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「勘違いですれ違った恋」番外編  作者: 柏木紗月
新婚生活スタート
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思いがけない訪問者


 2月下旬のある日曜日、お昼ご飯を食べ終わったところ。隼人さんと一緒に食器を洗っていた時にインターホンが鳴る。


「誰かな?宅急便かな?」

「なにも来る予定はないと思うけど」


 もしかしたら隼人さんのおばあさんとおじいさんかもしれないと思いながら私は手を拭いてモニターインターホンを見てみた。


「ん?」


 モニターには外国人の女の子が映っていた。明らかに幼い女の子でおばあさんではなさそうだ。でも若菜に良く似た女の子……若菜?


「も、もしかしてメアリーちゃん?」

「え!?」


 隼人さんがキッチンで声をあげてこっちに駆け寄ってくる。


「メアリー!?どうして!?」

「はーい隼人ー!!開けてー!!」


 可愛らしいソプラノ声で女の子がモニターに向かって日本語で喋る。


「ど、どうしてメアリーが!?」

「えっと、とりあえず開けよう」


 そう言って私はオートロックを解除する。


「あの子がメアリーちゃんなんだ」

「うん、なんでだろ、意味がわからないけどとりあえず行ってくるから待ってて」

「わかった」


 慌ててる隼人さんは私が言い終わる前に急いで玄関に向かった。

 あの子がメアリーちゃん……。小学生くらいの子だった。高校生とかだろうと思っていたけどあんなに小さな女の子だったんだ。あの子が隼人さんのことが大好きな子……私はほっとしたような複雑な気持ちがした。高校生の美少女を想像していたけどあんなに幼い女の子なら隼人さんが可愛がっても微笑ましく思えるだけ。……だけどメアリーちゃんの恋心はきっと本物なんだと思ったらほっとしている自分がすごく嫌な人な気もした。

 しばらくして賑やかな声と一緒にリビングに入ってきた隼人さんとメアリーちゃん。


「なんかおばあちゃんとおじいちゃんと一緒に来たらしいんだけど2人の目を盗んでこっちまで来たみたい」

「そ、そうなんだ」


 メアリーちゃんの背中に触れながら隼人さんが教えてくれる。


「椿、初めましてー!!メアリーよ!!」


 若菜とそっくりだけどふわりとした雰囲気で可愛らしい笑顔で上手な日本語で喋ってくれる。私も笑って言う。


「初めましてメアリーちゃん」

「空港まで一緒だったのに1人で来たんだって。おばあちゃんがうちにポストカードを送ってたし住所は知ってて。でもメアリー、危ないからもうやっちゃ駄目だからね。心臓が止まるかと思った」

「はーい、ごめんなさい」

「困ったお転婆娘になっちゃって……椿、おばあちゃんに早く迎えに来てって連絡するから」

「うん、メアリーちゃん、ごめんね、今ジュースがなくて。お茶でも良い?」

「隼人をびっくりさせたくて急に来ちゃったんだもの。大丈夫よ。それに日本に来たのは初めてだけど日本のお茶大好きなの」

「ね、メアリーは良い子でしょ」

「うん」


 メアリーちゃんの頭を撫でてから隼人さんは携帯を持って寝室に行った。メアリーちゃんは椅子に座って静かに待ってくれてて私はキッチンでお茶を用意する。

 本当に可愛くて良い子だな。なんだか視線が痛いけど。私をじっと見てなんだか怒ってるように見えるメアリーちゃんにドキドキしながらお茶を入れた。


「はい、どうぞ」


 メアリーちゃんは無言でお茶を飲む。もしかしなくてもやっぱり私嫌われてるみたい。隼人さんがそばにいた時と違うメアリーちゃんにどうしようと困ってしまう。でもそれはそうだよね。恋敵なんだもん。そう思ってメアリーちゃんの正面に座って大人しくしているとメアリーちゃんが口を開く。その時ちょうど寝室から隼人さんが出てきた。


