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「勘違いですれ違った恋」番外編  作者: 柏木紗月
新婚生活スタート
12/62

幸せなひととき


 お風呂に浸かって息をはく。気持ちいい。やっぱりシャワーだけじゃなくて湯船に浸かるのが良いよね。あ、そうだ。先輩も入浴剤とか入れたらゆっくり浸かってくれるかも。その方が疲れも取れるだろうしこれこそ癒しの一時じゃないかな。

 と、考えていてハッとする。これはまずいのではないか?私が先に入ったから次は先輩がすぐに入るだろう。その間髪の毛はどうしたら良いのか。先輩に乾かしてもらってから入ってもらう?いやいや、それはないだろう。だったら先輩がお風呂から出てから乾かしてもらう?先輩がお風呂に入ってる間髪の毛はそのまま?そういうもの?そして乾かしてもらうのはリビングで?ドラマとかではリビングのソファーで寛いで乾かしてもらってた気がする。でもリビングで乾かしてたら髪の毛がすごく落ちてしまうだろう。いや、それはあとで拾い集めれば良いんだろうけど、綺麗なリビングを自分の髪で汚すのは忍びない気がする。いや、だから拾えば良いんだって。

 そんなことを考えていると、だいぶ時間が経った気がする。私はお風呂から出て着替えをするとタオルを肩にかけたままリビングに行く。


「あれ?髪の毛乾かさないの?」

「え?えっと、時間がかかるので先に先輩に入ってもらおうかと」

「そんなの気にしなくて良いのに。じゃあドライヤー持ってくるからここで乾かしてなよ」

「え、あ、ありがとうございます」


 優しくて素敵な旦那さんの先輩はそう言って洗面所からドライヤーを持ってきてくれた。そしてお風呂に入りにいった先輩に呆然としていると、ぼーとしてる場合じゃないとパソコンを開いて乾かしてもらうやり方を検索した。だけどおかしい。髪の毛を乾かしてもらうのはありかなしか、そういうのばかりで方法までは書かれてない。しかも女の人は乾かしてもらいたくない人が多いらしい。ちょっと!!聞いてた話と違う!!とお義母さんたちに言いたくなったけど仕方ない。お義母さんたちは好きというだけの話だろう。でもこれではなんの解決にもならなかった。もう諦めて他の甘えをして先輩を癒そう、そう思って脇に置いていたドライヤーに手を伸ばすとちょうど先輩がリビングに入ってきた。

 乾いてない濡れたままな髪の毛を見て先輩が慌てて駆け寄ってきた。


「もう!!なにしてるの!!」

「す、すみません……でもタオルでパンパンってしてたのでそこまで床に滴ってはないはずです」

「なんの話!?風邪引いちゃうでしょ!!」


 そう言ってドライヤーのコンセントを差し込んでいる先輩に慌てる。


「か、風邪なんて引きませんこんなことで!!」

「引くかもしれないでしょ。ほら、前向いて」


 なんてことだ。奇しくも先輩に髪を乾かしてもらうという状況になってしまった。だいぶこんな感じかなと思ってたのとは違うけど。


「もう、どうせ調べ物してて乾かすの忘れちゃったんでしょ」

「そ、そういうわけじゃないですよ!!」

「パソコン開いてたじゃない」

「これはちょっと調べてただけです!!」

「ふっ……。だから言ってるでしょ」

「は……そ、そうですね」

「なにも乾かす前に調べなくたって良いのに」

「いやいや、乾かしたあとに調べたら意味ないじゃないですか」

「なに調べてたの?」

「髪を乾かしてもらう方法です」

「うん?」

「だから、髪の毛を……しまった、なんでもないです」


 別に隠すことではないかもしれないけど恥ずかしくて俯いてしまう。


「どういうことだろ?その考えに至った経緯を初めから話してみて」

「ええ……?嫌です」

「嫌じゃないの。椿の思考は最後だけ聞くとよくわからないけど順序たてて聞くとこういうわけでこう考えたんだって理解できるから。はい、まずは?」

「う……」


 先輩の言葉に反論できなくて大人しく話すことにした。


「先輩に癒されてほしくてお義母さんと優菜さんと彩華さんに先輩は癒されたいそうなんですけどどうしたら癒し系奥さんになれるんでしょうかって聞きました」

「な、なんてことを!!」


 先輩は慌ててドライヤーを止めると自分の携帯を持ってきた。


「やっぱり!!こういうことになるんだよ!!」


 先輩が見せてくれたのは家族全員のグループメッセージの画面だった。その画面の一番上にお義母さんがメッセージを送っていた。


『隼人ったら椿ちゃんに癒されたいらしいのー』


 そして続けて優菜さん。


『椿ちゃんに隼人を癒すにはどうしたら良いかって相談されちゃったー』


 私は口をパクパクとさせて先輩を見る。


「ね、母さんと優菜さんは口が軽いんだから安易に相談しちゃ駄目だよ」


 私はコクコクと頷いてメッセージの画面をスライドさせていく。お風呂のことや髪を乾かす話に、お義父さんたちがだったらこういうのはと提案してきたりだいぶ賑やかにやり取りしていたのがわかって余計に恥ずかしくなってきた。


