電話会議
スピーカーにした携帯をテーブルの上に置く。
「若菜どうしたの?」
『椿ひどーい!!』
「煩い」
『隼人!!煩くなーい!!』
『若菜、落ち着きなよ』
向こうもスピーカーにしてるみたいで昴くんも喋る。
『椿私がいないのに昴と話した!!』
「あ、そういうこと……ごめんね昴くん借りちゃって」
『そうじゃなーい!!のけ者にした!!酷いー!!』
「ほら、チビザルが騒いでるでしょ」
「もう、隼人さんそんなこと言っちゃ駄目だよ」
『なぜ!?なんで名前!?なんでタメ口!?』
「なんでってできるようになったんだよ。良かったよ」
『良くない!!距離縮まってる!!』
「なんだそれは。夫婦なんだから距離は近いだろ。けど昴は縮めなくて良い」
『もうしつこいな……良いでしょ椿ちゃんも新鮮だって喜んでるんだから』
「うん、昴くんと今までより仲良くなれて嬉しいよ」
『ここで良いの!!私と、昴と、椿で仲良しこよしなの!!隼人邪魔!!』
「だいたいこっちは夜ご飯食べてるとこなんだよ。邪魔するな」
『こっちもだもん!!』
「そうだったの?わざわざ食べてる時にかけてこなくても」
『だって食べようとしたら昴がさっき椿と電話してたって言うからー!!』
「そ、そうだったんだ」
『ピザ!!』
「ピザ?」
『今日の夜ご飯はピザだよ』
「そうなの?お祝い?」
『違うよー。週に1回ピザの日なの!!』
「な……それは大丈夫なの?いろいろ」
『デリバリーだよ!!今日はピザだけど他には牛丼にハンバーガーに……』
「や、やっぱり若菜の食生活心配なんだけど!!昴くんが作ってるんじゃなかったの?」
『うん、それが琉依さんのその日の仕事状況でどれくらい残業するか決まるから僕の帰りが遅いとデリバリーになるんだ。今うちの会社忙しくてね。今日はたまたま若菜がピザ食べたい日って言うからだけど。あとは気まぐれに若菜が作ったお菓子とか』
「大丈夫かな……ね、隼人さん」
「若菜がますます豚になるだけだよ」
「ひ、酷い」
『椿ちゃんと隼人くんはなに食べてるの?』
「しゃぶしゃぶだよー」
『お鍋を囲む!!それは家族の団らん!!むー!!ずるいー!!』
「ええ……ずるいって言われても。隼人さんも楽しんでくれてるし私も嬉しいよ」
『気に食わない!!』
『隼人くん良かったね』
「お前らが邪魔してこなければ楽しい」
「まあまあ。でもこれはこれでなんだか楽しいよ。一緒にご飯食べてるみたい」
『ほらー!!椿がそう言うんだからこのままー!!』
若菜の言葉に文句を言う隼人さんを宥めて食べながら電話を続けることにした私たち。
『ずるいー私も椿としゃぶしゃぶー』
「わ、若菜……。あ、でも今度たこ焼きパーティーしようってさっき隼人さんと話してたんだよ」
『たこ焼きー!!隼人とはいやー!!』
「隼人さんと同じこと言ってる……でも隼人さんやりたいって言ってくれたよ」
『嘘だー』
「本当だよ。昴くんと一緒だから楽しいよって言ったら」
「若菜は来なくて良い。俺と椿と昴でやろ」
「……私は若菜も昴くんも一緒が良いの」
「……若菜はついで」
「もう……あのね」
『椿ちゃん良いんだよ。この2人どこまでも行ってもこのままだから』
「そ、そう……仕方ないのかな……」
『仕方ないんだよ。それにしてもたこ焼きパーティー良いね。楽しそう。隼人くんも若菜もやったことないもんね』
「私も家でやったことないよ。昴くんはあるんだ」
『うん、あるよ』
「みんなでやったら賑やかで楽しいだろうなー」
「2人でも楽しいよ」
「そうだね。あ、これ良いんじゃないかな。はい、食べてね」
「うん、じゃあ椿はこれ。あーん」
「な……ここに置いて良いよ。熱いしね」
「そっか。じゃあ冷ましてから……はい」
「うう……あー……ん」
「美味しい?」
「うん、美味しいよ」
『ちょっとー!!なんでイチャイチャするのよー!!聞いてるんですけど!!』
『聞いてるだけで隼人くんのニヤケ顔が目に浮かぶよ』
