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「勘違いですれ違った恋」番外編  作者: 柏木紗月
新婚生活スタート
22/62

楽しいこと


 翌朝目を覚ますとそばにお義母さんがいた。


「おはよー椿ちゃん」

「おはようございます」

「起きて起きてー」

「あ、はい……」


 布団から出てリビングに行くと優菜さんがキッチンにいた。


「椿ちゃんおはよう」

「おはようございます」

「朝ごはん椿ちゃん作りたいだろうし隼人も椿ちゃんのご飯が食べたいって言うだろうしってご飯炊いただけよ。って言っても和食なんでしょ?私たち作れないからそもそもできないんだけどさ」

「あ、ありがとうございます」

「でもお手伝いするのー」


 昨夜のことでモヤモヤしていた私はお義母さんと優菜さんに味付けをした卵を焼いてもらったり鮭を焼いてもらったりしている間にお味噌汁を作った。そうしてるところにはやとさんが起きてきた。


「椿ー」

「おはようご……おはようはやとさん」


 途中でぎゅっと抱き締められる。


「死んじゃうところだった」

「そ、そんな……」


 はやとさんの言葉に悲しくなる。


「一晩別々に寝たくらいで死ぬわけないでしょ馬鹿隼人。顔洗ってきなさい」

「うう……朝から優菜さんの命令うざい」

「隼人ーおはよーあー寝癖可愛いー」

「朝から母さんの騒音うざい」

「うっさいわよ。良いから早く行け」

「また命令だ。本当におばあちゃんと優菜さんはそっくりだ」


 はやとさんはそう言うと私にキスをしてから洗面所へ向かった。


「困ったガキね」

「椿ちゃん卵焼きできたわよー」

「あ、ありがとうございます」


 ちょうどご飯ができてテーブルに並べたところではやとさんが戻ってきた。


「まさか母さんと優菜さんが作ったの?」

「大丈夫よ。お米研いだの私だけどおかずは椿ちゃんが味付けしたのをただ焼いただけだから」

「椿ちゃんてきぱきしててすごーい」

「そんなことないですよ」

「それなら良いや」

「お茶ははやとさんが買ってきてくれたので……だよ」

「可愛い……」


 こめかみにキスをされる。いつもよりスキンシップが多い。寂しい思いをさせちゃったんだな。でも出張先で眠れなかったら大変だし私がついていくわけにはいかないしどうしたら良いんだろ。


「椿?どうしたの?」

「な、なんでもない……よ」

「もーイチャイチャするのはあとにして食べなさいよ。行くとこたくさんあるんだから」

「2人で行けば良いじゃん」

「駄目よー椿ちゃんも一緒」

「椿は俺の」

「椿ちゃんはものじゃありませんー。良いから食べる」

「ん……椿の卵焼き美味しいよ」

「……ありがと」


 そう言ってご飯を食べてくれるはやとさんに優菜さんが今日行くところを話す。


「だからまずはこの場所に行ってこっちに行ってこう戻ってくる」

「あ、待って待って。やっぱりこっちのお店にも寄っていこうよー」

「じゃあこっちの前にこっち」


 ガイドブックを見ながら説明する優菜さんにお義母さんがやっぱり変更と言ったり、結局どう行くのかよくわからなかったけどまあどうにかなるんだろう。

 ご飯を食べ終わると優菜さんとお義母さんが支度を始めた。


「椿も支度してて良いよ。片付けしておくから」

「いえ……ううん」

「どうしたの?なにかあった?風邪?」


 そう言って私の額に手を当てるはやとさん。


「いつもと変わらないから大丈夫かな。そういうこと?」

「……え?」

「風邪かなって思ったらこうするんでしょ?でも熱いのかよくわかんない」

「えっと……熱はないから大丈夫だよ」

「そっか」


 結局私も一緒にキッチンで食器を洗うことにした。私が洗ってはやとさんが拭いていく。


「熱があるとどのくらい熱くなるのかな。自分の体温もあるのにどうやって熱があるって判断するの?」

「そうで……そうだね……感覚で熱いって思うものだからよくわからない」

「よくわからないものなんだ。でも風邪を引くとどうなるかはわかるよ。高校の時初めて風邪引いたから。すごくくらくらして気だるい感じになるんだよね」

「うん、そうだね」

「良かった。もし椿が風邪を引いたらどれくらい辛いのかわかるよ。ちゃんとお粥も作れるよ。あ、でも風邪を引かないにこしたことはないね」


 そう言って笑うはやとさんにそうだねと答える。どうしよう。はやとさんの言葉が全部悲しくなっちゃう。病気も怪我もしなくて健康だったから初めての風邪も苦しかったはずなのにどこか他人事みたい。


