叫ぶ植物
❲叫ぶ植物❳
◎一般的に知られている植物と見分けがつかない。花弁は香草ならカモミール、雑草ならヒメジョオンと酷似している。
◎本体は根。地上に出ると奇声を発する。
空想物語での、怪奇植物の説明だ。
『この連載小説は未完結のまま約3ヶ月以上の間、更新されていません』が解除された本作の序盤に落胆した。
黙れ、語り。
上から目線態度の筆者が気に入らない。……。あ、蹴とばされた。
話を戻そう。本作のあらすじにあるように、時代は、なんでもあり。これより語られる逸話は、作蔵と伊和奈が実際に体験した出来事であるーー。
***
ーーきええっ。
ーーうぎゃああ。
ーーん、ばううっ。
「……。あいつらめ」
作蔵は機嫌が悪かった。仕事が終了した明け方、自宅の庭先より聞こえる悲鳴で眠れないというのが理由だった。
「作蔵、ごめん。あいつらに除草剤効かなかった」
座布団を被って顎紐を縛り、耳を塞ぐ伊和奈の下目蓋は隈で黒々としていた。
「いや、おまえの所為ではない」
寝るのを諦めた作蔵は布団を押し入れに仕舞い込み、伊和奈が支度する朝食の出来上がりを四畳半で待っていた。
「園芸店で買った香草の苗を植えたら叫ぶ植物だった。店員さんの『花は綺麗だけどクセがあるから気を付けて』の説明、冗談だと思っていた」
「叫ぶ植物であるのを隠して売り付けたかもしれないぞ」
「……。問い詰めるの、可哀想だよ」
「伊和奈。情と安眠、どっちを選ぶ?」
「安眠」
伊和奈は卓袱台の上に置こうとしていた、豆腐の味噌汁が注がれている椀をひっくり返してしまうーー。
***
叫ぶ植物によっての被害は、作蔵宅だけではなかった。比例したかのように、作蔵が請け負う仕事は叫ぶ植物絡みが増えた。
ある晴れた昼下りだった。麦わら帽子を被り手拭いを首にさげて腕カバーと軍手に地下足袋姿の作蔵は、土埃と汗まみれで叫ぶ植物を地中から引っこ抜き、燃え盛る炎に投げ入れる。
ーーん、ぎゃああっ!
ーーぴぎぃいいっ!
ーーぼ、へええっ!
焼かれる叫ぶ植物の残酷で残忍な悲鳴が痛々しい。
「助かりましただ。作物の害虫避けにと植えた香草が悪さをするとは思いもしなかったですだ」
作蔵の背丈の3分の2の大昔のお姉さんが右手に缶コーラ、左手に白いサンダルを握りしめながら笑みを湛えていた。
「お姉さんが山奥のポツンと一軒家で暮らしているとはいえ、特に収穫間際の作物を叫ぶ植物に食い荒らされたのは此方としても腹立たしいですよ」
「おやおや『お姉さん』と呼ばれたのは百年前に夜明けが近い渚のバルコニーで待ってていた彼以来ですだ」
「は?」
「ひゃっ、ひゃっ、ひゃっ。9と4分の3は嘘だよ」
「……。また、何かありましたらお伺い致します」
作蔵は、大昔のお姉さんに請求書を渡すと険しい山道をくだったーー。
***
奇声を発する、食物を荒らす。叫ぶ植物がもたらした、害の共通点だ。効果があった駆除方法は、焼却。
ところがーー。
消防局から叱られたのだ。
作蔵は叫ぶ植物の駆除の依頼を承けて、訪れた民家の庭先で叫ぶ植物を燃やしていた。すると、消防局の職員がやって来た。
ガミガミガミ。と、職員は作蔵に激しく怒る。作蔵は一般家庭でのゴミ焼却が禁止されていることに問い質され、事情を事細かく説明する。因みに、依頼者である民家の住民は他人事のようにそっぽ向いていた。
作蔵は窮地に陥る。叫ぶ植物を駆除する、有効な手段を“消防法”で封じられてしまった。だが、承った仕事はこつこつと継続していた。90ℓ容量のポリ袋にぱんぱんと詰まる叫ぶ植物を、自宅に持ち帰るで対応した。
密封された叫ぶ植物は窒息してしまうのが判った。しかし、それでも事はうまくいかなかった。自宅の庭先で山積みとなったポリ袋の処分にだ。臭いの問題も発生するに伴って、ご近所さんの白い目が辛い。
叫ぶ植物を駆除した儲けは、ゴミ回収業者に費用を支払うことで消えてしまった。
このままでは気力、体力が尽きてしまう。叫ぶ植物を燃やさず腐らせずでどう始末すればいいのかと、作蔵は日に日にげっそりとなってしまうのであった。
「……。食欲はあるのね」
「ああ、それだけは元気いっぱいだ」
作蔵は夕飯で出された天ぷらをもりもりと食した。さっくりとした衣と具の食感が最高だと、作蔵は伊和奈が揚げる天ぷらに舌鼓をする。
「山芋だな。このぽくっとした歯ごたえが堪らないぜ」
「あ。それ、叫ぶ植物の根」
作蔵は「ぶっ」と、堪らず吹き出す。
「もう、大袈裟よ」
「おい、伊和奈。奴をどうやって大人しく、しかも食材にしたのだっ!」
「うるさいから根の口に塩を詰めてやったの、そしたら動かなくなった」
「……。で、何で食べられるのが判ったのだ」
「料理本に載っていた、調理するには塩でしめてから。あ、これってわたしが叫ぶ植物に偶々やったことだった」
数日、伊和奈がこさえた叫ぶ植物料理によって作蔵は“黙食”を余儀なくするーー。