「う……やってしまった……」
「邪魔者に邪魔させないから」
『くそー!!今すぐそっちに行きたい!!椿だってみんなで賑やかにご飯食べたいよね!!』
「う、うん。楽しいよね」
『あ!!そうだ!!一緒に住むんだった!!』
『「駄目!!」』
若菜の言葉に隼人さんと昴くんの声が重なる。
「そ、そうだ、そういう話したね。お義母さんたちとも話したよ」
「駄目駄目、絶対駄目」
「隼人さんなにがそんなに嫌なの?」
「だからこいつらに邪魔されたくないんだってば」
「邪魔じゃないってば」
『一緒に住むのはマンションが良いかなー?一軒家が良いかなー?隼人が全額払うからどっちでもすごい家が良いよね』
『若菜、なんでもう住む家の話するの?住まないって言ってるでしょ』
「昴くんも嫌なの?どうして?」
『この前も言っ『椿はどっちが良いー?』だから住まないってば』
「断固反対」
『僕も』
『ねー椿はどっちが良い?』
「……ど、どうしようこの状況。とりあえずみんな落ち着いて喋ろうよ」
『司会は昴ー』
『え、司会?』
『椿は書記』
「えっと、しょき?」
『タイムキーパーはなしー。でも2人も話し合い参加するのー』
『わかった。ディスカッションってことだね』
「あ、なるほどね。若菜頭良い。えっと……書記だから紙とペンがいるよね」
「椿、食べてるから良いよ」
「そ、そうだ、食べてるから書くの難しいよ。あとで議事録を書くので良い?」
『そんな本格的にしなくても良いのに。この話し合いが電話会議になるとは思わなかったけどまあ良いや。じゃあ第1回僕たちが一緒に住むか住まないかの話し合い始め』
『はいはーい。一緒に住むの!!』
「絶対反対。椿とイチャイチャできないから」
「い、イチャイチャできないから嫌なの?」
「イチャイチャを邪魔されたくない。椿もイチャイチャしたいでしょ」
「え、えっと……したくないわけないけど」
『一緒に住んでもイチャイチャできるよ!!椿がいても昴とチューする』
「わ、私見てるのも恥ずかしいし自分がするのも恥ずかしいよ」
「ほら、うちのオープンイチャイチャはおかしい。椿の感覚が普通なんだよ」
『そうだよ若菜。それに同じ部屋でこっちもイチャイチャして隼人くんたちもイチャイチャしてたらいろいろヤバいよ』
『そう?じゃあイチャイチャする部屋でイチャイチャすることにしたら良いんじゃなーい?』
「イチャイチャする部屋って……普通に寝室じゃないの?」
『椿いやらしいー』
「え!?なんで!?」
『チュッてキスしたりくっついて一緒にテレビ見たりってする感じなのにー』
「なっ!?い、良いの!!何でも!!」
「椿さっきまでその話してたから頭の中そのことばっかりなんだよ」
「そ、そんなことないよ!!」
『なんでそんな話に?記憶がって話をしたんじゃないの?』
「そうだったんだけど椿が急に方向転換してきた。びっくりした」
「ご、ごめん……」
『むむ!!こっちはイチャイチャするけど隼人がイチャイチャするのはムカつく!!わかった!!私と椿の部屋を作るの!!隼人も昴も入っちゃ駄目な部屋だよ』
「こじ開けるからな」
『特注の鍵をつけよー!!』
「ドアごとぶち破る」
「は、隼人さん物騒だよ。駄目だよ」
『立てこもられたら僕が若菜といれないよ。困るよ』
『あ、そっかあ……』
「そもそも全員仕事があるのに一緒に住むなんて不可能だろ」
「あ、そうだよ、大変。忘れてたよ。これっていつの話?」
『さすがに老後じゃないからね』
『椿がこっちに戻ってくれば良いよー!!そしたら隼人は単身赴任!!椿がこの前言ったよ!!』
「この前のはよくわかってなかったから!!それにそうは言ってないよ!!」
「椿だって仕事があるのにそっちに行けないだろうが」
『へ?椿仕事辞めるんじゃないの?』
「辞めない」
「は、隼人さん……?えっと、まだ考えてないよ。結婚だって急だったしね」
