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朝の伯爵、起こす婚約者3

 

 さらさらの金髪。澄み切った青の双眼。すらっとした体格は、意外にもしっかりと鍛えられていて無駄のない体つきをしている。

 表情の読めない顔で、伯爵、アークレットは婚約者であるイリスを扉越しに見下ろしていた。



 そうか。頭の端で響いた「私から開けます」的なあの声は、オリガさんからの忠告だったのか。

 本当にしまった。

 どんな顔をするか決めていないのに、伯爵は来てしまった。

 寝起きとは思えない肌理細やかな肌に、アクアマリンを思い起こさせる青の双眸は悔しいくらいに羨ましい。


「おは、ようございます、伯爵・・・」


 気持ち的には何と言えばいいのかわからなかったが、挨拶されたのだから返さなくてはいけなくて、色々言いたいことを呑み込んだように語尾は小さくなる。

 目を合わせられない。

 やや外れたところ、伯爵の肩辺りをみることになってしまう。

「・・・ああ。・・・君はよく眠れたか?」

「え、あ、はぁ・・・そうですね。眠りました」

 いつも思うのだが、伯爵はよくわからない人だ。

 見た目だけならそこら辺の誰よりも王子様な雰囲気なのだが、こうして相対してみるとそうでもないらしい。

 口数は少ないし、何を考えているのかわからないし、マイペースだし。

 かなり特殊な人種である。

 今だって、自分が起きたばかりだからか、「眠れたか」なんて言うし。

 それに・・・また「君」って呼ぶし。

 え、あの、自分が愛称で呼んでしまったとかなんだとかって、ただ単なる私の妄想であって、現実じゃなかったとか?

 ・・・悩み損ってことか。

 うわー、一人で悶えて一人で悩んで、実は夢落ち~とかってただの恥晒しじゃないか。

 じゃ、伯爵からしたら「目が覚めたら、走って何処かに行ってしまった婚約者と遭遇した」状態じゃないか。


 どんな状況だ、そりゃ。


 えっと、待って。

 また脱線している気がする。そもそも自分の思い込みだけで進んでいっていいことがあったためしがない。

 まずは周りを・・・と思っていると伯爵の肩越しに控えている慣れ親しんだオリガさんと目が合った。

 オリガさんは目じりの皺を深め、苦笑しながら「伯爵のお話を聞いてくださるとよろしいかと」と言った。


「えっ」


 ぎょっとして伯爵の顔をもろに見てしまう。

 先ほどの羞恥を思い出し、自身の顔に赤みが差すのがわかる。

 それに苦笑を漏らしたのは伯爵自身。

 何と言うか、「困ったな」という笑顔さえ煌めく美形な伯爵は、無駄に色気を振りまいている気がする。これって、その辺の令嬢が見たらキャーっていう黄色い声が上がる場面なのでは。

 しかし残念ながら、私はそんな可愛い性格をしていない。

 どっちかというと、男勝りな幼少期だった。近所の餓鬼大将には、「お前は女じゃない」とか言われたこともあるし。

 なので、うっすら目を細める。これが伯爵の美形に対する私の対応になっている。

 いや、眩しいんですよ。

 美形に見つめられるのって、眩しい。私はこの伯爵によってそれを知らされたのです。


 話が逸れますね。

 戻します。


 伯爵の顔をもろに見てしまった私は、目が泳がないように必死の体で伯爵を凝視した。

「ああ・・・はい・・・」

 伯爵、伯爵。婚約者に見つめられただけで、そんなどもん無くても。てか、頬が赤く染まってますけど、照れてます?

 意外に純情な人なんですよ、伯爵は。

 訳知り顔で頷いてみたりする私。

 そんな私に構わず、伯爵はわずかに赤く染まった頬もそのままに口を開いた。

「・・・今から出るが、君は何か欲しいものがないのか?」

 思わずきょとんと、私は伯爵を見る。

 え、それ前後繋がってないのでは?

「伯爵。お聞きしますが・・・出仕、なさるんですよね?」

「ああ」

「行先は王宮、ですよね?」

「ああ」

「・・・仕事に行くんですよね?」

「ああ」

 語尾が上がったのは許してもらいたい。

 仕事で行くのに、何故私に欲しいものがないか聞くのだろうか。

 え、急な出張とかじゃなくて?普通に王宮に行くって言ったよね、伯爵ってば。

 わからない人だ。

 わからなかったので、私は素直に聞いてみることにした。

「何故出仕をなさるのに、私の欲しいものを聞かれるのでしょうか?」

 私がじっと伯爵を見上げると、伯爵は口元に手を当てて視線を私からそらした。

「いや・・・」

 答えが言えないのか、そもそもないのか、伯爵は廊下の奥へと視線を向けた。つまり、私から完全に視線を外したことになる。

 ええー。伯爵らしいっていえばらしいけど、なんなんだろうか。

 何故か、じりじりと伯爵との距離ができているような気がするし。

 扉から離れて、どうしたんです?伯爵。

 そして。


「・・・時間がない。そろそろ失礼する」


 颯爽と踵を返して、廊下の向こうへと姿を消していった。

 ええー。何それ。ええー。


 てか、オリガさん・・・仕方のない子、的な目で見ないであげてください。

 一応彼は伯爵の位をいただいている成人男性ですから。

 いや、私も思いましたけどね。思いますけど!



 愛称で呼んだとか、忘れ去りました。

 寝起きの伯爵の方がインパクト強い、そんな日常のひとコマ。




 で、結局なんだったんでしょうね?

 気になると眠れなくなるタイプなんです、私。

 しばらく睡眠不足になりました。

名前で呼ばれて嬉しかった見たいです。

イリスにも喜んでもらおうと、プレゼントを考えようと思った伯爵。

結局、上目づかいになった婚約者に照れて逃げました。



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ありがとうございます^^!

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