女騎士は女神の巫女が可愛くて仕方がない(後編)
話タイトルに悩んだ末、こうなりました。
楽しんでいただけたらうれしいです!
「取引だ。神具について、テメーが知ってること全部教えろ。そしたら顔の下半分も治してやる」
《はあぁ〜っ!?》
そのやり取りにティナはぐっと手で口元を押さえた。そうでもしないと爆笑しそうだ。
地虎の間抜け面にはまた笑えるが、交渉することを覚えたリアに感慨深さを覚えながら。
(リ、リアの悪人顔っ………!?)
まっすぐ地虎を見つめるリアの片方の口端がくっと上がっている。彼女の中では少し良心が咎めているのかもしれないが、自分達に文字通りに牙を向けた相手だ。必要な情報を得るために少しばかり困らせてやろうという気持ちが見て取れる、が。
(可愛いんだって!)
それに交換条件が相手に有利ではないだろうか。
《アナタ、口は悪いけれど根は善人なのよね》
「あ? なんでだよ」
《まぁいいわ。神具のことは教えて差し上げる。アタクシの牙とアナタが持っている女神から賜った宝珠を出しなさい》
流血した状態で居丈高に振る舞う地虎にティナはむっとしつつ、言われるがまま牙を拾うために屈もうとするリアを慌ててとめる。
「リアはそのまま。牙はわたしが拾うよ」
「む、わかった。頼む」
目線を地虎から離すことなく、ティナは二本の牙を拾い上げるとまとめて左手で持ち、リアへ渡す。剣をは右手に持ったまま。地虎がそんなティナを呆れたように見ていたが、警戒を解くことは今この時だってあり得ない。
「これでいいのか?」
リアの小さな二つの手のひらいっぱいに乗る水晶、否、六つの宝珠と地虎の牙が二本。
《いいわ。そのまま動かないように》
不思議な旋律が流れ出す。直接頭に響くものでなく、たしかに耳に届いた音。高く、低く、女声のようで男声にも聞こえる不思議な声色のようで、器楽の奏でる音のようでもあり。
けれどそれは間違いなく地虎が歌っていた。
「ふぁ……」
リアの口から珍しい音が漏れる。チラと視線を投げると、見たことのない表情をしていた。わずかに紅潮した頬と、とろりと地虎を見つめる眼差し。それはまるで憧れの相手を見るようで。
いつの間にか音が止み、リアの手には小さくなった牙が宝珠とともに連ねられていた。
《神具はそれぞれの守護獣が持っている身体の一部を集めて作るのよ》
水神殿には水の守護獣、風神殿には風の守護獣。それぞれの地でそれぞれの守護獣と会って必要なものを受け取ればいいと地虎は言う。
「どうやったらそいつらに会えるんだ?」
《それは、わからないわ》
ティナはすかさず得物を構えた。
《ちょっ、待って! だって最後に会ったのがもう何百年も前なのよ!?》
地虎いわく、各領からは出ていないはずだが神殿に棲んでいるかどうかは当人…当獣たち次第。
《アタクシたちの存在を知っているのだって巫女長だけ。でも、もしかしたら途絶えてしまっている可能性があるわ》
地、水、風の三神殿ができてから千年近く。神殿の有り様も守護獣たちの状況も変化している可能性が高い。地虎同様に。
「そういえば、どうして地虎はここにいるんだ?」
ここは神殿の地下深く。かなりの深度だろう。こんな所になぜいるのか。
《そうねぇ。簡単に言えば、何代かに一人必ず長にロクデナシが出るから、よ》
ティナからあー、と声が漏れる。リアも目の光がすんと消えた。今の本神殿を思い浮かべたのだろうと想像がつく。
《アタクシは何代か前の神殿長に首輪をつけられそうになったのよ》
当時の地神殿は貴族が権威を振りかざしていた。ちょうどいまの本神殿のように。
それまで地虎はティナの認識同様に伝説上の守護獣として敬われる存在だった。実在していることは密かに巫女長にのみ伝えられるだけ。
地虎はもともと人間がそれほど好きなわけでなく、代々の巫女長にも頻繁に会いに来る必要はないし、いないものとして扱えとも伝えていた。しかし、時の神殿長は地虎が実在していることを知り、巫女長を脅して地虎を自分の前に連れてこさせ、愚かな望みを口にした。
