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「勘違いですれ違った恋」番外編  作者: 柏木紗月
新婚生活スタート
13/62

新しい出会い


「んー……」


 私は今悩んでる。花柄にこんなに種類があるなんて思わなかった。なんて品揃え豊富なお店なんだろう。先輩と結婚して2日、火曜日。私は仕事帰りにマンションの近くのスーパーにお布団を買いに来ている。だけど花柄だけでも可愛い感じのデザインや高級感のあるデザインのものとか種類が多くて悩んでいた。と、そこで携帯にメッセージが届いたみたいで開く。先輩からだ。


『今仕事終わったよ』


 先輩は昨日もこうやって連絡をくれた。昨日先に帰ってご飯を作っていた私はこのメッセージが届いて急いで支度を終わらせてわくわくした気持ちで帰ってくるのを待った。先輩はマメな人だ。多分毎日こうやって帰る時間を教えてくれるんだろうな。優しいな。そう思いながら『お疲れ様です。わかりました』と返事をしてふと思い付く。いつまでも1人で唸っていても決まらない。先輩に相談しよう。


『先輩、どうしましょ』

『どうしたの!?』


 驚くほど早く返事が来てしまって慌てる。先輩は心配性だ。


『お布団の種類が多くて決まらないです』

『なんでも良いよ』


 そうだった。先輩はお義母さんと優菜さんが遊びに来るのにあまり乗り気じゃないみたいだった。先輩は興味のあることとないこととで態度があからさまだとついこの前新発見した。一昨日新しいベッドを買うことになって昨日仕事から帰ってきた先輩はネットで調べたベッドの候補をタブレットで見せてくれてこれが良いと思う、でもこっちも良いかなとたくさん考えてくれたのに。先輩が楽しそうだし私も見ていたら買いたくなったし良いんだけどこの差はいったい……。

 それにこれではなんの解決にもならない。先輩に直接見てもらって一緒に決めよう。


『1人じゃ決められないので一緒に選びましょう』

『うん良いよ!!待ってて。あと15分くらいで着くよ』


 なんだろう。先輩一緒に選ぶのは良いみたい。でもそれならあと15分どうしようかな。夜ご飯買いにいこうかな。


『待ってる間に食料品売り場に行ってて良いですか?』


 先輩から良いよ、着いたら1階に行くねと返事が来たから私は1階の食料品売り場に行く。

 今日の夜ご飯は何にしよう。日曜日は親子丼、昨日はさばの味噌煮、和食和食ときたから今日は洋食?でも和食和食だから今日も和食を楽しみにしていたらどうしよう。期待はずれだと思われちゃう。こんなことなら先輩は私の味が食べたいと言ってくれたからレシピは聞かないけど好きな食べ物は聞いておきたいと思って彩華さんに子供の時何が良いって聞くとさばの味噌煮とか魚料理をリクエストしてたって教えてもらってすぐに作らなきゃ良かった。でも先輩すごく感動してくれてた。いや、でも今日にしておけば良かった。そしたら昨日は別の洋食とか中華にして連続にならなかったのに。どうしよう。そこで目についたのがじゃがいも。……あ、カレーはどうだろう?カレーはインド料理ってイメージだけど洋食屋さんにあるし国民食って感じだし。


「あらあら、危ないわよ?」

「え?……ひゃー!!」


 じゃがいもを両手に取って選びながら考え事をしていたら山積みされたじゃがいものなだれが起きそうになっていて慌てて止める。


「す、すみません。ありがとうございました」


 親切に声をかけてくれただけでなく手伝ってくれた女性にお礼を言う。なんだか小学生の時の給食のおばさんとか大学生の時の学食のおばさんにいそうな優しそうな人だ。年齢はお母さんと同じくらいかもしれない。お母さんも同じように近所のスーパーに行くのにお化粧しないでマスクしてるし。


「良いのよー。なにか考え事?」

「え、あ……はい」

「良かったらおばさんに話してみて。役に立てるかもしれないわ」

「えっと……今日の夜ご飯は何が良いかなと。一昨日と昨日和食だったので今日も和食にするべきか洋食にするべきか、和食、和食ってきたから別のものが良いかもしれないけど今日も和食を楽しみにしていたら期待はずれだと思われてしまいそうで。あ、だけど期待はずれだとしてもそれを言わないと思うんですけど。でも喜んでほしくて、どうしたら良いのかわからなくて」


