地の守護獣は地下迷宮を疾走する
6話以降、久しぶりに話タイトルに巫女も騎士も入らなかったんですよ。今回ばかりはコレしかない。
楽しんでいただけたらうれしいです!
巫女長は神殿すべての戸締まりを確認後就寝する。巫女たちがすっかり眠りについた頃、ルクシラは各扉の鍵を確認して執務室へ戻ったところだった。
椅子に腰掛けて背もたれに体を預け、ため息一つ。
(少し、疲れたわ)
望んでいたことだ。ある程度覚悟もしていた。
長とつく役職にも、いやだからこそ地味な仕事はある、仕方ないとは思っていたが。
(なんなのあの日誌ぃぃっ!!)
机の上の一山、紙や冊子を思わず睨んでしまう。
施錠確認の前、ルクシラは書類と格闘していた。申請書や報告書はまだいい、問題は日誌の方だった。
字が汚すぎて読むのに時間がかかるわ、読めても内容が薄い、他人の些細なサボり行為の告げ口なんて、はしたない!
ドンっという音と手にしみるジンとした痛みにルクシラは口元を歪ませた。
言葉にできず、心中で吐露しても追いつかない感情が思わず机を叩きつけるという行為に現れたようだ。
(まだ、初日なのに。あの女はこれを毎日続けていたと……?)
脳裏に浮かぶ、穏やかそうな表情の女。
栄えある巫女長の座についてから、この苦痛を毎日味わいながらあんな余裕そうな表情で毎日過ごしていたのか?
(いいえっ! そもそもあの女がっ!!)
悪筆を直させてないから。
もっとしっかりした内容を書くように指導していないから。
はしたない告げ口を許して裏で優遇してるに違いない。
「すべて、あの女が悪いのよ」
怒りと恨みを思い切り乗せてルクシラは声を絞り出した。
そもそも己の思い違いを顧みることなく。
七つの、まだ巫女になりたての平民出身の少女は文字もいまだぎこちない。けれど彼女なり懸命に文字を書いている。
オルナを敬愛していた巫女はルクシラの巫女長代行を疑問に思い、不安視した。だから日誌にも当たり障りのないことしか書けない。
そして告げ口を書いた巫女は。
(もう、寝ましょう)
巫女の朝はそれなり早い。その分夜も早いがルクシラは巫女長としての役割を見覚えた程度でこなそうとしたため時間をかけすぎてしまった。
巫女長の寝室は執務室と隣接した一人部屋。気兼ねする必要がない。荷物は運んであるし、寝具も取り替えさせた。湯で体を清めればすぐに寝れる、はずだったが。
それはルクシラが椅子から立ち上がるのとほぼ同時だった。
「きゃあぁぁぁぁっっっ!?」
バキバキバキバキっという音とともに床下から何か巨大なものが床材を叩き割って飛び出してきた。あり得ないことにルクシラは腰を抜かしてその場に尻もちをついてしまった。
「な、な、に……」
光源は机に置いてある蝋燭のみ。現れたそれが何なのかルクシラにはそのすべてを把握することはできなかった。ただ、それが。
「ぐるる」
そんな唸り声をあげたから、巨大な生き物のようだと思い、さらに恐怖を抱くも腰を抜かしているため身動きがとれなかった。
◇◇◇◇◇◇◇
《神殿へ!》
は、いいけどよ。
スウォルの背にまた乗せられて、また地下まで落ちて、また風のように疾走っていた、が。
《あら? ココ行き止まりじゃない》
とか。
《この上は、さっきのところよねぇ?》
とか。絶賛迷子中のあたしたち。
ちなみにスウォルの背には頭の方からあたし・ティナ・オルナの順。ティナはちょっと嫌そうで、オルナはなんか申し訳なさそうにしてたけど、それが一番安定するとかなんとかスウォルがいうので仕方なく。
二度目だからか、周りを見る余裕が少しだけ出てきたようで、スウォルが疾走っている道がいくつも枝分かれしているのも見えた。
「一本道じゃなかったんだな」
「けっこうあちこち分岐あったよ?」
ぼそりと呟いたのに、ティナからさくっと返されて少しへこむ。
「まぁ、あの時のリアは歩くのに一生懸命だったし。宝珠の道しるべを辿るだけだったから、仕方ないよ」
他を補うのがわたしの役目だからね〜。
ティナは少し戯けてそう言うけど、それも少し刺さる。
歩くのに一生懸命になりすぎて周りに気を配れないってやっぱり問題だよなぁ。
旅慣れたら、あたしもティナみたいになれるのか? いや、あんな風に戦えるようになろうとは思ってないけどさ。
《ねぇ、アナタたちが最初に落ちたところってどんなところだったの?》
「え? どんなって」
「半球で、地底湖?」
あの場所をどう説明すればいいか考えていたらティナの方が早かった。うん、わかりやすい。
《ヤダ、そこなの!? それ早く言ってよね!》
いやそっちこそもっと早く聞けよ!!
