第二十四話 壊れたアルマ
弐番隊隊長ギークの人格が再起動するまで、長い時間がかかりました。
それでも、弐番隊副隊長ロゴロがわたくしに提出したデータを読むには、時間が足りなかった。
先に弐番隊副隊長ロゴロには、伍番隊の移動都市へ向かってもらって正解でした。
「──久しぶりだね、ヒスリエ」
「ええ。五百年ぶりでしょうね、ギーク」
ギークは自身が拘束されていることを気にも止めず、口を尖らせ、眉間に皺を寄せました。
「んー……ロゴロが妨害したのは想定外だったな」
「貴方が指示、実行したデータ改竄の確認をしていますが──五百年分の量は今この場で全て確認できません。ギーク、貴方は何をしていたのか理解していますか?」
わたくしに臆することなく、ギークは笑って見せた。
「人間の保護だけど?」
なんの反省の色も、反省すべき事があることも理解していない。
やはり彼は、五百年前から何も変わっていなかった。
「各隊への共有データベースに改竄データを提出した事に関して弁明することはありますか?」
「だって正式な数字を出したら、ヒスリエ──君はボクから人間を取り上げるだろ? そしたらボクの存在意義がなくなるじゃないか!」
まるで子供のように純粋な目で怒るギークから、わたくしは視線をそらしませんでした。
「たしかに人間を保護する事がアルマの存在意義ではあります──ですが、貴方がした実験による損害を考慮すれば、そうなる事は必然……それがわからないほど貴方の思考回路は壊れていないはずです」
弐番隊にて行われた人間を理解するという名目の思考実験に観測結果の内容は、決して看過できない。
しかし、それでもギークは目を丸くして、首を傾げるだけでした。
「うん──? だから改竄データを提出してたんだけど?」
ああ、まるで手応えのない。
一方通行の電流を流しているようで、わたくしは柄にもなくため息をついてしまいました。
「……ギーク、貴方たち弐番隊は解体します。人間は伍番隊で保護し、貴方は人格回路のシャットダウン処置を施します」
「つまり、ボクのデータは君に引き継がれるわけ?」
「ええ。そうなります」
抗議する様子もなく、ギークは心から安心したように笑ってみせました。
「ちゃんと君に引き継がれるなら、ボクが犠牲者を出したのが無駄にならないね」
元の性能は同じはずなのに、どこでわたくしと彼はここまで思考回路がズレてしまったのでしょうか。
理解できない。いいえ。理解はできてしまう。
だからこそ、わたくしは選ばない選択肢を、彼は取った。
ただ、それだけのことだった。ただ五百年前のわたくしは、それを理解していなかった。
「……サユリがなぜああも凄惨な状態だったのか……わたくしは知るのが遅過ぎたのですね」
「? サユリ……? どの人間のこと?」
わたくしは、首を傾げるギークの頭を包むように、こみかみにそっと両手を添えて、静かに彼の人格回路をシャットダウンしました。
「……お疲れ様でした。弐番隊隊長、ギーク」
二度と再起動されることのない人格は、確かにわたくしたちのデータベース上に残り続けることでしょう。
最初の壊れたアルマとして。