「椿やっぱり違う」 

「……へ?」

「優菜さんに聞いたから?」


 言葉につまる私にはやとさんは悲しそうな顔で笑う。


「椿が望んでくれるならなんでも話そうと思ったけどやっぱり駄目だったみたいだね。悲しませたくなかったんだけど。なんの話を聞いたの?」

「はやとさんが誘拐されそうになった話とか」

「誘拐?若菜じゃなくて?誘拐されたことなんてあったかな……」

「でも優菜さんは次の日には忘れてたって」

「ああ、だろうね」

「いろんなことに興味がなくて自分にも無関心で村岡さんがプレゼントした本に興味がなくてそれで村岡さんたちが遊びにこなくなってそれではやとさんがいろんなことを忘れやすくなったって」

「へ?優菜さんが言ったの?」

「あ……えっとそうです。大人たちはそう思ってるって」

「ふーん……そうなんだ……確かに村岡さんがくれた本は親父がくれたと思ってたけどよくよく思い出してみようと頑張ってみたら村岡さんから直接受け取って読んでた気もしてたんだよね。なるほどね、だからそんなに気にしてたんだ。別に良いのに。これは昴にも伝えとこ。そうだ、昴とは話した?わけないか。昴は2時まで俺とメッセージしてたんだから」

「え、そうなの?」

「そうだよ。あ、そうだ。母さんたち今日帰るよ」

「え!?」

「親父昨日必死に仕事してたから今日やろうとしてた分も終わらしちゃったんだって。休日出勤なしだから今日迎えに来るよ」

「そ、そうなんだ……」

「寂しいの?」

「う、うん……」

「明日の朝早くに帰る予定がちょっと早まっただけだよ。いつでも会えるんだし。今日は俺に構ってよ」

「はやとさん……うん」

「やった。あとはなんの話?」

「テストとか運動のこととか」

「あー別にたいしたことじゃないよ。周りが煩いからそうしてただけ。4位以降になるのは微妙だから2、3になるようにってただ1、2問だけ間違えるだけじゃ駄目なんだよ。それがちょっと面倒だったけど結果できてたから。でもずっと知らなかったんだけど高校の時1位だったのが俺の仲良かった誠司ってやつでね。人を馬鹿にしてると思ってたって卒業の時言われたよ。あ、そうだ。誠司にも今度会わせたいな。バスケ部の部長だったから顔見たらわかるかもしれないけど。今は医者なんだよ。って研修医だから医者ではないんだって。この前夜中に電話したら相変わらず非常識だってすぐ切られたよ。ピリピリしてた。大変なんだね」

「うん……大変なんですね」

「あとは?」

「えっと……それくらいですかね」

「なんだ、全然たいしたことないよ」

「え、そう……?」

「うん。だから昨日言ったでしょ。椿と離れていた以上に辛いことはないって」

「うん……で、でもきっとそれが辛い……と思います。はやとさんが気にしてないこと自体が周りには辛いんです」

「そういえば高校の卒業式の日に誠司に言われたんだった。自分に鈍感なのは良くない、もっと自分を大切にしなって。そういうこと?」

「そうです。その通り……。自分を大切にしてないはやとさんを周りはすごく心配してるんです」

「……そうなんだ。でもどうしたら自分を大切にできるの?」

「う……そ、それは……わからないですけど」

「じゃあ一緒に考えよ」

「一緒に考える?」

「うん。考えるの椿とが良い。おばあちゃんが言ってたよ。自分だけの問題でも椿に話して椿と一緒に考えてそうやって2人で歩いていくんだって。だから先週も椿に言うつもりだったんだよ。椿に触れるのが怖いけどずっと一緒にいたいから結婚しようって。カッコ悪いと思ったけど昴がそれで良いって言うから。だけどそうやってプロポーズする前に治ったから言わなくて良いやって思っただけで」

「……そっか。教えてくれようとしてたんだ……」

「うん。駄目だった?」

「いえ……ううん……教えてほしかったから」

「良かった。おばあちゃんの知恵袋だね。さすが年食ってるだけのことは……痛い!!」

「ママに言うからね」

「隼人ーおばあちゃんにそんなこと言っちゃ駄目よー」

「褒めてるのに……」

「とりあえず早く行こう。なんか琉依兄今日来るらしいし」

「せっかくだから琉依さんも泊まっていけば良いのに嫌なんだってー不思議ねー」

「はいはい。だから早く行かないと回りきれないよ。椿、俺たちも支度しよ」

「あ、うん」


 私はいそいそと支度をする。はやとさんはきっと今いろんなことを知ろうとしてるんだ。子供の時あれはなに、これはなにって疑問を持ってお母さんとお父さんにいつも聞いてたけど、はやとさんは疑問を持つ興味を持てるものがなかったんだ。はやとさんは辛いことを私に教えてくれようとしてたんだって聞けてすごく安心した。隼人さんに出会えて良かった。隼人さんに好きになってもらえて良かった。私が隼人さんのきっかけになれて良かった。もっと隼人さんに楽しいことを伝えたい。隼人さんにいろんなことを知ってほしい。


