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第四話 トラの魔法


「はぁ…」

カウンターでいつも通りコーヒーを啜るミケは、コーヒーにため息を溶かした。

「どうしたんですか?ミケ。随分浮かない顔してますけど」

「……あいつが来るってよ…」

「あいつ?……!…いや、でもどうして?」

「まぁ、もう3ヶ月だから…な…」

噂をすれば…その足音はすでに店の前までやってきていた。


嵐の前の静けさが満ちていた店内に来客を報せるドアベルが鳴り響く。

ミケは背中に感じる悪寒に、汗が噴き出した。

「よーう…元気そうじゃないか…どらミケ」

ニヤリと笑う口元。

ミケはすぐさま振り向き、防御態勢を取った。しかし、すでに彼女の姿はなかった。

「!?」

次の瞬間、ミケの首に腕を巻きつけて引き倒し、身体を背中側に折りたたまんばかりの勢いで首を引き上げた。

ミケは自分の背中を踏みつける、馴染みの顔を目線だけで振り返った。

「ぐっ……!カンナ…おま……え…」

「どうだ参ったか!とっとと家賃払えこの野郎っ!」

彼女は、獅子宮カンナ。17歳の現役女子高生でありながら、間木ノ町に本社を構える大企業、獅子宮テックの跡取りとして仕事の一端を担っている。


カンナの祖父(現・獅子宮テック社長)と、ミケとクロは古い知り合いで、この店もその祖父から借りている。

クロの説得により、ミケはなんとか地獄の固め技から解き放たれた。

「カンナ…お前、少しはおしとやかにしろよ。もうすぐ高3だろうが」

「うっさい!どらミケ!あんたが家賃払わないのがいけないんでしょ!じいちゃんは甘いから何も言わないけど、私は甘くないからね!それに、この店の管理は私が任されたんだから!」

「わかったわかった。今月分は来月払うよ。それでいいか?」

「先月と先々月分もだ!ボケ!」

「はいはい。朝からギャイギャイうるさいやっちゃ…」

「なるほど、もう一度私の妙技を味わいたいと」

カンナは幼い頃から空手や柔道、果てはプロレス技まで学び、随分たくましく育った。ミケとは8つ歳が離れているが、諸共せずに圧倒する。ミケも最初のうちは遊び半分で対応していたが、ここ1年は真剣に死の淵を垣間見る攻撃を受けることが度々あった。

クロがそっと、コーヒーを差し出した。

「ごめんなさい。カンナさん。お金はすぐに用意しますので…」

「あ!いえ…クロさんが謝ることでは…」

カンナの頬が桜の色を写したようにうっすらとピンクに染まる。

ミケは呆れた顔でカンナを見た。随分とわかりやすい変貌ぶりに、寒気さえ感じる。

「で?お前、家賃の取り立てのためだけに来たのか?わざわざ学校休んで」

今日は平日だ。

「あ。技に成功した達成感で忘れるところだった。じいちゃんから、これ頼まれたの」

カンナは一枚のメモ用紙をミケに手渡した。そこには、必要な薬が書かれていた。

「じいさん、膝と腰痛めたのか?」

「最近、出張でいろんなところに行ってるから、長時間の車移動とかで痛いんだって」

「なるほどな。ストックがあるから、すぐ用意するわ」

ミケは自室に戻って、関節痛や腰痛に効く魔法薬を取って来た。カンナに手渡したちょうどその時、カンナの携帯電話に祖父からの着信が入った。

「もしもし?じいちゃん?…え!?今から?そうなんだ…。薬、どうしようか?…でも、じいちゃんツライでしょ?…うーん…わかった」

「じいさん、何だって?」

「予定されてた会議の時間が早まって、これから空港行かなきゃいけないんだって。すぐに会社を出るっていうから…薬…」

そこにいるのは、入店直後に凶暴性充分な荒技を仕掛けてくるパワード女子高生ではなく、祖父の身を案じる優しい孫娘だった。

「たっだいまー!」

そこへ、トラが商店街でのおつかいを終えて帰宅した。

「お!ちょうどいい。トラ、もう一回おつかい行ってくれないか?」

「えー!?今帰って来たばっかりなのにぃ!?」

ミケは事情を説明し、交換条件でパンケーキをごちそうすることを約束してトラを説得した。

「それじゃ、行ってくるね!」

トラは薬の入った紙袋を大事に抱え、そっと目を閉じた。

「場所はわかるか?」

「駅前の一番でっかいビルでしょ?だいじょーぶ」

この店から獅子宮テックのビルまで、徒歩で片道15分はかかる。とても間に合わない、とカンナは思っていた。

次の瞬間、トラの姿がフッと消えた。

カンナが思わず驚きの声を上げた。辺りを見回しても、トラの姿はどこにもない。

キョロキョロしていると、ミケの「ぎゃっ!」という短い悲鳴と、どしんっという震動が店に響いた。

見ると、床に倒れるミケの上に、トラがちょこんと座っている。

「あ。ごめん、ミケっち」

「いいから…早くどいてくれ…」

カンナは目を丸くして驚いた。

「いったいどうなってるの?この子も魔法使いなの?でも、指輪してないのに…」


魔法発動媒体である指輪は、魔法使いを判別する際にも役に立つ。しかし、トラの手には指輪はない。他にも魔法発動媒体になり得そうなアクセサリーは身につけていない。


トラは得意げに胸を張った。

トラは【転移魔法】の天才なのである。

いつ、どこで、どうやって習得したのかはわからない。転移先の指定や、転移対象の設定など、本来はいくつもの魔法陣を準備したり計算が必要だったりと手間と魔力が異常なほど必要とされる魔法だ。それをトラはその身一つで楽々使いこなす。(室内への転移はまだ座標が定まらないことがあるが)


「おかえりなさい。トラ。ちゃんと渡せました?」

「もっちろーん!」

トラはニカッと微笑み、右手親指をグッと上げた。

カンナは「はぁ〜」と感心してトラを見た。

トラとカンナはほぼ同い年だが、トラの方が一つ二つ下に見える。(トラの言動が子供っぽいことが原因と思われる)

「トラちゃん。ありがとう。助かったわ」

カンナの言葉に、トラは照れ臭そうに誇らしげに笑った。

再び、カンナの携帯電話に着信が入った。

「もしもし?蒔田?どうしたの?………えっ!?……う、うん。あ〜……わかった。よろしくね…」

電話を切ったカンナは、苦笑を浮かべている。

「何かあったんですか?」

「いや〜…それが、突然現れたトラちゃんにビックリして、じいちゃん…ギックリ腰になっちゃったみたい」


ミケ特製の魔法薬は早速、その効果を発揮したという。




つづく

少し時間が空いてしまいましたが、四話目です。

ティーパーティーのマスコッ…アイドル、トラの魔法がお披露目でしたが、楽しんでいただけたでしょうか。

次話もご期待(?)くださいませ。

それではまた。

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