子供の時の話
「えっと……この写真せ……は、はやとさんはなんで不機嫌なんでしょう?」
どうしても名前を呼ぶのがぎこちなくなってしまう。優菜さんが苦笑いしながら答えてくれる。
「ヒヨコが可愛いからよ」
「可愛いからですか?」
「そう。隼人の口癖、男に可愛いって言うなーだから」
えっと……真似かな?優菜さんは普段より高い声で言う。
「気持ち悪……」
「あんたの声変わりする前」
先輩は……ってこれが駄目なのか。は……はやとさんが眉をひそめて呟くと優菜さんは笑う。
「隼人に可愛いって言うとねー可愛いって言うなーっていつも怒るのよ。今でもなの」
「確かに男の子は可愛いって言われたくないものかもしれないです。せん……じゃなくて、はやとさん時々可愛いですけど」
「可愛くないよー!!」
私が言うとはやとさんが肩を揺さぶってきた。
「こうなるのよ」
「これも可愛いんだけどねー」
お義母さんの言う通りこれも可愛いと思ってしまう。おかしいな、はやとさんはかっこいいのに結構度々可愛いと思っちゃう。
「かっこいいでしょ?ね?」
こうやってすがるように見つめられるのも可愛いから返答に困ってしまう。
「かっこいいですけど……いや、かっこいいけど……やっぱり可愛い……」
見るからに落ち込んでしまった。ご、ごめんなさい。
「琉依兄だとわざとやらなきゃ可愛くは見えないんだよね。やっぱり顔はそっくりだけど違うのよね。美香の子だからかな」
「母さんになんて似てないよ」
「ひどーい!!良いじゃない!!隼人だって私に似たいって言ってたのに!!」
「言ってないよ!!」
「ねえ、甘エビまた頼まない?椿ちゃん食べれる?」
「え、あ、はい。ありがとうございます」
優菜さんははやとさんとお義母さんをまったく気にせずタッチパネルで注文してる。その間にも言った、言ってないって言い続ける2人にどうしようと思っていると注文し終えた優菜さんがはやとさんの頭を叩く。
「痛い!!馬鹿力!!」
「そんなに痛くないでしょ!!大袈裟なのよ!!」
「え、ど、どうしよ……」
一応お皿に気を付けてるみたいだけど喧嘩が始まってしまった。お義母さんを見ると今度はお義母さんがニコニコして賑やかねと言ってる。これってそんなに平和な感じなの?不思議だ。
「あの!!えっと……は……やとさんの写真もっと見たいです」
「わーい!!見て見て!!」
とにかく話を戻してしまおうと思って少し大きい声を出すとお義母さんがまた携帯を見せてくれた。
「これはくまさんの着ぐるみでー」
「えー!?可愛すぎます!!」
「これはニンジンでね」
「な!?ニンジンの着ぐるみなんてあるんですね!?」
「それから恐竜!!」
「な、なんだか不機嫌というかすごく怒ってません……?」
赤ちゃんのはやとさんのいろんな着ぐるみ姿の写真を見せてもらった。くまさんの着ぐるみをの写真では身体を丸めて眠っていてニンジンの着ぐるみの写真では何か喋ってる横顔が写っていて3枚目の恐竜の着ぐるみではソファーに座って膝を立てて頬杖をついていた。
「ねー可愛いでしょー」
「か、可愛いですけどやっぱり怒ってますよね……?」
「この時から既にふてぶてしくて態度が悪かったよね」
「嫌だって言ってるのに無理矢理着せてくるからだろ。若菜だけで満足できなかったの?」
「若菜は自分からドレスを着てくれてさ、それはそれで着せ替えが楽しかったんだけどモコモコが良かったのよね。あと嫌がる隼人に着せるのが楽しくて」
「それでしょ理由。意地汚い性格だな、まったくもう……」
「でも可愛いでしょー」
「お義母さん……可愛いです。可愛いですけど……ま、いっか。触り心地も良さそうですもんね」
「そうなのよー!!むぎゅーって抱き締めると気持ち良くてね」
「苦虫を噛み潰したような顔してグエッて声出すから面白かったわ」
「優菜さん……」
