第34話 初詣、恋みくじ
どこかで、誰かの恋がはじまる
元旦の神社、長い参拝列の後、日向ひなたは境内のおみくじ売り場に並んでいた。隣には、幼馴染の壮太そうたがいる。
「今年最初のおみくじ、何が出るかな」
「日向、毎年同じこと言ってるよな」
「毎年気になるんだから仕方ないでしょ」
二人はそれぞれ百円を納め、木箱を振ってみくじを引いた。
*
【日向が引いたおみくじ】
第十七番 小吉
<恋愛>
長く近くにいた相手こそ、実は運命の相手なり。気づかぬふりを続ければ、良縁は静かに離れゆく。素直な心を持って、一歩踏み出すべし。
<待ち人>
すぐそばに在り。遠くを探すには及ばず。
<総評>
焦らず、されど油断せず。今年は、これまで見過ごしてきたものに目を向けるべし。
*
日向はおみくじを読みながら、なぜだか頬が熱くなるのを感じた。「長く近くにいた相手」という一文が、やけに具体的に思えてしまう。ちらりと横を見ると、壮太も自分のおみくじを、真剣な表情で読んでいた。
「壮太は何番だった?」
「……いや、別に、大したことじゃない」
「気になるから見せてよ」
日向は強引に、壮太の手元を覗き込んだ。
*
【壮太が引いたおみくじ】
第三十二番 中吉
<恋愛>
胸の内に秘めたる想い、いつまでも隠すべからず。相手はすでに、あなたの誠実さに気づいている。勇気を出す時、今なり。
<待ち人>
近くにありて、まだ言葉を交わさず。
<総評>
迷いを断ち切り、行動に移すべし。良き年の始まりとなるだろう。
*
「なにこれ、二人とも、内容が似すぎじゃない?」
日向が思わず声を上げると、壮太は気まずそうに視線を逸らした。
「……偶然だろ、こういうのは」
「偶然にしては、出来すぎな気がするけど」
日向は、自分のおみくじと壮太のおみくじを見比べながら、ふと真剣な顔になった。
「ねえ、壮太。私たちのおみくじ、『すぐそばにいる相手』って書いてあるけど……もしかして、それってお互いのこと、じゃないよね」
「……日向がそう思うなら、多分、そういうことなんだろうな」
壮太の頬も、いつの間にか赤く染まっていた。長い付き合いの中で、ずっと言葉にできずにいた想いが、おみくじという小さなきっかけで、ようやく表に出ようとしていた。
「あの、日向。おみくじに書いてあった通り、俺、ずっと隠してた気持ちがある」
「うん」
「日向のこと、幼馴染としてじゃなく、ちゃんと、好きだ」
境内に響く鈴の音の中、日向は小さく、しかしはっきりと頷いた。
「私も、同じ気持ちだったよ。ずっと、近くにいたのに、気づかないふりしてた」
二人は顔を見合わせ、照れくさそうに笑った。木箱に結ばれた無数のおみくじが、初春の風に揺れている。今年最初の運試しは、二人にとって、何よりも大切な答えを運んできてくれたのだった。




