第三十七話 困惑する思い
レイナがメストに一方的に怒っているのを、私とホシは口を挟めずに黙って見守っていた。
いや、いきなり向こうが始めたけど、終わりが見えなくて困る。これ待たされる方はツラいんだけど。
「メスト、人間を副隊長にするなんて──何を考えているんだ」
そこにワズさんが呆れたような、でも探りを入れるような警戒混じりの声色で割って入ってくれた。
メストはレイナから視線を外し、ゆっくり立ち上がった。
襟に隠れた口元を動かす気配を見せて、静かに答えた。
「人間の文化を尊重するのであれば、人間が統治するのが効率的でしょう」
その一言に、ワズさんは黙った。ホシも隣で息を止めたのがわかった。
「──本気か」
「ええ──効果的です」
「……そうか」
何が引っかかったのか、私にはよくわからない。ただ、その場の空気が少しだけ凍りついた気がした。
「ねぇ、ミサキ!」
固まった空気の中なんて関係ないレイナは、私の手を両手でぎゅっと握った。
「弐番隊でショウコに会ってない? 肆番隊から弐番隊に移籍したんだけど、弐番隊解体の後にウチじゃなくて伍番隊に行ったみたいなの」
名前は聞いていなくても、すぐにあの子のことだとわかった。
弐番隊で泣いていたあの女の子。彼氏と喧嘩した話を確認したら、レイナは勢いよく首を縦に振った。
「そう! ショウコったらあたしに何も言わないで弐番隊に行っちゃうんだもん! ミサキは何か聞いてない?」
「……弐番隊には見学で来たのに、誰も肆番隊から助けが来ないって、泣いてたよ?」
「? ショウコが弐番隊に移籍したって聞いてるよ? ねぇ、メスト?」
情報のすれ違いがあるのではないかと、私はメストを見た。
無表情に見える冷めた目元とは裏腹にメストは穏やかな声で答えた。
「ええ。ショウコは確かに自分の意思で弐番隊に移籍する意思を示したと──ギークから報告が来ていました」
「お前──それを額面通りに受け取ったのか……?」
「? 人間は本人の意思で移籍する権利があります」
信じられないような目でワズさんはメストを睨んだ。
「あのギーク相手だぞ!? 隊長として立ち会って確認すべきだろう!」
「ショウコが肆番隊で不安定な立場にいたのは事実です」
「はぁ──そりゃあ伍番隊に行くしかないだろうな」
「? 問題でもあるでしょうか?」
「うーん? でもショウコが決めたことだもんね」
メストとレイナは首を傾げた。
私は背筋がゾッとして、思わずホシの服の袖を掴んだ。
「ねぇミサキ、ショウコは弐番隊も合わなかったのかな?」
無邪気に悪意の無い声色で聞かれても、私はすぐに言葉が出てこなかった。
なんて言えばレイナに伝えることができるのかなんて、咄嗟に思いつくほどの言葉を、私は持っていない。