急に隼人さんの言い方がきつくなって驚く。仕事は辞めても辞めなくてもどっちでも良いって言ってたのに。どうしちゃったんだろ……。
『まあまあ、ゆっくりこれから考えれば良いじゃない』
「そうだよね。私も働き続けるってしても今の会社じゃなくても良いし」
『じゃあ隼人も転職すれば良いじゃん』
「隼人さんは頼りにされてるから辞められないんじゃないかな。わかった、こうしよ。老後じゃなくても20年後とか30年後とかさ、そしたらいろいろ状況も変わるんじゃない?そしたら一緒に住もうよ」
『むー!!嫌!!じゃあ私がそっちで仕事する!!独立してネイリストしたりもできるよ!!あ、家でネイルサロンやれば良いよ!!椿も一緒にやったら?そしたら椿家にいれるよ?』
ハッとした。もしかして若菜は隼人さんが私には家にいてほしいって思ってると思って言ってくれてるのかも。若菜は話してくれた。隼人さんの女々しい男心をわかってあげてって。……私やっぱり駄目な奥さんだ。隼人さんはきっと私が仕事が楽しいから辞めたくないと思ってるんだ。私のために強く否定してくれたんだ。隼人さんの本心はどこにあるんだろう。もっと隼人さんが本当はどう思ってるのかよく考えないと。
そう思いながら隼人さんをじっと見つめてるとなんだか様子がいつもと違うことに気付いた。
「とにかく一緒に住むなんて絶対絶対駄目。椿と椿との子供と暮らすの。若菜がいる家になんて帰りたくないよー!!椿俺帰らなくて良いのー?」
「え、え……と……どうしちゃったの?」
『ヤバい。めっちゃ飲んじゃったね』
「え、飲む?あ……うそ……これも空っぽ、こっちも……っていつの間にか日本酒飲んでたしこれも空?もしかして相当酔ってる?」
「酔ってないよー!!椿の意地悪ー!!家帰りたくないー!!」
「そんな……大丈夫。2、30年後だから、ね?」
『30年後とかありえないから!!隼人が帰ってこなくたって痛くも痒くもないよ!!椿の子供は私と昴と3人で見るもんね』
「嫌!!駄目ー!!」
「は、隼人さん……昴くん、隼人さんいつもこうなの?」
『うん、父さんが言ったでしょ。酔った隼人くん厄介だって』
「厄介と言うかちょっと可愛いと言うか」
『そう、可愛くなっちゃうんだよ。美香さんに似てるでしょ』
「あ……確かにそうだね。えっと、覚えてるの?」
『覚えてないよ。このモードに入ったところだけ覚えてないんだ。普通に飲みながらちょっと饒舌になってるくらいのことは覚えてるんだけどね。でも覚えてないけど知ってはいるよ。面白いと思って撮った動画をね、椿ちゃんと再会するって聞いた日に見せてあげたんだ。隼人くん可愛いと思われるの嫌いだから思われたくなかったら飲み過ぎに注意してねって』
「そうなんだ……あ、隼人さんどうしたの?」
隼人さんが立ち上がって向かいの私の隣に来た。
「椿ーぎゅー!!」
「わわっ!!火が……って消えてるか……」
強く抱き締められて椅子から落ちそうになってしまいそうになる。手がお皿に当たった拍子に危ないと思ってコンロの火を見るといつの間にか消えていた。
「す、昴くんどうしたら良いのかな」
『気が済んだら寝落ちするんじゃない?』
「そ、そっか」
「椿ーあっち行こー」
「ちょ、ちょっと!?す、昴くん寝落ちするまではどうしたら!?」
『頑張ってね。とりあえず第一回話し合いはうやむやになって終了ー』
『なんでよー!!』
『若菜も酔った隼人くんウザいから絡みたくないっていつも言ってるでしょ』
『むー!!住むのは絶対だからね!!帰ってこなくたって良いんだから!!』
『とりあえず今度第二回話し合いを開催しよ。じゃあね』
「う、うん、じゃあね」
『あー椿ーバイバーイ』
「バイバイ若菜」
電話を切った瞬間隼人さんにお姫様だっこされて慌てる。
「は、隼人さん!!重いから下ろして!!」
「やー」
「うう……せめてソファーまでにして、ね?」
寝室までは恥ずかしくてソファーを指さすと隼人さんは頷いてソファーに向かってくれた。