「若菜より全然可愛くないじゃない」

「メアリー!!」


 英語で呟かれた言葉に隼人さんが慌てて叫ぶ。メアリーちゃんは気にせず早口の英語で続ける。


「隼人はこんな女のどこが良いのかしら。たくさん苦しんで大怪我してそこまでする価値ないじゃない」

「メアリー!!」


 隼人さんはもう一度大声で叫んでメアリーちゃんの肩を掴むけどメアリーちゃんはストンと椅子から降りた。


「ふん、隼人も椿も大嫌い!!」


 そう言ってリビングを出て玄関に走っていくメアリーちゃんに隼人さんが呆然としてる。だけど私を見て顔を歪める。


「椿、ごめんね。どうしたんだろう、良い子なのに……」

「この前言ったでしょ。英語そこまで得意じゃないよ。何て言ってたの?」


 私が困った顔をしてそう言うと隼人さんはなにも言わずに私を抱き締めた。


「メアリーちゃん追いかけてあげて」


 無言で強く抱き締めてくれる隼人さんに私は続ける。


「メアリーちゃん1人で外を歩いてたら危ないよ。隼人さんも心臓が止まるかと思うくらい心配でしょ」


 そう言うと隼人さんは戸惑いながら身体を離す。


「ごめん」


 隼人さんの後ろ姿を見送った私はソファーに座る。あんなにはっきりと自分を否定されたのは初めてだった。でもメアリーちゃんが正しい反応なんだよね。お義母さんたちも関さんたちも佳代子さんたちも優しいから私に優しくしてくれるけどみんなメアリーちゃんのように思ってもおかしくない。私はそれだけのことをして隼人さんを苦しめていたんだから。メアリーちゃんも隼人さんが入院した時遠く離れたアメリカですごく心配していたんだろうな。

 せっかく聞き取れなかったなんて嘘をついて隼人さんを安心させたのに溢れてくる涙を拭う。メアリーちゃんと話したい。

 みんなに受け入れてもらえるわけじゃない。でもできるなら隼人さんの大切な人みんなに私のことを認めてもらいたい。

 私は家を出てエレベーターに向かう。だけど途中でふと思い付いてエレベーター近くにある階段のあるドアを開ける。すると見つけた。


「メアリーちゃん……」

「なんで隼人じゃないのー」


 そう言って涙を流しているメアリーちゃん。


「ごめんね、隼人さんじゃなくて」

「椿嫌い」


 またしても英語で言われてしまう。私は階段に座るメアリーちゃんの隣に座る。

 私は学生時代に勉強したことを思い出しながらゆっくり英語で話す。


「私はメアリーちゃんとお話したいな。メアリーちゃんも隼人さんが大好きなんだよね」

「隼人も嫌い」

「隼人さんはメアリーちゃんのこと大好きだよ」

「嫌いだもん」

「私もメアリーちゃん大好きだよ」

「なんでよ、会ったばかりなのに……」

「うーんとね……メアリーちゃんに私のことを知って……好きになってほしい。自分のことを好きになってもらうには相手を好きになることが良いって聞くの」

「へ?意味がわからないよー……」

「えへへ、ごめんね。私はこういうのが好きだよ。調べものしたりドラマを観たり映画を観たりしていろんなことを知るのが好きなんだ。メアリーちゃんはどんなことをするのが好き?」

