第四十話 青いカメラレンズ
レイナに手を引かれるがまま、私はポップで可愛いゲームセンターに入った。
ホシが着いて来てるのかは、わからない。
もし振り向いた先にホシがいなかったらと思うと怖くて、後ろを振り向けなかった。
「プリクラ機一台しかないけど、盛れる機能はちゃんとあるから!」
「わ……! 本当にプリクラだ……!」
「どんなポーズにするー?」
原宿でよく友達と撮ってたプリクラ。
懐かしくて、さっきの胸の痛みなんて忘れてしまった。
レイナとプリクラ機の中に入る前に、私は昔の感覚を思い出して、衝動的にレイナの両肩を掴んだ。
「待って! まず鏡とかコテある!? 私めちゃくちゃすっぴんなんだけど!」
普段ならどうせ風や土で汚れるからと気にしないでいたけど、プリクラを撮るなら話は変わってくる。大事じゃん。めちゃくちゃ大事なことじゃん。
だってプリクラ撮るのにすっぴんとかありえない。せめて髪くらいはどうにかしたい。
そんな私に呆気をとられたのか、レイナは目を瞬かせた後、吹き出すように笑った。
「あるよ〜! ごめん、ミサキ肌キレイだから気にしてなかった」
「ヘアスプレーとかもある!?」
「あるある〜なんならメイク一式もあるし、メイク室もあるから!」
「カラコンとつけまもある!?」
「あるよ! 必須じゃん!」
一気に昔の感覚が戻ったように、私はレイナとメイク室へ駆け込んだ。
レイナの言ったとおり、メイク一式とヘアケア用品が用意されており、鏡の周りはライトで明るく照らされていた。
椅子もテーブルも可愛い淡い色した、猫脚のファンシーなデザインで、女子力が高まるときめきを感じる。
「え──最高じゃん」
ポロッと口からこぼれた言葉に、レイナは得意げに胸を張った。
「でしょ!? あたしが副隊長になってから作ったんだよ! やっぱ大事だよね! こういうの!」
「うんうん! 大事! すっごく大事! レイナ天才!」
「でしょ〜!?」
久しぶりに使うビューラーやコテは手に馴染んで、友達と遊んでいた日々を思い出させてくれた。
そうだった。こうやって放課後、みんなでメイクしたりおしゃれしてたな。
新しいメイクとか動画やネットで見て話したり、お互いにヘアメイクし合ったりして。
懐かしい思い出。つい昨日のことのように鮮明に思い出せるのに、もう同じことはできない遠い過去の出来事みたいに思ってた。
けど、今は違う。
「ねぇレイナ、ヘアメイクしてあげようか?」
「え? いいの?」
「いいよ──編み込みしてあげる」
私はレイナのサラサラしたストレートな髪をまとめながら、自然と口角が上がるのがわかった。
私、いま自分が人類滅亡した後の世界にいる方が夢なんじゃないかって思っちゃう。
それくらい、レイナが作ったこの場所は、私の記憶の大事な場所に似ていたから。
「──はい、できた」
「わぁ〜! ありがとうミサキ!」
サイドに流れるように編み込みをしたレイナの髪は、ちゃんと毎日ヘアケアしてると触ってて実感した。
多分、レイナはちゃんと昔の感覚のまま、今を生きてるんじゃないかな。
「ミサキ! プリクラ撮ろ!」
「──うん!」
それが、少しだけ羨ましくて、少しだけ心配。
なんでレイナは副隊長になんてなったんだろう。
「四回連続で撮るから、最初のポーズはコレで撮ろ!」
「いいよ。その次は変顔とかしちゃう?」
「とか言ってミサキだけ可愛い顔しないでよ?」
「それはレイナもだよ!? 私一人だけに変顔させないでね?」
「わかった! 抜けがけナシね!」
この時だけは、私はただの女子高生に戻れた。
人類滅亡とかアルマとか、難しいことは考えなくていい。なんて最高なんだろう。
でも、それは即座に現実に引き戻された。
「ここがカメラね!」
「わかっ──た……」
レイナが指差した先には、見覚えのあるレンズが付けられていた。
つい、言葉がしぼんだ。
「ほら早く! ポーズして!」
シャッターカウントが始まり、せっつかれて慌ててポーズをとった。
上手く笑えた自信がない。引き攣ったかもしれない。
連続で深く考える余裕を与えられずに撮影した後、レイナに落書きコーナーへ背中を押されても、心臓の鼓動の音は大きくなるばかりだった。
「やっぱミサキって肌キレイ〜! フィルターいらずとかスゴすぎる!」
印刷されたプリクラを満足気に受け取ったレイナは、いそいそと斜めがけにしていたストラップを引き寄せて、大きめのタブレット端末の背面に今撮ったプリクラを貼り付けた。
「その端末は──?」
「あたしの端末! 副隊長としてデータを見たり、メストにお願いしたいことを送るのに使うの!」
自慢気に見せてくれたタブレット端末の背面にはたくさんのプリクラやシールが貼られていて、とても副隊長の端末には見えなかった。
「……ねぇ、レイナ」
「なに?」
私は、恐る恐るプリクラ機の中を指差した。
「あのカメラレンズって……もしかして……」
冷や汗とは違う、じわりと頬を汗が伝った。
そんな私の言いたいことを察したのか、レイナはさらりと答えた。
「あ、そうだよ。あのカメラレンズは、アルマの眼だったやつを再利用してるの」
「再利用……!?」
「そう。今はいらないから、使えるところは部分的に使ってるの」
「いらないって……誰か壊れたの?」
「ううん。副隊長だったアルマ。今はあたしが副隊長だからいらないし、メストに有効活用してって言ったの」
端末の背面にもう一枚プリクラを貼るのに夢中なレイナは、視線を手元に落としたまま。
なんでもないことのように軽く言った。