「望み?」
《守護獣という存在を勘違いしているとしか思えない、阿呆な望みよ》
地虎がそれをきっぱり断ると、神殿騎士たちに命じて押さえつけ、首輪と足輪を無理やりつけようとした。そしてあろうことか檻に入れて見世物にすると告げたのだ。
《アタクシもうブチギレてしまって。全員ぶちのめしてやったわ》
「全員、殺したのか?」
《いいえ、誰も死んではいなかった》
その場は血の海と化したが、死者は出なかった。我を忘れても神の眷属たる獣。人間を殺すことには抑止がかかるらしい。
《それに全員と言っても神殿長とアタクシに触れた神殿騎士たちだけよ? 他にはなーんにもしていないわ》
実際のところ巫女たちは全員無傷だった。しかしその中には地虎を見世物にすることへ賛同したものも多くいた。特に貴族出身の巫女が多かったようだ。それもあってか返り血を浴びた地虎とその場の惨状に恐怖し気を失ったり、ひどいと気が狂ったものもいたという。心身ともに正常と言えたのは地虎の身をひたすら案じて周囲へやめるように訴え続けていた巫女長と、声は上げられずとも守護獣という存在に畏怖と敬意を抱いていた少数の巫女のみ。
《アタクシは言ったの。これからアナタたちの前に絶対に姿を顕さない、それが互いのためだって》
一切書き残すな。敬う必要もない。これまでどおり代々の巫女長にのみ伝えること、と。
《どうしてもアタクシが人に会わなければならない時があるもの》
そう、まさに今だ。
神具を新たに作るための旅、すべての神殿を巡る長い旅へ身を投じた巫女とは会わずにすまない。
《そのためにあの歌を作って、アタクシはここに引きこもったの》
「あの、歌?」
《アナタが歌った、礼拝堂で歌われるはずじゃないあの歌よ。あの歌を歌ったものがいたら巫女長にはすぐわかるし、ここに案内するように代々伝えられてるはずなのよ》
リアと地虎の話を聞きながら、ティナは自分の口を押さえてあふれ出そうな声を必死で押し留めた。
すべてはまさに今この時に至るためだったのかと。
まだ旅は始まったばかりだ。けれどすべきことはおぼろげでも分かった。
(けど、まだだ。リアにすべてを話すのは)
約束通りと地虎の顔を癒すリアを見ながらティナはまた一つすべきことをこころに刻む。
◇◇◇◇◇◇◇
帰りはなんと、地虎がその背に乗せてくれるという。ティナは少々躊躇ったがあの四時間以上かかった道のりがあっという間だというのでしぶしぶ乗った。
乗り心地は悪くない。かなりの速さで横穴を駆け抜けていくのだが。
「ちょっと、まて!?」
行き止まりになって気づく。
あの地底湖がない。ここはティナたちが落ちた場所ではないということだ。
《さぁ、これから上昇するからしっかり掴まってなさいよっ!》
ここじゃない、道を間違えてる、そう言いたくても口を開けば舌を噛みそうでしゃべることがままならない。リアは、恐怖からかすっかり顔を伏せてしまって周囲の状況に気づいていない。
上昇する。
そう地虎が言ったということはここにも縦穴があるということだ。実際に地虎は勢いをつけて跳び上がると壁を強く蹴って、反対の壁へ。蹴って蹴ってどんどんと縦穴を上へ上へと登っている。
それを何度も繰り返してティナが暗さに目が慣れたころ、頭上に閉じられた床が見えた。このままでは激突するかと思ったが、地虎の強力な脚力によってバキバキバキと木材は割れ砕け、地虎は二人を背に昏い地下から躍り出たのだった。
が。
「リアさん、ティナさんに……スウォル様っ!?」
《え、あら?》
そこは薄暗く狭苦しい小部屋で、巫女長の執務室ではなかった。なのに、そこにはティナとリアを地底湖へ落とした巫女長オルナがいた。
読んでいただきありがとうございました♪
エピソードタイトルはしっくり来るものがあれば変更しようかと思ってます。




