第三話 クロの魔法
三週間ぶりに、ティーパーティーの元に依頼人がやってきた。
「実はね、ウチの猫ちゃんがいなくなっちゃったの。探してくださらない?」
「かしこまりました。そのご依頼、ティーパーティーがお引き受けいたします」
ミケがクロにアイコンタクトすると、クロは頷き、さっそく準備に取り掛かった。
丸テーブルに間木ノ町全体の地図を広げ、地図上の東西南北四隅に魔水晶を置いた。
「それでは、その猫ちゃんの写真か…何か所縁のあるものをお貸しいただけますか?」
依頼人から差し出されたのは、以前使っていたという猫の首輪だった。
クロはその首輪を左手に持ち、地図上に右手をかざした。
魔法使いは、それぞれに魔法発動媒体を身につけている。ミケとクロの場合は、それぞれ右手中指にはめた指輪だ。
依頼人、ミケ、トラが見守る中、クロの指輪が淡く青い光を放ち始めた。設置された魔水晶の先から、光の筋が伸びて、地図の上をなぞる。
こうして、捜索対象に所縁のある物から波動を読み取り、対象を見つけ出す。
「……見つけた」
光の筋が収束し、町の一点を指し示した。
クロの職技クラス(魔法使いの役職)は【占術魔導師】と呼ばれる。
探し物や占いが得意で、古くは人を導く者として活躍していた魔法使いが多いという。治癒魔法と競うほどの緻密な魔力コントロールが必要とされる。器用なクロにはうってつけだ。ただ、些細な問題もある。
「はい。この子で、間違いありませんか?」
「ああ!チビちゃん…!ありがとうございます!」
迷い猫は、無事に飼い主の元に帰った。三人が見送る中、依頼人の女性は何度も頭を下げながら大切そうに猫を抱いて帰った。
「クロ。お疲れさん」
クロは椅子に座り、ふぅ、と一息ついた。明らかな疲れが見て取れる。
そんなクロの様子に、トラが首を傾げた。
「クロっち。疲れてる?大丈夫?」
「大丈夫ですよ。ただ、久しぶりだったもので…」
クロは微笑んだ。
「そういや、トラはクロの魔法見るの初めてだったか。占術はな…」
「すみません、ミケ。少し…寝ます…」
クロはテーブルに突っ伏し、そのまますやすやと寝息を立て始めた。
「クロっち?本当に大丈夫なの?」
トラが心配そうに覗き込む。
「安心しろ。少し疲れたんだ。占術の発動には、かなり緻密な魔力コントロールと、膨大な魔力を必要とする。クロは魔力コントロールは優れてっけど、魔力量が生まれつき少なくてな。発動は日に一、二回が限度なんだ。特に、今日は久しぶりだったからなぁ。しばらく寝かせといてやろう」
「そうなんだ…。お疲れ様、クロっち」
依頼人が来たおかげで、懐が少し潤った。家賃の支払いはできないが、今日くらいは三人で美味しいものを食べよう。そう思ってミケは財布を取り出そうとした。
「あ、れ…?」
無い。ズボンのポケットにも、コートのポケットにも、店の中をぐるりと探してみてもどこにも見当たらない。
ミケは慌てて、店の外へ飛び出した。店の前の道をざっと見ても、財布らしきものは落ちていない。
(落としたぁぁあああああ!!!!)
ミケは青ざめた顔で店の中へ戻ると、一目散に寝ているクロに駆け寄った。
「クロー!!起きろぉ!!頼む!!起きてくれぇ!!」
起きる気配はまるでない。ミケはクロの首根っこを掴み、無理やり立たせて往復ビンタを始めた。
「財布がっ…!財布がぁ!!」
「ちょいミケっち!!クロっち白目むいてるから!!ミケっち!!」
その晩は、一人一匹のししゃもを頬張った…。
クロはソファで寝言をつぶやく。
「またのお越しを〜…」
クロは嬉しそうに微笑んだ。
つづく
三話目も読んでいただきまして誠に感謝しております。探し物はとりあえずクロに頼めば見つけてくれます。(1日1組限定ですが)
さて。次はティーパーティーのマスコッ…アイドルであるトラの魔法がお披露目です。可愛い顔して実は……