 初対面の人になにを話してるんだと思いつつなぜか話してしまえる雰囲気があった。


「まあまあ、可愛い悩みごとねえ」

「そ、そうですか?」

「新婚さんかしら。そういえば見ない顔ねえ」


 見ない顔?そう疑問に思っていると通りかかった人が佳代子さんこんばんはと声をかけて横を通っていった。それに目の前の女性が返事をしていて他にも何人もの人が挨拶をしていてにこやかに挨拶を返してる。……もしかしてこの人は市長夫人とか大富豪の奥様とかすごく大物なのでは!?急に失礼なことを考えた気がすると思って焦る。


「すみません!!」

「へ?」

「私先日結婚して近くに越してきた坂下……じゃなくて佐々木「え、椿ちゃん?」はい?」


 この一帯を取り仕切る大物の奥様だと思って慌てて頭を下げると名前を言う前に名前を呼ばれてしまった。


「あらやだ。隼人くんに怒られちゃうわ」


 え?先輩?人違いかな?でも佐々木って言ったし……。


「椿?」


 頭をあげて呆然としていると先輩の声が聞こえて横を向く。


「なんで佳代子さんも?」

「隼人くんごめんなさいね。怒らないで。椿ちゃんだって知らずに声かけちゃったの」

「別に怒りませんよ。もう大丈夫だって言ったじゃないですか」


 先輩はそばまで歩いて女性とお話ししてる。人違いじゃなかったみたい。市長夫人さんと仲良しなんだ。先輩はすごい。


「あ、椿……どうしよう、なんて説明しよう」

「あら、普通にマンションのオーナーだって言ってくれれば良いじゃないの」

「え!?」


 マンションのオーナーさん!?金曜日に有給を取ってるから色々な手続きをしないといけないと思っていたけど引越関係のことを考えるのが抜けていた。


「ど、どうしましょ。なにか書類とか必要ですよね。ああ、それより挨拶が……」


 オーナーさんに挨拶するのを忘れてたなんてと慌てる私を佳代子さんと呼ばれた女性が宥める。


「気にしなくて良いのよ。それにしてもあわあわがすごいのね、本当……」

「だから言ったじゃないですか。色々訂正したり話さないといけないことがあるから何から話そうかと思ってたのに」

「あの、勝手に住んでしまっててすみません。事前に言ったり必要な手続きとか……えっと」

「良いのよー。そもそも最初から隼人くんと椿ちゃんが一緒に住むと思ってたし隼人くんから日曜日から椿ちゃんと暮らすって聞いてたもの」

「え?どういうことですか?え、でもとりあえず必要なものはありますよね、書類」

「まああるけど急いでないから良いわよ」

「でも書きます!!」


 結婚して必要な手続きがたくさんありすぎてどうしようと思っていたところだ。今やらないとと思って必死になる。


「けど椿、住民票金曜日だよ」

「そ、そうでした……」

「あ、そうだわ。書類うちにあるんだけど紙だけでも取りに来ない?あとで渡しに来てくれれば良いわよ。それでついでにうちで夕食食べていかない?」

「嫌ですよ。椿の手料理を楽しみにしてたのに」

「あら。そんな毎日期待していたら奥さんは大変よ。たまには外で食べるとか作ってあげるとかしないと。それにご飯のことで悩んでるみたいよ」

「え!?そうなの椿」


 先輩が慌てて私の手を握ってきた。


「作りたくなかったら作らなくて良いよ。俺もたいていのものは作れるし外に食べに行っても良いよ」

「せ、先輩大丈夫です。そういうことで悩んでたわけじゃないです」

「そうなの?じゃあどうしたの?なんでも言って?」

「まあまあ、あとでゆっくり話したら?じゃあ待ってるわね」

「え、佳代子さん行くって言ってないんですけど」

「問答無用。椿ちゃんが手続きの書類書きたいって言ってるんだからついでよ。ついで」

「横暴だ」

「なにか文句があるのかしら」

「ないです」


 じゃあ待ってるわねーと言って醤油だけ持ってレジに行く佳代子さんを見ながら呆気にとらわれる。


