第三十二話 オーバーヒート
伍番隊の移動都市が離れていくと同時に、壱番隊の移動都市もゆっくりと動きだした。
ただ弐番隊の移動都市だけがその場で動かず、まるで蝉がひっくり返っているかのように見えた。
「本当に弐番隊は動かないんだね」
甲板から中へ入る時に、ホシに確認した。
弐番隊の移動都市を置いて動く伍番隊と壱番隊は、別々の方向へ進んでいく。
それが、なんだか現実味がなかったから。
「うん。弐番隊のアルマは稼働停止しているし、誰も移動都市を動かせないからね。数日で地表の有毒ガスが入り込むと思うよ」
さらりと言ったけど、それが移動都市が動き続けている理由のひとつらしい。
「移動都市が動く風でガスが滞留しないようにしてるからね」
「……この高さでもガスって上がってくるの?」
「ギリギリね」
「マジで……?」
食堂へ向かう道中、ホシは私と並んで歩いてくれた。
見慣れた道は安心する。
でも、なぜか通路で壱番隊のみんなとすれ違うことはなかった。
「ホシ、みんなは……?」
考えたら弐番隊に襲撃したんだと思い出した。
怪我とか、被害とか、壱番隊にもあったのかもしれない。
そんな私の心配を他所に、ホシは気まずそうに頬をかいた。
「あ〜……いや、無事なんだけど……襲撃に出た隊員のほとんどは修理室行きなんだよね」
「え──!? それって、怪我とかしたってこと!?」
「いや怪我というか……」
歯切れの悪いホシの腕を両手で引っ張って、私はハッキリ言うように足を止めさせた。
それで観念したのか、ホシはこめかみに手を当てた後、苦笑いした。
「実はみんな──ミサキを助けるのに張り切りすぎて、神経回路をオーバーヒートさせちゃったんだよ」
「神経回路……? オーバーヒートって?」
悪い予感しかしない。
指先が冷えて、ホシの腕を掴む指が震えそう。
でもホシはそこまで深刻な顔をせず、むしろ言葉を選ぶのに眉間に皺をよせた。
「えーと、つまりわかりやすく言うと──人間でいうところの筋肉痛ってやつ」
バツが悪そうに笑うホシの言葉に、私はその場にへたり込んでしまった。
「ミサキ──!?」
「……良かったぁ〜」
「へ?」
「てっきり怪我して動けないのかと思っちゃったじゃん……筋肉痛……なるんだね、アルマも」
「うーん……恥ずかしい話だけどね」
安心して手の力が抜けた。
両手を膝にだらりと乗せて、私は思わず笑った。
だって誰も怪我なく、はりきりすぎて筋肉痛になったとか、本当に良かった。
私のせいで誰かが怪我したとかだったら、きっと耐えられなかったから。
「アルマとして出力ミスは恥ずかしいことだから、あまり茶化さないでよ?」
「わかったよ〜」
ホシに念を押されたけど、この後食堂でいつも通りにドリンクをオーダーしたら、ぎこちないロボットダンスのような動きを見せられた。
そのあまりの酷さに、私は盛大に吹き出した。




