第十話 齟齬
あれからずっと、私の中で迷いはぐるぐるしたまま。決まらない。決められない。
ただ、一日経った今でも、同じところで私は足を止めてしまう。
他の人間に会って、私はどうしたいのか。
もちろんアルマ以外の、同じ人間の口からこの惨状について聞きたい。説明じゃなくて、同じ人間から見た目で感じたことを。これからのことも。
でも、その引き換えに壱番隊での生活を手放すことになるのは、嫌だ。
「……どっちも、とか……ワガママだよね」
ついこぼした言葉。自分で言って鼻で笑った。
無意識にあの時の甲板のドアの前に立っていることにも。自分で自分が嫌になる。
「やあ──昨日の返事はもらえそう?」
もはや壱番隊の甲板に、ギークがいることにも驚かない。
このアルマは、そういうヤツ。
ギークのペースに巻き込まれないように、私は首を横に振った。
「まだ……というか、私、壱番隊の生活が気に入ってるし」
風の強い甲板で、私は髪を押さえた。
ギークの方は白衣が風で無造作にたなびいても、気にすることなく口角を吊り上げたまま首を傾げた。
「じゃあ見学に来る? 急な環境変化は不安を感じやすいもんね」
「……見学?」
「そう。たったの一時間なら、怖くないでしょ?」
「……一時間」
思わず揺れた。
一時間で他の人間と会えたとして、どう声をかけるか、なんて話を切り出すか。そんなことを頭の中でシミュレーションしてしまった。
でも、私はワズさんの言葉を思い出した。
「見学でも、一人は……」
弐番隊に行くならワズさんとホシの三人で。
その約束を思い出して、私は俯きながら甲板のドアのぶに手をかけた。
「一人じゃないよ」
「え……っ!?」
思わず顔を上げたら、カメラレンズのようなギークの瞳に、不安な顔の私が映った。
音も無く距離を詰められたことにも、直後に物の様に抱え上げられたことにも、声が出せなかった。
気がついたらギークの肩に、荷物のように担がれていたから。
「ボクが一緒に案内してあげるから、一人じゃないよ」
「はぁ──!? ち、違っ……そうじゃなくて!」
「あはは、大丈夫。ワズには連絡しとくからさ」
ギークの勘違いを正す前に、私の体は浮遊感に包まれた。
「君も見学したら弐番隊に来たくなるよ」
見当違いなギークの声色は、まったく悪びれることなく、無邪気なものだった。




