第十一話 弐番隊
壱番隊の移動都市が鉄の要塞というなら、弐番隊の移動都市は、無機質な研究所みたい。
社会科見学で製薬会社に行った時を思い出して、鼻の奥で消毒の香りがツンとした。
「迷子になってもロゴロが巡回してるから安心していいよ」
そう言ってギークは病院の待合室のような場所で私を下ろした。
壱番隊とは違う。タイルの音が冷たく響いた。
「……ロゴロって、なに?」
青白い蛍光灯の下では、ホシと変わらない身長に見えるギークの顔が、血の通っていない存在だと物語っている。
何気ない質問をすることすら、少し怖い。
「ああ、弐番隊の副隊長のアルマのことだよ。ボク以外はみんな防護服を着てるから、アルマはすぐにわかると思うよ」
人型兵器のアルマが防護服を着ている。
それだけで、胸がざわついた。
「時間が無いからすぐに案内していくよ? こっち来て。人間保護施設を上から見せてあげる」
そう言って笑いながら片手で手招きするギークの動きが、なぜか気持ち悪く感じた。
弐番隊に来てから、なぜか背筋がゾワッとする。
「こっちこっち。ほら、ガラス越しになるけど、あれが人間の女性の庭だよ」
「女性の庭?」
細長い通路には大きなガラスがあり、下の階の様子が見れる造りになっていた。
「そう。弐番隊は人間を男女で分けて保護してるからさ。こっちは女性しかいない庭」
まるで飼育員の様に淡々と説明するギークが指差した先を見て、私は鳥肌が立った。
白い壁はクッションでできており、床も場所によって緑があったりするけど、見える限り床も柔らかそう。
そして、窓が無い。
吹き抜け構造の電灯が唯一の明かりに見えるのは、立っている女性たちの影が真下にしかないからとしか思えない。
なによりも、誰も笑っていない。
ギークは庭だと言っているけど、誰も走ったり談笑したりしていない。ただ、突っ立っているだけ。
「今は日光浴の時間だからあまり動かないけど、もう少ししたら満足して動くと思うよ」
「……帰る」
ギークは少しだけ瞬きをした。
「もう?」
「私は壱番隊がいい……!」
他の人間がいたって、ギークにこんな風に飼われるなんて絶対に嫌。
私は元来た道を引き返そうとした。こんな所にいたくない。
「君と同じ若い人間と話さなくていいの?」
ギークの言葉に、足が凍ったように動かせなくなった。
それは、私を揺るがすには、十分過ぎる。
「まだ十分も経ってないし、ゆっくり人間同士で話したいこととかない?」
「……っ!」
「話したいなら会わせてあげるよ」
私は目を瞑って、深く深呼吸をした。
少しだけ。話すだけ。私が帰るのは壱番隊。
ぎこちなく振り向いて、俯きながら大股でギークの側へ戻った。
「……早く案内して」
「うん、いいよ。こっちについておいで」
白衣を翻したギークの足首には、青いランプが点灯していた。
アルマに管理、いや、飼育されるのは嫌。
それでも、私は他の人間と話したい。年が近いのなら、もしかしたら同じ時代の人かもしれないし。
「このドアの向こうが、君と同じ若さの人間を保護してる施設だよ」
下の階に降りて薄暗い廊下をしばらく歩いた先。いくつものロックを外しながら、ギークが笑顔で重たそうな分厚い扉を開けた。
やっぱり白いクッションの壁が見えた。
誰もいない部屋の前で中を見渡していたら、ギークに中に入るように促された。
「みんな奥にいると思うから、ゆっくり話してきなよ」
そう言われて恐る恐る中へ一歩踏み出した瞬間、入り口からは見えなかった個室から、私と同い年くらいの女の子と目が合った。
「──ぁ」
なんと声をかけるか私が考えているよりも先に、女の子は悲痛な声を上げた。
「ダメ!!!」
「えっ──」
まるで押すように伸ばしてきた女の子の手が、私に触れる前に、私の背後で電子音が響いた。
「……え?」
最初の電子音を皮切りに、いくつもの鍵が閉まる音が連なった。
そして、私の後ろには閉じられた扉が壁のように鎮座していた。
「ゆっくり話していいからね〜」
扉越しのスピーカーから聞こえたギークの声は、ザラついていても笑っているのがわかった。