「ご、ごめんなさい」

「いや、良いんだけどね。でもこれがうちの普通だから。基本全てオープンだから。特に母さんと優菜さんに話すと包み隠さず全て全員に知らせるから気を付けて」

「こ、これはどうしたら?」

「これは俺がからかわれるだけだから気にしなくて良いよ」

「ごめんなさい」

「もう謝らないでって言ってるのに」

「そうでした」

「でも椿が俺のために考えてくれたのは嬉しいから続けるね」


 そう言ってドライヤーのスイッチをもう一度入れて優しく髪の毛を乾かしてくれる。


「からかわれるの嫌ですよね。先輩はいつも私をからかってきますけど」

「からかってないってば。思ったことを普通に言ってるだけ。それにみんな昔から俺をからかうの好きだから別に今さらだよ」

「そうなんですか……」


 そういえば、と先輩の実家でのことを思い返してみる。


「みんな楽しそうでしたね、先輩のことが好きだから」

「面白がってるんだよ。ただのふざけた集団だよ」

「もう、そんな言い方して……。これ、私も送って良いですかね?」

「好きにして良いよ」


 私は自分の携帯を手に取ってアプリを開く。何十件とあるメッセージをスライドさせていき、あとでゆっくり見返そうと思いながら、メッセージを打つ。


『今、先輩が髪の毛を乾かしてくれています』


 そう送るとすぐにメッセージが届いた。


美香『隼人良かったねー』

優菜『私たちに感謝するのよー!!』


 それを後ろから見た先輩が呟いた。


「うるさいよ……」


 私はまたメッセージを送る。


『先輩が、うるさいよ、と言っています』

美香『ひどーい!!』

優菜『感謝しろー!!』


「ふふ」

「面白がらないで」


 思わず笑ってしまうと先輩がドライヤーの先で頭を軽く叩いてきた。


『先輩にドライヤーの先で叩かれました』

優菜『こらー!!』

美香『椿ちゃんを苛めちゃ駄目ー!!』


「椿……」

「えへへ、つい」


 お義母さんと優菜さんの反応が面白くてついやってしまった。クスクスと笑う私に見えないけど先輩が優しく笑ってくれたのが髪を解かしていた手がポンポンと頭を叩くのでわかった。


『先輩を癒したかったのに私が幸せです』

優菜『ヒューヒュー』

美香『隼人も幸せなのよー』


 そっか、私も幸せだけど先輩も幸せなんだと後ろを振り返ろうとしたけど手で止められてしまった。

 そのあと次々とみんなからメッセージが届いた。そしてそれが途切れると若菜の怒ったクマのスタンプが送られてきた。若菜も結城くんも既読にはなっていたけどずっとなにもメッセージを送ってきていなくてこのやりとりを始めて初の反応だった。


若菜『ずるい!!』


 え、ずるい?それだけ送られてきて私は戸惑う。


昴『若菜は隼人くんが坂下さんの髪の毛を触ってるのが羨ましくてずるいって言ってるんだよ』


 結城くんが解説してくれるけどそれでも不思議でメッセージを送る。


『若菜もいつも私の髪の毛を触ってアレンジしてくれるじゃない』

若菜『隼人が喜んでるのが気に食わない!!』


 ええ……?


『どうして?私は先輩に喜んでもらいたいから喜んでくれたら嬉しいよ?』

昴『若菜に噛みつかれた』

『え!?なんで!?大丈夫!?』

優菜『若菜ー椿ちゃんの幸せを邪魔したら駄目よ』

昴『肩にあまがみされただけだから平気』

隼人『若菜、一生悔しがってな』


 携帯の画面に集中していた私は突然の先輩のメッセージに驚いて振り向く。髪の毛を乾かし終わった先輩が携帯を手にして笑う。


若菜『むー!!隼人のばーか!!喜ぶからってなんでもさせるな!!この変態!!』

隼人『椿がやってくれるんだから良いの。毎日出迎えに来てハグしてキスもしてくれるって』


 私は声にならない声をあげて慌てて先輩の腕を取る。


「な、なんてこと言うんですか!!」

「別に良いでしょ」

「全然良くない」


 私が頭を抱えだしてもメッセージは続々と来た。


若菜『私の椿なのにー!!』

昴『隼人くん……』

美香『ふふ、私たちとお揃いね。ね、琉依さん』

琉依『そうだね。幸せそうで僕も嬉しいよ』

優菜『振り切った隼人って面白いよね』

浩一『ママ、面白がっちゃ駄目だよ』

一輝『新婚さんって良いねー。懐かしいなー』

彩華『してないわよ!!私たちは!!隼人、あんまり無茶なことさせちゃ駄目よ』

隼人『大丈夫。椿も嬉しそうだから』

『それに関しては違います!!』

隼人『じゃあしないの?癒されるのに』

『します』


 なぜ隣にいるのにメッセージで会話してるのかと最後だけ不思議だけどみんなからメッセージが次々と届いた。




 楽しかったけどヒヤッとさせられたりで疲れた身体をベッドに沈める。


「ね、どう?やっぱりもう少し大きい方が良い思わない?」

「んーそんなことないですけどもう良いですよ」

「じゃあ今度買いにいこうね」

「そうですね」


 絶対そうしたいわけじゃないことは先輩のしたいようにしよう。先輩が望んでくれるなら嬉しいし。抱き締めてくれる先輩の腕の中で私はそう思った。







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