「仕方ないなあ。椿なにか買っていく?」

「え?あ、いえ。昨日買ったものがあるので夜ご飯作らないなら大丈夫です」

「じゃあ布団買いにいこう」

「そうですね」


 先輩はそう言って歩きだしてしまって私もすぐに並ぶ。


「ご飯のことで悩んでたっていうのは?」

「あ、それはあとで良いです。それよりさっきのオーナーさんは……」

「それを話すのはいろいろ複雑で。椿にはいろいろ嘘をついてたこととかごまかして言ってないことがあるんだ」

「そうなんですか?」

「うん。椿がなにに悩んでるのかわからなくていろいろ考えたんだ。その1つがお金持ちが嫌いなんじゃないかってことでね」

「え、なんですか。豪華なものとかは気が引けちゃいますけど」

「昴とか若菜がおばあちゃんの家に池だの鯉だのって言ってたでしょ。確かにおじいちゃんは三男なんだけど家は地主で裕福なんだ。でも俺たちは全然普通。前にもこの話したよね」

「そうでしたね」


 私たちの想いが通じ合ったあの日夜ご飯を食べている時に教えてくれた。


「でも俺は嫌いでめったに行かなかったんだけど親父はいろんな所に顔が利くからパーティーとかよくあるんだ。母さんと2人で頻繁に出てる。普通そんなの行かないでしょ?」

「ドラマみたいです。縁遠い言葉です」

「でしょ。だから母さんにそういうのを聞いてお金持ちだって思われてそういう世界に引っ張りこまれたら嫌だって思ったのかもしれないって思って」

「ええ……。そんなふうに惑わせてしまうなんて……。もしそういうことがあっても先輩が一緒なら私頑張ります」

「頑張らなくても良いんだけど。でも良かった。俺個人でも付き合いで行くことがあるんだ。日本でじゃなくてアメリカだけど。仕事でだからないかもしれないけどもしこれからあるとしたら一緒に出てくれる?」

「ダンスは何を覚えてどのタイミングで踊り出せば良いんでしょう?」

「多分椿が思ってるのと違う。それ海外映画?」

「そうです。違うんですか」

「うん。まあそれは置いといて。だからお金持ちが嫌いだったら日曜日に話した親父の友達にも会わせられないなって思ったんだよ。みんな経営者とか親父と同じ会社の一緒に起業した人たちだったり。椿がお金持ちが嫌いなら紹介できないなってとりあえずその人たちに関する話はしないでいたんだ」

「そうだったんですか。気を使わせてしまってすみません」

「だから謝らないでってば」

「そ、そうでしたね」

「でね、さっきの佳代子さんは親父の友達の1人の奥さんなんだ」

「ああ、そういうことなんですね」

「そう。近くに住んでるから俺と椿が一緒にいる時に声をかけないようにするって椿と接触しないようにしてくれてたんだ」

「それで怒られるとかって言っていたんですね」

「うん。本当に怒りはしないんだけどね。っていうか佳代子さんが怖いし。俺が怒ったところで倍返しで怒られそう」


 先輩が苦笑いして言う。優しそうな人だったけど先輩は怖いみたい。さっきの帰り際の様子を思い返す。


「まさか佳代子さんが一番に椿に紹介する人になるなんてなー。あの人は神崎佳代子さんって言って旦那が神崎竜二さん。親父の友達の1人。椿に紹介したいって言ってた俺の大切な人だよ」


 私は驚きを隠せなかった。神崎竜二さんというのは貿易会社の社長さんでメディアにも度々出ている有名な人だ。私の通っていた大学に特別講義をしにきてくれたこともある。


「先輩、先輩、私その人知ってます。有名人です」


 有名人と知り合いだなんてと、つい小声になってしまった。


「知ってるよ。椿の大学に行ったんでしょ?」

「え、なんで知ってるんですか?」

「若菜から聞いたんだ。椿が竜二さんを見て竜二さんみたいな人が友達と付き合ってくれれば良いのにって言ってたって。友達にそうやって言うくらいだからお金持ちを毛嫌いしてるわけではなさそうって、さっきの椿の悩みはお金持ちが嫌いってわけじゃないなって結論付けたんだ」

