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第二話 ミケの魔法


「緊急会議だ」

ミケ、クロ、トラの三人はテーブルを囲み、現状についての話し合いを始めた。

「依頼が入らないまま、すでに二週間が過ぎた…おまけに店の方にも客が来ない…このままだと俺たちは飢え死ぬ」

「困りましたねぇ…」

「お菓子食べたいよ〜…パンケーキ食べたい…」

ただでさえ細いクロの頬も痩せこけ、トラは空腹のあまり、机に突っ伏したまますすり泣く。

今週は、商店街のパン屋で余ったパンの耳をもらってどうにかこうにか凌いできた。しかし、パンの耳も今朝、底をついた。

店のメニュー用に用意していた食料は、とうの昔に使い切ってしまった。残っているのは、コーヒー豆と紅茶の葉と角砂糖くらいなものだ。

「依頼人が来ない日が続くのは、今までも何回かあった。しかぁし!カフェの客足がピタリと止んだってのは文字通り死活問題だ…!」

「そうですね。駅前にできた新しいカフェに、完全にお客さんを持っていかれましたもんね」

先月末、間木ノ町駅前できた、全国チェーンのカフェ。豊富なコーヒーメニューに、老若男女問わず大人気のスイーツの数々…。勝算は、はっきり言って無い。

「そういや、唯一の常連(収入源)だった吉田のじいさんは?」

「吉田さん。町内会のくじ引きで当たったとかで、先月から世界一周の旅に行っているそうです」

春の空に、満面の笑みで旅立つ吉田米吉(68)の顔が浮かんだような気がした。

何か打開策を見つけ出さねばならない。三人は腕を組んで考えを巡らせてみた。

「……」

「………」

「…………」

10分、15分…と時間がだらだらと流れていく。考えがまとまる速度よりも、空腹度が急上昇する方が早かった。三人の腹の音がコーラスを奏でる。

「こうなったら…」

ミケがカッと目を見開き、たどり着いたアイディアにすがる決意をした。

「クロ。コーヒー豆、あと一袋分くらい残ってたよな?」

「え?ええ、まぁ」

「それを使って、起死回生を図る…ちょっと待っとけ」

ミケはクロからコーヒー豆を受け取ると、二階にある自室へと閉じこもった。

「ミケっち、何か思いついたのかな?」

「うーん…長年の付き合いからか、こういう時のミケの思いつきはロクなことがないというか…」

「へ?」

「いえ。信じて待ちましょう。紅茶でも飲みますか?」

「飲むー!」


ミケは通称、【魔導造形師】と呼ばれる称号を持つ魔法使いである。

魔法薬の調合や魔道具の造形・制作が得意で、暇(と余裕)さえあれば研究と実験に没頭している。一部では、ミケのことを単なる研究バカと言う者もいるとか、いないとか…。


二時間後。待ちくたびれたトラが、ソファで静かに寝息を立てている。

「できたぞ!」

ドンっとテーブルに置かれた瓶の中には、紫や緑という何とも毒々しい模様のコーヒー豆が詰められている。

「えっと…ミケ?これは…コーヒー豆なんですか?」

「俺のオリジナルブレンドだ。こいつで客を集める!」

クロは訝しげに、瓶の中を見つめた。耳を近づけると、わずかにうめき声のようなものが聞こえてきて、思わず飛び退いた。

(これ、大丈夫なんですかね…)

「よし!さっそく淹れてみてくれ」

「え〜…」

妙に自信満々のミケに押し負けて、クロはしぶしぶ豆を挽き始めた。ガリゴリと砕かれる度に、コーヒー豆(?)が「ぎぃやぁああああ!」と不気味で悲痛な叫び声を上げた。

えも言われぬ罪悪感を感じながらクロがコーヒーを淹れると、カップに注がれたコーヒーの見た目は意外にも普通で、香りもかなり良い。

「思いの外、美味しそうですね(飲みたいとは思いませんが…)」

「だろ?」

コーヒーの香りに誘われて、トラが目を覚ました。

「良い匂い…コーヒー?」

「お。トラ。飲んでみるか?」

「飲むー!」

トラは一片の疑いもなく、コーヒーをぐびっと一口飲んだ。

不安げに見守るクロを他所に、トラは目を輝かせて全部飲み干した。

「どうだ?」

「……」

トラは満面の笑みを浮かべた。そして、そのまま床に倒れた。

「ちょっ!?と、トラ!?大丈夫ですか?!トラ!!」

「あはは…見て…虹色のダンゴムシが踊ってるよ…」

「トラ!しっかりしてください!」

ミケは腕を組み、そっと目を閉じた。

「うーん…やっぱりか…」

(やっぱり!?)


トラは翌朝まで目を覚まさなかった。不可思議な寝言をつぶやきながら、クロの介抱を受けた。

ミケが作ったコーヒー豆の残りは、カウンター内の戸棚の奥の奥にしまい込んだ。

それ以降、夜中になると何処からともなくすすり泣くような声が店内に響くという。カフェ・またたびの七不思議のひとつだ。



つづく

第二話も読んでくださり、ありがとうございます。

登場人物たちの姿を文章にするのって難しいですね。脳内でのビジュアルは完成しているのですが、それをどう上手くお伝えできるか、未熟ながらに必死こいて考える毎日です。

それではまた次話。よろしくお願い致します。

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