女神の巫女は地の巫女長と再会する
楽しんでいただけたらうれしいです!
「リアさん、ティナさんに……スウォル様っ!?」
薄暗い部屋の中に巫女長オルナがいた。
驚いた顔をしてるけどこっちも驚いてるよ。巫女長の執務室に戻って、ないけどオルナはいるし。なんで?
ところでスウォルって誰だ?
《え、あら? アタクシの名前を知っているの? アナタは誰?》
スウォルとは地虎の名前らしい。名前、あったんだなぁ。
あたしとティナは地虎、もといスウォルの背から降りて隣に立ち、二人(一人と一匹?)の話を聞くことにした。
オルナはスウォルに向き直って左手を胸に当てて軽く頭を下げた。守護獣への挨拶、みたいなもんか?
「わたくしはオルナと申します。前の巫女長より御名は伺っておりましたが、人がお嫌いとも教えられましたので代替わりでお会いすることなく」
《………そう、アナタが今の巫女長なのね。先代の名は? カルディア?》
「えっと、その、巫女長カルディアはいまから百年ほど前の巫女長です」
《百年。そうなのね》
百年。弱々しく響いたその言葉。スウォルの身体から力が抜けたように感じたのはきっと気のせいじゃない。
巫女長の任期はどの神殿でもそんなに長くない。長くても五年くらいだったか? カルディアってひとが地虎スウォルが知る最後の巫女長なら、そこから百年くらい誰もスウォルの前に現れていないことになる。
落ちた沈黙が気まずくて、あたしはあたりを見回した。
ここ、まず窓がない。家具もない。
寝床は、床に寝具を直に敷くのか? 畳まれた布団が隅にちょこんと置いてある。いや、壁に大きくへこんだところが見える。あそこに布団を敷いて寝るんだろうか。
窓はないけどうっすら明るい。見上げると天井はなくて、かなり高いところに何本か梁が通ってそのうえに屋根らしきものがある。その一部から弱い日の光が差し込んでいた。明かり採りの窓がいくつかあるみたいだ。三角屋根で二階はない平屋ってやつか。
「巫女長オルナ。ここはどこなんだ?」
「ここは領都の外れで、神殿の薬草園にある作業小屋です。薬草園はいま近隣の村へ農地として貸しているためここも使用していないのですが」
おもわず口を挟んじまったあたしにオルナは教えてくれたけど、謎はさらに出てくる。
「巫女長のあんたがなんでそんなところに?」
《そうよ、巫女長ならどうして執務室にいないの? ここがどこかわかんなくてちょっと焦ったわよ》
スウォルは巫女長の気配というか、そういうものを辿ってここに来たらしい。しかし執務室に出ると思ったのに全然違うとこに出て焦ったんだと。それでオルナを責めるのは筋が違うと思うけどな。
「わたくし、近く巫女長の任を解かれることになりまして、先ほどここへ収容されたのです」
「はぁ!?」
《解かれる? なぜ?》
あたしの叫び声とスウォルの問いかけがほぼ同時だった。
まだ小さな巫女にあんだけ慕われてる巫女長が辞めるって、しかもその言い方だと辞めさせられるヤツだろ? なんでだよ?
「建国祭を前に、神殿の風紀を乱した、と」
穏やかな、というか、いろいろ諦めたような表情のオルナ。なんか、その腑抜けたツラに腹が立ってきたけど、あたしよりもスウォルの方が先に声を上げた。
《神殿の風紀を乱して巫女長解任ですって? それならその前に巫女の資格を失うものだわ》
「ですが」
《資格喪失か、自らの意思で巫女をやめる以外に巫女長の解任なんてありえないわ。アタクシが感知してここへ来たのだから、巫女長はまだアナタよ》
「あの子は、ルクシラは自分を巫女長代理だといいました」
《巫女長の代理なんてもっとありえないわ。自ら名乗ったならそれはただの簒奪者よ》
「ここに収容しておけばそのうち音を上げて巫女を辞するとでも考えたのでしょうか?」
《それでも、巫女長か神殿長の指名がなければ候補にもなれないでしょうに》
「神殿長が指名するでしょうね、」
《はん! 神殿長ってヤツはどいつもコイツも、道理も条理も真理を弁えない、己の偏った正義を振りかざすだけで、愚かな》
ホント、神殿長って奴はどこでもロクでもないんだな。
あたしの記憶にある、本神殿の前の神殿長はまだマシだったけど、今の神殿長はかなりの貴族優遇体質だからな。きっとココの神殿長もアイツと似たようなもんだろうよ。
にしても。スウォルの口調が変わった。それが素か? 素なんだな? あたしのこと口が悪いとか言ったけど、お前も大概だぞ。
「風紀を乱した、とは? 巫女長オルナ」
ティナの静かな、けれど硬い声がその場に落ちた。
「わたしが見る限りだけれど、あなたは巫女たちに慕われている良い巫女長に見えた。であればいつもと違うことが起こって、それに対応するあなたへの不満が噴出したということじゃないのか?」
「ほぼ、おっしゃるとおりですわ」
「ならば、わたしたちが」
「いいえっ! お二方のせいではありません!」
どういうことだよ、あたしたちのせいでオルナは巫女長を辞めさせられるのか?
《せい、じゃなくてダシにされたのよ》
ダシ? なんでスープのダシが出てくるんだよ。
《やめてくれる? そういう思考。笑いそうになったじゃない。ダシっていうのは口実ってことよ。いっとくけど、この声はアナタにしか聞こえてないからね》
「わたくしが、巫女長になる際にも揉めたのです」
たしかにスウォルとの話はオルナには聞こえていなかったようだ。変わらずに話を続けている。
「先の巫女長はわたくしを次期巫女長の候補へ推してくださいましたが、神殿長は他の巫女を推挙しました。幸か不幸か神殿長推挙の巫女は近いうちに辞める予定だからと辞退したため、わたくしに決まりました。しかし神殿長はいまでもれっきとした貴族出の巫女を長に就けたがっているのです」
《もともとこのコを巫女長に就けたくない神殿長の派閥がアナタたちの存在をダシにしてこのコを巫女長から退かせようとしたってところかしら?》
「それじゃあ、やっぱりあたしたちのせいじゃねーか!?」
「リアさん、」
《アナタたちはアナタたちにとって必要な行動をしているだけでしょう? それを勝手に利用して難癖つけてるのはヤツラ。アナタが気にすることではないし、本来なら》
スウォルが何か言おうとして、止めた。
《巫女長はね、最終的に女神レヴィアータからその役割を賜るのよ。それなくしてなれるものではないわ》
「スウォル様……」
オルナの、スウォルを見る目が何か尊いものを見るみたいに潤んでるのは、気のせいか? いやまぁ守護獣だもんな、こんなでも。
やべ、睨まれた。
「てことは、オルナはまだ巫女長だってことだよな?」
「わたくしは、まだ巫女でいられるのですか?」
すがるような目をスウォルへ向けるオルナ。
《当然、いえ、それどころか巫女長でいてもらわなくちゃ、そうよ、逆に問題よ!》
スウォルは急に何を思い出したのかわからんけど慌てたようにすくっと立ち上がった。その体毛がぶわわっと風と光を含んで膨らんだように見えたのは、きっと気のせいだ。
《行くわよ、神殿へ!》
読んでいただきありがとうございました♪