「ねー椿ー」

「え!?あ、どうしたん……どうしたの?」


 洗面所でお化粧をしているとひょいっと隼人さんが顔を覗かせてきた。


「小林さんがくれた高級傘通販で買ったらしいんだけど店舗がこれから行く所の近くにあるんだって。ついでに椿のも買おう」

「へ?えっと、小林さんってお義父さんのお友達?」

「あーそっか。言ってなかったんだっけ?そうだよ」

「小林さんが傘を買ってくれたんで……だね」

「うん。椿高いものでも良いんでしょ?断り続けてたのに結局送り付けられて困ったんだけど頑丈だし結果的にすごく良かったから。お揃いにしたい」

「うん、お揃い」


 嬉しそうに笑う隼人さんに嬉しくなる。だけどすぐに首をかしげる隼人さん。


「そこでお化粧するの大変?」

「ん?そんなことないです……ないよ」

「さっき優菜さんにドレッサーがないとやりずらいって怒られたよ。買おうか」

「え!?いいいいですよ!!わざわざ!!」

「そうなの?あ、他に欲しいものがあったら言ってね」

「あ……えっと、じゃあDVD入れるラックが……」

「良いよ。母さんたち今日帰るし明日買おう。ベッドも」

「良いんですか?じゃなかった、良いの?」

「なんで?良いよ」

「ありがと……」


 隼人さんはうん、と言ってリビングに向かった。しばらくぼんやりしてたけど思わず笑みがこぼれてしまう。隼人さんのことを聞いて悲しいけど知れて良かった。だからこそ今の隼人さんがいろんなことに関心を持ってくれるのが嬉しいと思える。私が悲しんでたら駄目だ。隼人さんにもっと楽しいと思ってもらえるように私も楽しんで笑って毎日過ごすんだ。

 お化粧を終えてみんなで家を出て車に乗ると隼人さんは何も見ずにナビに住所を入力して保存すると別の住所を入力していく。


「隼人ーやっぱりさっきの蕎麦屋じゃなくてその隣に載ってたうどん屋に行くことにしたからそっちにして」

「ふーん」


 隼人さんは文字を消して新しく文字を打っていく。


「まさかガイドブックに載ってた住所を覚えてるんですか!?」

「え?うん」

「なんで!?どうしてそうだとして行く予定じゃなかったお店の住所までわかるんですか!?」

「なんでって言われても何でだろ……見てはいたからかな」

「え……」

「面白いでしょ。適当にこの中のお店の名前言ったらどこにあって何の料理が載ってたかわかるよ。暇潰しになるからやってみたら?」

「そんなの暇潰しにならないでしょ」

「できるんですか?じゃなくてできるの?」

「多分」

「じゃあ……」


 運転を始めた車の中で後部座席に座る優菜さんにガイドブックを見せてもらってお店の名前を言うと優菜さんの言う通り間違いなく住所とオススメとして載っていた料理を言い当てる。


「すごーい!!」

「たいしたことないよ」

「ね、暇潰しになるでしょ」

「そ、そうですかね」

「ねー隼人ー琉依さん18時に着くんだってー。どこに来てって言えば良いー?」


 隼人さんはどこのお店の辺りにいる予定だからそこに来てもらってと答える。


「えーどこー?」

「18ページの右上」

「あーここねー」

「……なんだかすごいですね」

「母さんたちすぐ決めてた予定ひっくり返すから全部覚えてた方があとあと楽なんだよ」

「そうなんです……そうなんだ」


 隼人さんはやっぱりすごい。


「すごい?」

「は……口に出してま……出してた?」

「うん」

「そ、そうなんですね。すごいです」

「椿が褒めてくれるの嬉しい」


 車が信号で止まって隼人さんは私の方を向いてそっと頭を撫でてくれる。


「これは私が嬉しい……」

「うん。嬉しいからお返しだよ」

「イチャイチャしてるー」

「甘い、甘すぎるわ。面白いからみんなに教えよっと」




 

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