第三十六話 肆番隊副隊長レイナ
弐番隊での騒動の直後に、肆番隊の移動都市が壱番隊に近づいているって聞かされて、正直眠れるか心配だった。
でも体は正直で、夜になってベッドに横になったら、どっと疲れが押し寄せてきた。
いつ寝たのかもわからない。気がついたら朝だった。
「……先生のとこ行って、ご飯食べて……」
寝ぼけ眼で洗面台で身支度を整えながら、今から行かなきゃいけない場所を確認する。
弐番隊から帰ってこれなきゃ、こんないつもの朝は迎えられなかった。
そう思うと、少しだけ頭が冷静に覚めていった。
「……ちゃんとしよ」
ブラシで髪をとかして、いつも使ってる日焼け止めを塗った。
壱番隊で支給された日用品は、どれも私の時代にあった物を再現してくれる。
だから、いつも私は忘れかけてしまう。人類は滅亡したんだって。
「ミサキ、おはよう」
「おはよう、ホシ」
廊下に出たら、ちょうどホシが歩いてきた。
昨夜のうちにホシも修理室に行ってきたらしい。腕はいつも通り自然な動きに戻っていた。
「ミサキは医務室に行ってから食堂、だよね?」
「うん。ちゃんと寝れたし、なんともないと思うけどね」
「駄目だよ。ちゃんと診てもらいな」
ホシに叱られながら医務室に行ったけど、結局何も心配いらず。
悪夢とか目覚めの悪さもない。健康だってさ。
それでも先生とホシは、安心したように笑ってくれた。
「何も無いのが一番だからね!」
ホシはそう言って、私の背中を押して食堂へ急がせた。
普段は私のペースに付き合ってくれるのに、珍しい。何かあるのかと聞いてみたら、ホシは苦笑しながら困ったように眉を下げた。
「実は肆番隊の移動都市のスピードが予想以上に速くて……今日の昼頃にはこっちに着きそうなんだよ」
「速くない!? 昨日の今日だよね!!?」
「うん……隊長も驚いてたよ」
「あのワズさんが!?」
想像できない。あのワズさんが驚くことってあるんだ。
「だからミサキ、早めに朝ごはん食べて」
「え、あ──うん! わかった!」
「でもちゃんと噛んでから飲み込んでね!」
「いやそこまで心配しないでくれる!?」
ホシはたまに私に対して過保護になる。
子供扱いとか通り越してるよ。まったく。
しかもホシの言う通り、肆番隊の移動都市は予想外に速く、私が朝ごはんを食べ終えた直後には窓から肆番隊の移動都市が見えるほどだった。
「いや速くない!?」
私の横で、ホシはこめかみに手を当てながら困ったように笑っていた。
壱番隊のみんなもどこか慌てている雰囲気の中、肆番隊の移動都市から大きなスロープがかけられた。
それは伍番隊で見たものと同じで、手すりがついた簡素なものだった。
「ミサキ、行こう」
「──うん」
ホシに促されて、私は窓から手を離した。
今日は風が比較的穏やかだった。
甲板に出て、スロープの前に来た時、明るくて高い声が聞こえてきた。
「あなたがミサキね!」
私が顔を上げたとき、スロープの向こうから走ってくる女の子が見えた。
いや、足が速い。しかも足音が軽い。
「あたし、レイナ! 肆番隊の副隊長よ!」
私の目の前で、両手を腰に当てて自信満々に笑うレイナは、どこからどう見ても私よりも年下の女の子だった。
「えっと──ミサキ、です……私、18歳だけど、あなたは……?」
「あたし? あたしは14歳!」
「そ、そう……」
レイナの勢いに押されて戸惑っているのは私だけではないらしく、横でホシも目を丸くしていた。
「レイナ──スロープを走り抜けるのは危険だと説明したはずです」
ヒスリエとは違う、落ち着いているけど低い声がした。
レイナの後ろに着くように、白くて口元が隠れる大きな襟付きの腰まで長いコートを着た男性が、ゆっくりと歩いてきた。
ホシよりも少し大きいし、何より口元が隠れているから表情が読めなくて少し警戒した。
でもそんな私をよそに、レイナは甲高い声を上げた。
「メストがモタモタしてるからじゃん! あたしずっとミサキに会いたくて楽しみにしてたのに!」
「それと安全性は別の話です」
「メストはいつもそうやって屁理屈で誤魔化そうとする! メストが遅いの!」
「いいえ。別の話です」
「ボソボソ喋んないでハッキリ喋って! 聞こえにくい!」
「……ではしゃがみましょう」
「子供扱いしないで!!!」
もしかしなくても肆番隊の隊長メストだとわかり、横目でホシをチラリと確認したら、小さく頷いた。
「……仲良いのかな?」
「……わかんない」
目の前でギャンギャンと騒がしい小柄なレイナと、しゃがんでもレイナより大きく見えるメストの二人は、なんだか異様な光景に思えた。




