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朝の伯爵、起こす婚約者2

 


 存外、自分の乙女な部分を発見してしまいました。


 こんにちは。イリスです。

 赤みの強い茶髪は小さい頃からの悩みの種であり、伯爵のようなさらさらな金髪に憧れを抱いてしまします。むしろ、少しイラッときてます。無い物ねだりだということも自覚しているので、しょっちゅう溜め息になってしまいます。・・・はぁ。

 と、これまで自分の乙女的悩みはこの髪のことくらいで、他にないと思っていた私ですが、この度、自分の乙女な部分を見つけてしまいました。

 そんなわけで、一人お部屋で悶えております。


 伯爵を、愛称で呼んだことが恥ずかしすぎて。


 どう恥ずかしいのかと聞かれると、何と言えばいいのかわかりませんが、あの状況全てに、というところが本当です。


 何故、彼の呼び名のことなど考えたのか。

 どうしてそれを実行しようなどと、不届きなことを考え付いたのか。

 しかも、どうして愛称で呼んでしまったのか!!


 ・・・すべてが悔やまれる。

 そして何故そこだけ聞いたんだ、伯爵。眠っていればいいものを。

 ああ、今から記憶って消えないかな。・・・無理だけど。


 そんなわけで、あの状況から叫ぶだけ叫んで伯爵の部屋から逃げてきました。

 オリガさんの驚いた顔も頭から離れない。色々顔を合わせにくい状況を作ってしまった。

 だが、あの状況であの場に留まる勇気はなかったんだよ。伯爵の顔も見ないまま逃げてきちゃいましたよ、私。


 伯爵家で与えられた私の部屋は、誰が揃えたのか、品の良い木製の家具が一式置いてある。

 男爵家では見ることもないような見事な細工の施されたものばかりだ。初めてこの部屋の通された時、唖然としてしまったのは懐かしい記憶である。

 今では、見慣れた部屋、自分の領域である自覚を持っている。だからこそ、慌てた私はこの部屋の逃げ込んだのだ。けれども、

「失敗した・・・」

 私は額に手を当てて、自室のソファに身を埋めていた。

 呻く声は我ながら可愛くない。

 この部屋に逃げ込んだのは行けなかった。なぜなら、ここは『伯爵家』であり、私の実家の『男爵家』ではないのだ。

 つまり、どんなに逃げ込もうが、伯爵が部屋の前まで来てしまえば、会わない理由がない。

 そう伯爵家の中にいる限り、『会わない』理由も『拒む』理由もないのだ。

「何で外に出なかったんだろー・・・」

 ある程度冷えた頭ならば、わかる。

 さっさと外に出てしまえばよかったんだ、と。

 そうすれば、伯爵は王宮に出仕するのだから無理に顔を合わせる必要もないし、伯爵が私を探す時間もない。

「でも、用事はないし・・・」

 口実にしようにも、いつも通りに生活していたイリスは午前中には自分の用件を済ませていた。昼には伯爵を起こすという使命(?)もあるものだから、普段から午前中に自分の用件を済ませる癖がついてしまっていたのだ。

 基本的に、『用事がなければ、外出する意味を見出さない』イリスは、用事のない外出をしない。

 イリスが外出する時は、「男爵の様子見」だったり、「友人に会いに」のみで、自分の買い物のための外出は「十分にあるでしょ?」とすることはない。伯爵に誘われれば行かなくはないが、それが実行されたことはないので今のところ「ない」、で間違いではない。


 侍女も付けてもらっていないイリスは、一人自室のソファでごろごろと動き回る。

 ひたすら落ち着かない。

 今からでも遅くはないだろうか、と外に出ることを考えてみるが、如何せん時間が経ちすぎている。

(今廊下に出たら伯爵と遭遇するよね・・・)

 出仕する伯爵にばったり会ってしまっても、何と反応すればいいのかわからない。

(頬を染めて?・・・気持ち悪いー自分じゃないー・・・全速力で逃げそう・・・)

 乙女らしく頬を染める自分を想像して、どさりとソファに体を落とした。


「お嬢様、いらっしゃいますか?」


「っ!?」


 変なことを考えていたせいかと、勢いよく扉に目を向ける。

 深い色合いをした木製の扉の向こうから聞こえたのはまぎれもない、オリガさんの声。

 まぁ、オリガさんなら・・・という葛藤の末、観念して「はい・・・」と力なく彼女に応える。

 転げまわっていたソファから立ち上がり、しずしず(というよりもしょんぼりと力なく)と扉を開けるために私は歩いて行った。


「今よろしいですか?」

「はい・・・今開けます」


 ああ、数刻前の自分を忘れていてくれないかな?無理だよね。知ってる。

 往生際悪く、心の中で自分の羞恥心を呑み込んでみる。

 そうしていた私には、「あ、私から開けますので・・」というオリガさんの言葉は届いていなかった。

 運悪く、オリガさんよりも先に扉を開けてしまった。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・お、はよう」


 視界の端で、オリガさんが頭を抱えているのが見えた。

 気遣いを無駄にしてごめんなさい。




 もうこれでもかっていうくらい見目麗しい伯爵が、そこにいた。


 朝というか、昼なんですけど・・・。

 伯爵にとっては『朝』ということで。。


 読んでくださり、ありがとうございます。

 今回は少し長めに、投稿させてもらいました^^

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