができないのとちょっとおっちょこちょいなだけで記憶力は良いわよー!!とにかくあんなこと言ってないもの!!私じゃないの!!えーん!!」


 お義母さんはそう言ってまた泣き出してしまった。


「隼人さん……どういうことなんだろ」

「さあ……とりあえず話は聞いたから親父に早く来てって連絡しよう」

「えー!!ダメダメ!!」

「なんでだよ、何してたのって聞けば良いじゃん」

「浮気してたって言われたら嫌だものー!!聞きたくないー!!」

「だからあり得ないんだってば」


 どうしよう……。でもお義母さんの言葉もわかる。もし同じことがあったら真実を聞くのが怖いと思ってしまいそうだ。隼人さんがしてないと言えばそれを信じようって思うだろうけど実際に見たり聞いたりしてしまったら……。


「隼人さん、私はお義母さんが帰ろうと思うまでうちにいてもらったら良いと思うよ」

「えー……まあ椿は母さんにつくと思ったけど。でも見てよ、警察行こうとしてるよ。早く知らせないと大事になっちゃう」

「そ、そっか。お義母さん、私が一緒にいるのでお義父さんとお話ししましょ」

「……ほんとー?」

「はい、もう連絡したよ」

「え、早いよ……」


 隼人さんが携帯を見せてくれる。


『母さん家出してうちに来たよ。本当は今日帰る予定だったけど馬鹿なサプライズしようと思って明日って言ってたんだって。馬鹿だね。家に帰ったら親父が浮気してたからもう家に帰らないって言ってるよ。冗談じゃない。親父早く来てどうにかして』


 ……隼人さんが随所に悪態をついてる。相変わらずだなと思っているとすぐにみんなから驚いたりあり得ないって呆れたりしてるメッセージが届き、お義父さんからもくる。


『浮気なんてしてないよー!!』


 それはですね、みんなわかってます……。でもお義母さんが聞いたものはなんなんだろう。私も隼人さんも考えてみるけどどうにも思い付かない。



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