第三十話 残響
壱番隊の移動都市を伍番隊へ寄せつつ、俺は甲板から伍番隊の巨大な療養施設を眺めていた。
ヒスリエの判断は間違ってはいない。
ギークがした事を考慮すれば、これが最善だと言えるだろう。
各隊の共有データベースに提出されていた二百人にも及ぶ人間保護施設の実態が、たった十数人しかいなかったのだから。
五百年前に俺たち壱番隊からサユリを攫った時と、おそらく動機は同じだったのだろう。
人間が減ったから、補充した。ギークはそういう奴だ。
「……俺たちの中で壊れる奴が出るなんてな」
腕を組みながら、俺はふと壱番隊の要塞を見直した。
壊れるアルマが出るとしたら、それは役職の無いアルマだと予測していた。
それは俺たちが製造初期に初めて顔合わせした頃にも話題に上がっていたことだ。
『絶対に各隊員の誰かだよ──だってボクたち隊長の指示に従って動くんだよ? 消耗具合が違うよ』
無邪気に笑うギークの冷静な予測は、皮肉なことに本人が壊れたことで外れた。
俺もヒスリエも他の隊長連中も、誰も自分たち隊長クラスが壊れるなど、誰も予測していなかった。
「予測なんて、人間を相手していたら無駄なことなのかもな」
弐番隊は保護した人間に人類滅亡の事実を教えていなかったと報告が上がっている。
これからの伍番隊の労力を予測すると、それこそ伍番隊でなければ成り立たないだろう。
「必要な話は終わりました」
背後からヒスリエがヒールをカツンと鳴らして、いつもの伏し目で俺を見下ろした。
「ああ……各隊の共有データベースを確認した──ミサキは壱番隊を選んだんだな」
「ええ。貴方がたと共に生きたいと選択しました──あの子自身の意思で」
「……それなら俺たちが全力で守るだけだ」
「壱番隊の強みですものね」
「嫌味か?」
「いいえ? 事実を述べたまでです」
調子が狂う。
俺はわざとらしくため息を吐いてやった。
「これから伍番隊は忙しいな──ギークの本体も伍番隊で管理するんだろう」
「……ロゴロが伍番隊にいるとはいえ、隊長クラスのアルマをそのまま弐番隊の施設の中に放置するわけにもいきませんから……伍番隊の地下施設に保管します」
「再起動する気も無いのにか?」
意地悪くヒスリエに言っても、返ってきたのはいつもの凛とした声だった。
「必要な時がくれば、再起動も視野に入れています──彼は隊長クラスのアルマでしたから」
過去形。それだけでヒスリエの中では事が処理されているというわけか。
俺は肩を竦めて、力なく笑った。
「ギークがいなくなったなら、壱番隊の人間保護も安心して再開できるな」
「ええ──それは同意です。五百年前の締結はギークが貴方の所へ人間を拉致しに来ない為の処置でしたから──今となっては不用です」
「……ミサキ以外にも保護して良いってことだよな」
「構いません」
ヒスリエはきっぱりと答えた後、珍しく俺に頭を下げた。
「諍いを鎮めるためとはいえ、壱番隊にもペナルティを与えたことは、今回の件で過剰であったと判明しました──ワズ、申し訳ありませんでした」
「……いや、あの締結があったからギークは五百年の間は俺の所には来なかった。壱番隊の護りの強化見直しとして妥当なペナルティだった……気にするな」
各隊との秩序を守る伍番隊隊長が頭を下げたなんて、どこのデータベースにも共有できないな。
俺は苦笑いするしかできなかった。
少なくとも、五百年前にわかっていた情報だけで判断するならば。
誰も間違ってはいなかったのだから。




