第三十一話 天雷の飛翔
ヒスリエが伍番隊へ戻ると聞いて、私はホシと一緒に甲板へ見送りに出た。
伍番隊の移動都市は建物が大きくて、何棟もある病院みたい。でも都市よりも下の機械部分は同じ高さだから、地面の高さは同じ。
だから高低差は建物部分にしかないはず。それなのに、向こうの方が壱番隊よりも大きく見えるのは、単純に建物の数が上だからかもしれない。
「あら──何か聞きそびれたことでもありましたか?」
伍番隊の移動都市に負けないくらい背の高いヒスリエに、私は首を横に振った。
「見送りです」
「……わたくしを?」
「? そうですけど……」
「──ふふっ……失礼しました。こういった事は不慣れなものですから」
単純な見送りなのに、ヒスリエは彫刻のような顔から、美しい三日月のように口角を上げた。
「不慣れ?」
「ええ。わたくしはこの体躯に加えて、デザインが象徴的なので、貴女のように接する人間は少ないのです」
「? つまり、私なんか失礼なことしちゃった?」
「大丈夫だよ、ミサキ。伍番隊隊長は想定外の事だけど不快には感じていないから」
「そうなの?」
「ええ──問題ありません」
ホシにフォローされても、いまいちピンとこない。
やっぱりなんかやらかしてない?
「──今回の件は伍番隊として、壱番隊にペナルティはありません。弐番隊の処理も完了済み。ミサキ──貴女の意思も尊重しましょう」
最後の別れの挨拶のように、ヒスリエは微笑んだ。
「ですが、貴女が必要とするのであれば──伍番隊はいつでも貴女を受け入れることを忘れないでください。貴女の選択肢はいつも貴女にあることも」
「選択肢……」
「弐番隊に保護されていた人間たちも、伍番隊で療養させるので心配はありません。貴女同様に肆番隊から拉致された少女も、こちらで一時的に療養させてから今後の移籍は選択させます」
「……よろしくお願いします」
あの弐番隊で泣いていた女の子の悲痛な声を思い出して、私はヒスリエに頭を下げた。
あの子も、自分の選択肢を持っている。
どの隊に行きたいのか。どこで生きるのか。
私も、その選択肢を持っている。
その上で、私は壱番隊を選んだ。
「では──また必要な時があれば会いましょう」
ヒスリエは白いローブの裾を少しだけ摘み上げ、舞い上がるように跳んだ。
甲板に跳んだ振動はなく、音もなかった。
伍番隊の移動都市へ向かって跳んだヒスリエのローブがはためく姿は、まるで天使が飛んだみたいだった。
「……さよなら」
きっとまた会う気がして、私は独り言のように小さく別れを自分のためにこぼした。