「んん……確かに愛ちゃんに良さそうって思って若菜に話した覚えがあります。でも随分昔です。大学2年の時とか」

「そう、だから若菜も思い出すのに時間がかかって」

「まさか愛ちゃんの話が糸口になるなんて。あ、愛ちゃんって私が紹介したい友達の1人です。お金持ちとしか付き合わないんですけどね、5人兄弟の長女で苦労してるので家族を楽にしたいって一生懸命な子なんです。まあ、そう言いつつ単にお金が好きってだけじゃないのって所もあるんですけど。それで神崎さんみたいな優しそうでなおかつお金持ちの人なら愛ちゃんの願望も叶えられて大切にしてくれそうだなって。あ、もちろん神崎さんと愛ちゃんがって思ったわけじゃないですよ。既婚者だって知ってましたし年が離れすぎてますし」

「そうだよね!!年は近い方が良いよね!!」

「はい?まあ年の差なんて関係ないっていうのもありますけど」


 なんだろ?先輩が落ち込んでしまった。大切な人だから不倫とか心配してるのかな?


「でも大丈夫です。愛ちゃん今コンパで会った社長さんといい感じだって言ってました。20代です。年の差も良いですけど年が近いと話も合って良いですよね。私は先輩しか好きになったことがないので年がーとか考えたことないですけど」

「そうだよね。俺も椿だけだよ。椿だけ愛してるんだ」

「ひゃー!!外ではやめてくださいってば!!」


 急に元気になった先輩がキスしようとしてきて慌てる。急いでさっき見ていたお布団の所まで行く。


「先輩、さっき話したお布団です。こっちとこっち、どっちが良いと思いますか?一緒に考えましょ」

「うん、良いよ」


 どうやら先輩は一緒に何かするのが好きみたいだ。私が手招きして言うと先輩は嬉しそうに来てくれた。


「優菜さんは派手で豪華なのが好きだからこっちで母さんは子供っぽい天然馬鹿だからこっちかな」

「……やっぱり先輩に聞いて正解ですね。言い方は酷いですけど。でもこれで決まりましたよ。ありがとうございます」


 嫌味っぽい言い方だったけどお義母さんと優菜さんのことをよくわかってる先輩に選んでもらえて良かった。長い時間悩んでいたのがあっさり解決してお布団を無事に買うことができた。一度家に帰って車で来てくれたと言うからカートに入れて駐車場に向かう。


「あ……」

「どうしたの?」

「先輩、佳代子さん市長夫人じゃないですね」

「え?市長夫人?違うけど?」

「そうなんですねー。通りすがりの人がみんな挨拶していたので市長夫人だと思ったんですけど」

「違うけど似たようなものだからかな。竜二さんの奥さんっていうのもみんな知ってるし子供が2人いるんだけど学校のPTA会長もしてたし」

「仲良くならないといろんな事件が起きるやつですね!!」

「またドラマ?そんなのないし既に佳代子さん椿のこと大好きだよ」

「そ、そうなんですか?初めて会いましたけど」

「俺が椿の話してるからね」

「な……おかしな話じゃないですよね?」

「椿が可愛いって話だよ」

「おかしな話じゃないですか……」

「そんなことないのに。ああ、それでね、椿についてた嘘なんだけどまず、マンションのこと。こっちで部屋を探してるって言ったら安く貸してくれたって言ったけど実際は親父にこっちで就職するって言った時住む所はあのマンションって言われたんだ。椿が住んでるならいつか俺も行くだろうからって親父が竜二さんに1部屋空けておいてくれないかなって言ったら竜二さんの親戚がいつでも俺に明け渡せるように住んでくれてたんだ」

「え?ええ……?そんなこと……」

「無茶苦茶でしょ。それから車のことなんだけど親父が新しい車を買おうと思ってたのは嘘じゃないけど俺が椿を探しに電車で探し回ってたからくれたんだ。ああ、あと就職する時に親父の友達みんながうちの会社のこと教えてくれたり試験の対策してくれたりいつもみんなに助けられてたんだ」


 先輩は優しい目をして教えてくれた。


「そうなんですね……。たくさんの人が助けてくれてたんですね」

「うん、母さんたちは椿に直接言ったりお節介過ぎちゃうからって親父に止められてたけど竜二さんたちは大人だからやり過ぎなことはしなかったから。やり過ぎ……いや、俺個人に対してはやり過ぎだけど。家電はもて余しちゃってたしね」