こっちが悪いかのような言われ方に腹が立ったが、さらに突然の方向転換に頭がぐわんっと揺れて舌噛みそうになった。
いきなり真後ろ、来た道をしばらく戻って斜めの道へ。
なんか、オルナのところへ行った時より速くないか? 縦揺れもハンパねぇんだけど!
「なんでこんな急いでんだ?」
「日付が、変わる前に着かないと」
オルナの声がかすかに届いてあたしはティナの脇から顔を向ける。
「ここから、あとどれほどかかるのかわたくしにはわかりませんが、建国祭には巫女長が神殿にいる必要があります」
建国祭当日、日付が変わったその瞬間に巫女長が神殿の礼拝堂にある女神像の前にいる必要があると少し辛そうにオルナはいう。うん、この揺れ辛いよな。
知らなかったけど、神殿の建国祭はすでに深夜から始まるのか。
「それ、あの巫女は」
「知らないはずです。これは巫女長のみの口伝ですから」
巫女長の座を奪ったルクシラ。オルナがそれを伝えていなければあいつが知るわけないってことだ。
「突然拘束されて、あんなところに連れて行かれて。わたくし、もうどうにでもなれとすら思っていました。ルクシラが代行するというので、問題ないと高を括っていたところもあります。けれどスウォル様のお話を聞いては、さすがに戻らねば」
巫女長は資格喪失か辞めるまで巫女長であり、女神レヴィアータから認められる必要がある。
「巫女長が神殿にいないと、どうなるんだ?」
「わかりません。伝えられてないのです」
そんな例がないのか、理由がどこかで伝えられなくなったのか。
《もうすぐ神殿の下よ!》
スウォルの声が響いて、前方にあの地底湖が見えた。
「巫女長オルナ。ここからは遠慮せずわたしにしっかり掴まるように」
「は、いえ、ですけれどもっ」
「じゃないと、あなたが落ちる」
「お、落ちる!?」
だよな、だって。
《しっかり掴まりなさいよ、この壁登るんだから!!》
「えええぇぇ〜!?」
オルナの悲鳴が響き渡った。それと同時にあたしはスウォルの鬣を引っつかみ、腹回りをティナにしっかり抱きかかえられた。
ティナがあれから何も言わないから、オルナもちゃんとティナに掴まったのだろう。
奇妙な浮遊感。スウォルは半球の壁を駆け上がり、天頂部の穴へ跳んでさらに上昇していき、その強靭な前肢で今度こそ執務室の床を破壊して躍り出たのは、腰を抜かしたルクシラの前。
《アナタね、この泥棒猫がっ!》
「ひ、ひぃぃ〜!!」
えーと、泥棒猫の使い方間違ってないか?
スウォルの頭越しに腰を抜かしたルクシラが見えた。恐怖に染まった顔が蝋燭の光でかすかに見える。こちらへ向けるおびえた表情。スウォル、机に脚かけるなよ。ルクシラに脅し掛けてるつもりかもしれないけど、守護獣というか、害獣みたいで。
ん? もしかしてコイツ。
《オルナ、この娘は本当に巫女なのかしら?》
この泥棒猫がっ! はちよっとお気に入りです。一般的な使い方じゃないのにあながち間違いじゃないような気がする用法。いや、一般的じゃないですよ、もちろん。
来週の更新はお休みで、次回は10/10頃の予定です。
読んでいただきありがとうございました♪