「ほら、こんな馬鹿な人たちのおもちゃにされてたらこうなるのもわかるでしょ」
「そ、そうですかね……じゃなかった、そうなのかな……」
でもなんだか先輩は赤ちゃんの時から大変だったみたい。
「は……はやとさんは小さい時どんな子だったんですか?」
「このまんまよ。性格悪い、態度も悪い、口も悪い」
「そ、そんな……」
「酷いでしょ?優菜さんこそ性格悪いし女王気取りだし厚化粧だし」
「せ、はやとさん……どっちもどっちです」
「幼稚園の時はね、お遊戯の時間にいなくなっちゃうって先生によく言われたのよー」
「そんなことに付き合ってられるかって、ボイコットだって。幼稚園児は可愛くお遊戯しなさいって言ってもそんな強制されたくないって全然言うこと聞かなくてさ」
「でも発表会は上手に踊ってたのよー。ムスッとしてたけど」
「出なかったりサボったりしたら美香が大騒ぎするわよって脅したら1回見て本番完璧に踊るのよ。不機嫌丸出しでね」
「昴が来てからはね、よく面倒を見に行ってあげてたのよ」
「先生昴が心配だから様子を見に行ってくるって。断りを入れたからってサボって良いわけじゃないって怒っても全然言うこと聞かなくて。本当にムカつく子供だったわ」
優菜さんは拳を握って言う。優菜さんの苦労はわかるけどはやとさんの小さい時のことが知れて嬉しい。
「椿ちゃん嬉しそうねー」
「はい。嬉しいです。はやとさんのいろんなことを知れて嬉しいんです。美織ちゃんをすごく可愛がってるのも慌ててよくわからない言葉を言ってるのも佳代子さんに強く出られないのも新鮮というか……とにかく嬉しいんで「じゃあ今夜もっと教えてあげる」ひゃあ!!」
耳元で囁かれて思わず叫んで横にずれる。
「先輩!!」
「はやとさんだよ」
「もー!!」
「はいはい。そういうのは夜中にやんなさい」
「ゆ、優菜さん!?」
平然と言われて慌ててるとお義母さんがラブラブねと微笑んでますます恥ずかしくなった。
「ふ、普通のせ、は、はやとさんがどんなだったか知りたいんです!!」
「1回で何でもできちゃったわよねー」
お義母さんが教えてくれて安心する。
「何でもですか?」
「そう。国語の暗唱も1回見たら覚えられちゃうしどの教科も1回教えられると完璧に覚えちゃうの。宿題してるとこ邪魔しようと思ってここ間違ってるよって言うとさ、間違ってないよ、小学生の問題もわからないなんて馬鹿だ。化粧してる暇があったら勉強やり直したらって。他にもつらつら言ってきてね、1言うと10返ってくるの。腹立つでしょ」
「運動もなーんでも得意だったのよー。あとよく若菜と喧嘩して帰ってきたわ。昴と遊んでたら若菜が勝手に怪我したって」
「キャッチボールしてたら若菜が乱入してきたから乱闘になったとかね」
「な……そういえば若菜がは、はやとさんのせいで小さい時怪我してばっかりだったって言ってました」
「縄跳びしてたら思いの外近くにいた若菜に当たったとか昴を間に挟んでお互いの悪口言い合ったり。騒がしいったらありゃしなかったわ」
「なんだか本当に兄弟みたいですね」
「そうねー昴が一番大人しくて良い子だったから長男ね」
「なんでだよ。俺が長男でしょ。普通に考えて」
「じゃあ次男の方がよくできた子だったわ」
「昴は俺の言うことなんでも聞いてたんだから俺が上。若菜が下」
「小さい時の昴はいつも隼人にくっついてたのよー」
「そうなんですね」
「昴は本当に子供らしく可愛い子だったんだから」
「昴は俺がミッションだって言うとなんでもやったんだよ。キッチンから水持ってこいとかゲーム片付けておいてとか」
「な……結城くん可哀想」
「昴も隼人に褒められると嬉しくてなんでも言うこと聞いてたのよ。洗脳ね」
そ、そういえば前に結城くん苦労してるって話聞いたな。小さい時からなんだ。
そうやって先輩と若菜と結城くんの話も聞いたりして、私たちはお店を出て家に帰った。