「先輩のことが大好きでなんでもしてあげたいって思ってるんですね。優しいですね」


 私と先輩がこうやって一緒になるまでにたくさんの人の支えがあったんだな。


「先輩先輩、私早く皆さんに会ってお礼がしたいです」

「みんな喜ぶよ。そういえば竜二さん帰ってこれるかな……帰ってきたら椿に会えて喜ぶだろうけど村岡さんたちが文句言いそうだな……」


 先輩はそう呟く。村岡さんっていう人も先輩の大切な人の中の1人なんだろうな。私たちは駐車場について私と違って考え事をしていても他のことが疎かになったりしない先輩はささっと車にお布団を積んでカートを戻して車に乗った。私は手伝おうとしたけど助手席を開けて待っててと言われてしまったから大人しく待っていた。


「でね、椿には休みの日は椿探しをしていたかバスケクラブに行くかだって話したけど違うんだ。竜二さんの子供が高校3年の男の子と高校1年の女の子なんだけど男の子に勉強教えに行ったりオープンキャンパスについていったりしてるんだ。翔太くんっていうんだけど竜二さんの跡を継ぎたいって頑張ってるんだよ」

「会社を継ぐなんて大変そうですね。すごいです。先輩は教えるの上手ですもんね」

「元々頭が良い子なんだ。ちょっとチャラチャラしてるけど根は真面目でね」

「チャラチャラ?」


 神崎さんは真面目で実直な人って感じだけど息子さんは違うのかな。佳代子さんは明るい人だったしそういう子なのかな。


「女の子は洋子ちゃんっていうんだけど言葉が時々わからないの。若者言葉だって。わからないって言うとダサいおじさんだって言われるから適当に話を合わせてるんだけど翔太くんに全然噛み合ってないって笑われるんだよ。失礼でしょ」

「ふふ、可愛い子ですね。それにしても先輩にそんなふうに言うなんて……」

「中2になる直前に会ってるからね。今では言いたい放題だよ。一応イケメンのおじさんだって言ってくれるけど」


 先輩をおじさんだなんて洋子ちゃんって子はすごい。若いからなのかな?最近の若い子と接することなんてないからわからないけど。

 マンションに着いた私たちは駐車場に車を止めてすぐ歩いて行くことにした。軽く1杯くらいは飲むことになると思うと言われたから。


「あ、大丈夫だってわかってるけど念のため聞いて良い?」

「どうしたんですか?」

「お城みたいなやたらと豪華な家嫌い?」

「へ?自分で住むには気が引けちゃうと思いますけどすごいなーと思いますよ」

「本当?じゃあ大丈夫だね」


 なんだろう、と思ったけど先輩は洋子ちゃんから聞いた最近の若者言葉を教えてくれてそれがこういう意味だろうと思って話したという話をしてくれて笑いながら歩いていた。


「あ、忘れてた。椿、竜二さん名字で呼ばれるの嫌いだから竜二さんって呼んであげて」

「え、そうなんですか?」

「うん。すごい厳かな感じだからって、フルネームで呼ばれると余計にそわそわするんだって」

「そうなんですね」

「あ、ここだよ」

「え……せ、先輩!!」

「なに?」

「お城みたいな豪華な家が嫌いって聞いてくれるなら聞いた理由も教えてください!!こんな格好で着ちゃったじゃないですか!!」


 そこはテレビで見るセレブが住む豪邸だった。こんな安物のシャツとパンツスタイルじゃなくてパーティードレスを着てくるべきだったんじゃないかと慌てて先輩に詰め寄る。


「へ?大丈夫だよ」

「ドレスとかそうじゃなくてもフォーマルな服で来ないと非常識な子だと思われちゃいます」

「また?そんなこと思わないよ。店じゃないんだから。とにかく行くよ」

「あわわわわ!!」


 大変だ。私は先輩に腕を引かれて門から玄関までの長い距離を歩く。先輩が話してくれたお金持ちの世界に引っ張りこまれるのが嫌だってことはない。それは本当。だけどそれは事前に話をしてくれて下調べさせてもらえて準備万全の状態の話なのに!!よく考えたら有名な社長さんのおうちが豪邸だなんてよくある話だ。先輩がたくさん話をしてくれるから考えてる時間がなかった。いや、先輩のせいにしちゃ駄目。よし、門から玄関まで長いおかげで心の準備は完璧だ。




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