「……バイオリン」

「バイオリンできるんだー!!すごいね!!」

「隼人がクラシックを聴くって言うから習ったの。でも今はプロになってたくさんの人に聞いてもらいたいくらい好き」

「そうなんだー!!上手なんだね!!」

「この前優勝したのよ」

「すごいすごい!!隼人さん喜んだでしょ!!」

「言ってない」

「そうなの?」

「うん」

「絶対隼人さん喜ぶよ!!」

「でも嫌いって言ったから……」

「嫌いじゃなくて大好きだよって言ったら良いんじゃない?」

「……隼人怒った」

「大丈夫だよ。隼人さんはメアリーちゃんが大好きなんだもん。きっと嫌いって言われて悲しんでると思うからごめんねってして大好きだよって言ったら良いんだよ」

「許してくれる?」

「もちろんだよ」


 私がそう言うとメアリーちゃんは私の目をじっと見つめてから少し笑ってくれた。


「……椿好き」

「え、本当!?」


 こくりと頷くメアリーちゃん。可愛い。なんだかわからないけどぴとっと身体をくっ付けてくれるメアリーちゃんに嬉しくなる。なんて可愛いんだろう。

 私とメアリーちゃんはそのまま話していたけどまずいことを思い出す。


「隼人さんに連絡しなきゃ……」


 忘れてたと思って急いで家に戻って携帯で隼人さんに連絡する。


「お茶入れ直すね」

「私やりたい」

「あれ?日本語?」

「日本語勉強してるから。椿英語微妙に下手」

「うそ、下手だった?」

「ふふ、わかるから良いけどね」

「メアリーちゃんに気遣われてた……ごめんねーありがと。一緒にこれやろ」


 そう言って一緒にお茶を入れて2人で椅子に座ってお喋りしていると隼人さんがバタバタと帰ってきた。私たちの様子を見て呆然としてる隼人さんの前にメアリーちゃんが行く。


「隼人、ごめんなさい」


 メアリーちゃんと私を交互に見る隼人さんに私は笑う。


「隼人嫌いじゃなくて好き、椿は大好き」

「え、ほんと何があったの!?しかも俺は好きで椿は大好きなの!?」


 驚く隼人さんに私はメアリーちゃんと顔を見合わせて笑う。そしてなにがなんだかわかっていない隼人さんにメアリーちゃんがコンサートで優勝したと話すと思っていた通り隼人さんはすごく喜んだ。

 どうやら隼人さんのおばあさんはこうなるとわかっていてこっちに向かっていたらしくてそれから1時間もしないうちにおばあさんとおじいさんが来てくれた。


「椿、会いたかったわー」

「えっと、初めまして」


 頬にキスだと思いながらされるがままでちょっと戸惑いながら答える。隼人さんのおばあさんは優菜さんにそっくりな華やかな雰囲気の人。おじいさんは厳格そうだけど笑ってくれる顔はなんとなくお義父さんや隼人さんに似ている。


「初めまして」

「初めまして、椿です」


 仲良くなった私とメアリーちゃんを見ておばあさんとおじいさんはやっぱりねと言った。わからないけど2人には全部わかっていたみたい。3人は空いてるホテルを探してこっちに泊まるそうですぐに帰ってしまった。


「もっとゆっくりできたら良かったのにね」

「うん……椿、ごめんね」


 リビングのソファーに隣同士で座ってコーヒーを飲みながら話していると隼人さんが言った。


「んーなにが?」

「英語、椿わかってたでしょ」

「えっと、わかった?」


 隼人さんはそっと私の頭を撫でてくれる。


「高校生の時勉強教えたでしょ。椿英語得意だった。リスニングは特に」

「でも学生時代の話だよ。今じゃできるって言えるほどじゃないのは本当だよ。メアリーちゃんにも下手って言われたし」

「だけど聞き取れたでしょ」

「嘘ついてごめんね」

「ううん、嘘つかせてごめん」


 私は首を横に振る。


「あのね……お願いがあるの」

「なに?」

「結婚式、プログラムを少し変更したいの。今からじゃ無理かな……」

「どうしたいの?」

「私が話をする時間を少しで良いから欲しいんだけど……」

「新婦のお母さんとお父さんへの挨拶はあるけど……」

「それとは別にね、結婚式に来るのはうちのお父さんお母さんと由紀たち以外は隼人さんの繋がりでしょ。みんな私のことを良く思ってくれてるけどメアリーちゃんみたいに思うのは当たり前だと思うの。だからみんなには会ってお話ししてるけど改めて私のことをみんなに知ってほしい」

「椿……」

「そうしなくても良いっていうのはわかるけど、けじめというかなんていうか……とにかく隼人さんの大切な人たちみんなに隼人さんの相手だからっていうのを抜きにして私を好きになってもらえたら嬉しいなって思って。わがままかもしれないけど……」

「そんなことないよ。ムービーを流す前に少し話す時間を作ろうか」

「良いの?」

「もちろん」

「ありがとう」


 こうして無事に仲直りしたメアリーちゃんは結婚式に合わせてもう一度日本に来てくれることになった。隼人さんは今度は1人で行動しないようにとすごく気にかけていてメアリーちゃんは過保護は嬉しいけど隼人さん離れしてる、最近同い年のピアノが上手な男の子に告白されたの、とメッセージで教えてくれた。メアリーちゃんの隼人さんへの思いがどうなったのかはメアリーちゃんにしかわからないものだけどメアリーちゃんはその子のことをちょっと良いなと思っているらしい。美織ちゃんに引き続きメアリーちゃんもとなったらさすがに隼人さんが可哀想だと思ってまだ言わないでいる。

 そしてついに3月16日、私と隼人さんの結婚式の日になった。

 

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